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あいまいっ!  作者: 遠山竜児
第2章
34/36

3月29日(火)その時がきたら……

 ――結局、私がビリのまま、本日のカラオケフリータイムは幕を閉じた。

 颯姫は98点を叩き出し、私は僅か一点差で蒼に敗れ去った。

 ――颯姫の歌は反則過ぎるわ……

 本気で歌手を目指してもらいたいくらい。そしたら毎回CD買って、ライヴも通い詰めてあげるんだから。

「穂波が罰ゲームかー。こりゃ楽しみだぜ」

「どんなのにしよーか迷っちゃうね! やっぱり羞恥系? すんごく恥ずかしいことしてもらおっか!」

 朝の10時から夜の7時まで、途中にお昼やガールズトークを挟みながら、私達は9時間もカラオケを楽しんだ。

 3人ともかすれた声で喋りながら、カラオケ屋を出て駅へと向かっている。

 駅はすぐそこにあるのに、人込みを掻き分けるように歩いているから妙に遠くに感じられる。

 空はもう暗く、ネオンの光りが辺りを照らしていた。季節はまだ3月。この時間だとやっぱりまだ肌寒い。

「や、やめてよ! あんま恥ずかしいのは!」

「さーて、どうすっかな~」

「う~ん……あ、そうだぁ!」

 蒼はテクテクと前に歩き出て、私と颯姫に振り向いた。

 そして、嫌な予感しかしない、悪巧みしているのがバレバレな笑顔で、

「お兄ちゃんにキスする、ってゆーのはどうかな?」

 案の定、とんでもないことを言い出した。

「おお! いいねそれ! 見たい見たい!」

「でしょでしょ!

 ……兄妹同士で重ね合う唇。初めは罰ゲームだった。けれど、お兄ちゃんラブな妹は禁断の愛に酔いしれ、次第に身も心もとろけていく……」

「『ったく、仕方ねえ妹だな』『うるさいうるさい! 罰ゲームなんだから仕方ないでしょ!』『ははっ、素直になれば良いのによ。俺だって嫌じゃねえんだから……』『アンッ! あ、兄貴ぃ……』……ってか? イイねイイねェ、最高じゃねえか!」

 ……禁……断の愛…………?

 ……最高?

「……………………お、お、おー……」

「ん? オーケー!? 穂波ちゃんやっぱりお兄ちゃんのこと!」

「お……お前いっぺん死ねェェェ!!」

 ドガッ!

 周りにたくさん人がいるのも忘れて、蹴りを出してしまった。

「アイタッ! 穂波ちゃん、蹴りはもっと酷いよぉ! あ今パンツ見えた――って痛いっ! 靴履いてるんだからさすがに痛いよ! 蹴られるよりは踏まれるほうが好きなんだけど……ってグハッ!」

 私が兄貴にキス……?

 ……って、そんなことできるわけないじゃない!

 あ、兄貴なのよ! 自分の!

 兄妹同士でそんな破廉恥なまねなんて……

 考えただけでも、ドキドキ……じゃなかった寒気がしちゃうわ!

「アッハハハ! ほ、穂波、顔真っ赤だぞ、そんなにコーフンするなよっ」

 ツボに入ったのかゲラゲラ笑いながら、颯姫が頭をゴシゴシと撫でてきた。

「コーフンなんかしてない! ……もう! 颯姫までからかわないでよ!」

「ハハハ、わりーわりー。でもよ、キスするのも良いかなってちょっぴり思っただろ? 顔に出てたぜ」

「え!? 嘘ぉ! ヤダ私ったら……」

 そんなそんなそんなぁ……

 顔に出てた!?

 ……やっぱり私、兄貴にキスしたいとか心の奥で思ってるわけ……?

 た、確かに、兄貴が土下座して「一生のお願いです! キスしてください!」とか言ってきたら、仕方なく、ほんっとーに仕方なく、頬っぺたにならキスしてあげても良いんだけど、

 ……だからって、私のほうから兄貴にキスしたいとか、そんなのって……

「……ってまさか図星!? テキトーに言ってみただけなのに……」

 …………

 ………………っ!?

 テキトーに言ってみた!?

「って違う! あ、ありえないんだから! 嫌嫌嫌嫌ぜーったいに嫌! 兄貴とキスなんて死んでもごめんだわ! バカなこと言わないで!」

 は、はめられた!

 私としたことが……!

「穂波ちゃん可愛い! 兄萌えのツンデレだなんて、どんだけ私の好物なんですかぁ!? 穂波可愛いよ穂波ぃ!」

 ギュッ!

 大好きなぬいぐるみに抱き着くみたいに、蒼が私に飛び掛かって締め付けてきた。

「離れなさいヘンタイ! あ、ああ兄萌えなんて冗談じゃない! そんな嗜好はこの世から廃絶されるべきだわ! それに私はツンデレなんかじゃないんだから!」

「ツンデレブラコン妹……キャー! 萌えるー! 穂波ちゃんだけでご飯3杯はイケるわぁ!」

「――って、人の話を聞け!」

 キャーキャーと叫ぶ蒼を引きはがそうとしても、力強く抱きしめてくるのでなかなか上手くいかない。何かのスイッチが入ったみたいだ。

 ――まったく、なんで蒼も颯姫も、ブラコンがどうのこうのとか言ってくるのよ……

 こっちは真剣に悩んでるってゆーのに。


 ――自分の気持ちに正直になれたら、どんなに楽なのだろう。

 禁断の恋なんて、小説やドラマの中だけの話だと思ってた。そのいくつかに、私も憧れを抱くこともあった。

 けれど、いざ自分に降りかかってくると……

 辛い。

 身分違いの恋や、友達の彼氏との恋。そんなものだったらまだマシだったかもしれない。

 けど、私の相手は、兄貴。

 生物学的にも社会的にも交わることの許されない、肉親。

 小さい頃から一つ屋根の下で過ごしてきた、家族。

 恋愛を否定される要素なら、いくらでもある。恋愛をしたところで、幸せになれる保証なんて皆無。

 人として失格

 そんな烙印を押されても、文句は言えないんだ。

 なのに…………

 日に日に、気持ちを抑えきれなくなってくる。

 今はまだ、兄貴に恋なんかしてないって自分に言い聞かせていられる。

 けれど、いつまでもそうしていられるわけじゃないってことは、わかっている。


 最近はなんだんだ言っても、浮かれていた。兄貴との生活を楽しんでいた。

 兄妹以上恋人未満

 そんな関係も、悪くはないな、って。

 けど……

 ――急に、不安になってきた。


 いつかその時が来たら……

 私は、どうすればいいの?

 兄貴は、私のことを一生幸せにするって豪語してくれた。あの時は、その言葉にすごく安心できたんだ。

 けど今は……


 私はそれを、信じて良いの?

 私は兄貴を、自分の感情を、受け入れても良いの?


 わからない……

 わからないよ……


「穂波……ちゃん?」

「ほ、穂波! 俺が悪かった! からかいすぎた、すまねえ!」

 不安げな顔で上目使いに見つめてくる蒼に、両手の平を合わせて頭を深く下げている颯姫。私のブルーな気持ちが、今度は本当に顔に出ていたみたい。

「……べ、別に怒ってないわよ。もうこの話はおしまい。さあ、帰りましょ」

 笑顔の仮面を、上手く貼り付けることができたかわからない。けど、こうするしかなかった。

 だって、2人に相談できるわけないじゃない。

 颯姫も蒼も本当はすごく良い友達だから、相談したらきっと真剣に聞いてくれる。もしかしたら、良いアドバイスをもらえるかもしれない。

 ……それでも、この悩みは知られたくなかった。

 だって恥ずかし過ぎるし、なにより……

 打ち明けたらきっと、その後の関係が気まずくなるから。


 心配そうな顔をする颯姫と蒼だったが、一先ずこの話はおしまいになったようだ。

 私達は再び歩きだし、駅へと向かうところで――

「穂波、アレって……」

「……っ!?」

 ――駅の出口を少し出たところにある犬の銅像の横で若い女と2人で親しげに話している、私の兄貴を見つけた。

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