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あいまいっ!  作者: 遠山竜児
第2章
32/36

3月29日(火)歌うぞオメエらァ!

☆☆☆


 B駅を出た私達3人は、駅前のとあるカラオケ屋にいた。

 レジで受け付けをして、ドリンクバーでコップにジュースを注ぎ、自分達に与えられた部屋に入っていった。そして、颯姫、私、蒼の順でソファーに腰掛けている。

 室内は薄暗く、非常に雰囲気が出ていた。テーブルや壁といった内装も綺麗で、これなら気持ち良く歌えそう。

 カラオケ用のテレビ画面からは、最近デビューした女性歌手のプロモーションビデオが流れている。その「GO!GO!GO!」という歌詞がまるで、私達に早く歌えと催促しているようだった。

「ほらほら颯姫ちゃん、いつまでもいじけてないで、嫌なことは歌って忘れましょ」

 マイクを颯姫に差し出し、ニッコリほほ笑む蒼。

 ちょっと前まで涙目だったのに、その面影は微塵もない。切り替えの早い女だわ。

「うるっせえんだよチビ助。そう簡単に忘れて堪るかってんだよ」

 マイクは受け取らずに、ツーンとそっぽを向く颯姫。

 こっちは切り替えができていないみたい。恥ずかしさからか、まだ顔が赤い。

「颯姫、元気出して。今日は久しぶりに一緒に遊べるんじゃない。楽しまなくちゃ損だわ」

 颯姫の肩に手を添えて、私も颯姫を慰める。

「そうだけどよ……。でもあんな……恥ずいこと言っちまって……」

 ますます顔が赤くなってきた颯姫。

 正直……可愛い。

「颯姫ちゃん、私が悪かったよね……。からかったりしちゃってごめんね。今日は颯姫ちゃんがタダ券持ってきてくれたのに……。

 颯姫ちゃん普段兄弟たちのお世話で忙しくて、久しぶりにカラオケ来れたってゆーのに……」

 ちょっとしおらしくなった蒼に、颯姫は慌てて顔を向けた。

「う、うるせえ、謝るなよ…………ったく、しかたねえ」

 一旦言葉を止めて蒼の手からマイクを引ったくると、電源を入れて、

「……おいオメエら! 今日は9時間ぶっ通しカラオケフリータイムだぜこのヤロォ! 気合い入れて行こうぜ!」

 立ち上がって叫んだ。

 さながら、ロックバンドのライヴのMCみたいに。

「うん! 楽しもう楽しもう!」

「やったぁ! 颯姫ちゃん、今日は1番点数低かった人は罰ゲームだよ!」

「上等じゃねえか! そんじゃ……歌うぞオメエら!」

「「おーう!」」

 私と蒼も、ハモりながら叫んだ。

 うんうん。

 楽しい一日になりそうだわ。



 トップバッターは颯姫。

 ――もうホント、超超超カッコ良い!

 男性ボーカルのロックバンドを、ライヴで歌っているみたいに煽りとかシャウトとか入れながら熱唱しているんだもの!

 しかも超上手い!

 バンドのヴォーカルのスカウトとか来てもおかしくないくらい!

 その圧倒的なパフォーマンスに、私と蒼もノリノリで手拍子を打った。

 ――カッコ良いカッコ良いカッコ良い……

 本当に颯姫はカッコ良い。


 ――颯姫の家は父子家庭の5人兄弟で、普段は颯姫がお母さんみたいな役割をしている。だから家事とかが忙しくてあまり一緒に遊べないんだけど、今日はお父さんの仕事が休みで、家事はお父さんに任せてきたみたい。

 しかも、そのお父さんから、たまにはハメを外してこいと言われてカラオケフリータイムのタダ券を3枚も貰ったらしい。

 そんなわけで、今日の颯姫は開放感バリバリでめっちゃハイテンション。

 1曲目にして、テーブルの上に片足を乗せてエアギターを弾き始めた。

 でも上手い。

 カッコ良い。

 すっごく様になっている。


 セカンドバッターは蒼。

 こっちものっけからハイテンション。

 今流行りの女性アイドルグループの曲を熱唱している。しかも振り付け付き。

 点数勝負を提案してくるだけあって、蒼の歌もかなりのものだった。歌も踊りも洗練されている。

 それになにより、すっごく楽しそうに歌っているんだもの。

 見ているこっちまで楽しくなってくるわ。


 そしてサードバッターは、私。

 喉慣らしを考えて、自分にとって歌いやすい曲を選んだ。私の好きな男性シンガーソングライターの曲だ。

 まあまあのベテランで、私の年代じゃそこまでファンな人は多くないと思うけど、テレビコマーシャルのタイアップ曲とかで知名度はすごく高い。

 案の定、私が歌うと颯姫と蒼もノッてくれた。サビで一緒に歌詞を口ずさんでいる。


「よっ、お疲れ~!」

「上手だったよ、穂波ちゃん」

 歌い終わった私を、拍手で労ってくれる2人。

「当然だわ! 今日の優勝は私が貰うんだからっ!」


 そして、私の歌の採点が始まり――

 全員が一回歌い終わった時点で、点数の順位は、

 颯姫

 蒼

 私。


 ――だ、大丈夫よ!

 蒼と私は2点しか離れてなかったんだし、イケるイケる!

 ば、罰ゲームになんかならないんだから!



 ――結局、2時間経っても順位に変動はなかった。

 最高得点は颯姫の96点。

 ――勝てる気がしない。

「こりゃ優勝は俺がもらいだな! 悪いねぇ、お二人さん!」

 自信満々な笑顔でソファーに踏ん反り返り、ナポリタンをフォークで絡め取っている颯姫。

 ちなみに、私と蒼も同じのを食べている。歌はちょっとおやすみして、お昼を摂ることにしたのだ。

 颯姫がくれたタダ券にはナポリタン無料のサービスも付いていたから、私達はこうして、値段高いから普段は食べることのないカラオケ屋のフードメニューを味わっている。

「甘い、甘いですよ颯姫ちゃーん。私はまだ、本気を3割も出してないんですぅ」

「何言ってるのよ、私なんか2割だわ。私が本気出したらアンタたち感動してボロボロ泣いちゃうから仕方なーくセーブしてあげてるの」

「おうおうおうオメエら。男なら初めから全力投球、一曲入魂だろうが。魂込めて歌ってやらねえと、作った人に失礼だぜ」

 バカなやり取りをしている私と蒼に、余裕の笑みを浮かべて男らしい格言を言い放つ颯姫。

「私達は全員女ですよーうだ。颯姫ちゃん、女の子なのに男なら~とか言ってると、彼氏できないよぉ?」

「ハッハッハー。言ってくれるじゃねえかチビ助ェ。こう見えても俺は、中学入ってから4人の男子に告られたんだぜ!」

「それ何度も聞いたわよ。颯姫ったらモテモテなんだからっ。うらやましいわ」

「ええ~? でもぉ、颯姫ちゃんに告白してきた男子って、みんなドM疑惑のあるヘタレ系男子だったような……」

「う、うるせえ! た、確かに、その男気に惚れたとか強いところが良いとか下僕にして下さいとか、ろくでもねえ告白ばっかだったけどよ……って、そんなの知るか!

 つーか穂波! オメエがうらやましいとか言ってんじゃねえぞリア充が! ええ? おいよぉ、りゅーくんとやらとはどこまでヤッたんだぁ? お姉さんに言ってみなぁ?」

 イジワルな笑みを浮かべた颯姫が、私にグイグイ迫ってくる。

「ちょっ、颯姫! 首絞めないでよ!」

「ほらほらほら! 正直に言わないとお仕置きしちゃうぜ~!」

「蒼も聞きたいですぅ! 穂波ちゃん、もうエッチいこととかしたの? ねえねえ!」

「ちょっ、なんでそんなこと言わなくちゃならないのよ! べ、別にキスすらしてないし! だ、第一……

 ……もう別れたわよ! あんなヤツとは!」

「「………………ええ!?」」

 ――い、言っちゃった……

 別に隠す気はなかったけど、いつ言おうか迷ってたのに……

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