3月28日(月)これは、妹を護るためなんだ!
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そういえば、穂波は虫の類が大嫌いだったっけ。蚊や蝿にすら過剰に反応するやつだったな。
家に虫が出たときは、母さんか母さんがいなかったら仕方なく父さんに、穂波は退治を頼っていたのだけれど……
久しぶりに、今回は俺だった。
しかも出没したのがゴキブリという超ハイレベルの気味悪生命体だったからか、テンパり具合が尋常じゃなかった。ギャップ萌えどころの話ではない。ギャップを利用した殺人技だ。俺の理性を壊さないでくれ。
そんなことを考えながら穂波の部屋でゴキブリを探していたのだが……
結局、20分探し回っても見付からなかった。
代わりに、ボタンが全部外れたパジャマのシャツを発見した。……アイツ、一体何してたんだ?
ゴキブリ退治を諦めて俺の部屋に戻ると、穂波が俺のベッドで膝を抱えて座っていた。俺が渡した黒いジャンパーはブカブカで、手が袖から出ていない。
「……ゴキブリ、見付からなかった。巣に帰ったのか、どっかに隠れてるのか……」
俺の報告を聞くと、穂波は真っ青になった。
「イヤ……もうイヤ! 最悪最悪最悪! 何であの野郎が私の部屋に出るの! ありえない! ……もうイヤ……」
「落ち着けって。明日、バルサン買ってきてやるから」
「……ゴキブリホイホイも。……100個ほど」
「んなに買えるか」
「……どうしよう……部屋で寝れないよぉ……」
……………
…………………………俺は今、何を考えた?
穂波に何を言おうとした?
……確かに、ゴキブリが未だに潜んでいるかもしれない部屋で寝るのは、女の子にとっては自分を狙う殺し屋と添い寝するに等しいだろう。
だからって……
「俺の部屋で一緒に寝るか」、って何だよ!
ゴキブリに託けて嫌らしいこと考えてんじゃねえ!
バカ!? バカなの俺は!?
これじゃバカ兄とかエロ兄って呼ばれても仕方ないよな!?
もし穂波と同じ部屋で寝ることになったら……
穂波をベッドで寝かせて俺が床で寝るとしても、寝顔とか寝息とか……ば、爆弾が多過ぎる!
眠るというのは無防備になるのと同義で、そんな無防備な姿の穂波を目にしたら俺は……
――想像するだけで、恐ろしい。
自分が前科者になる姿がありありと目に浮かぶ。
――ああけど、穂波の寝顔……見てみたいかも……
……って、だ、か、ら! 俺は何を考えて……
「兄貴、今夜は兄貴の部屋で……寝て良い?」
「……………………は、はい?」
お前、俺の心でも読んでた?
「ゴキブリ怖いから……一緒に寝て」
「……ちょっと待て! 何で一緒に!? 自分の部屋で寝れないのはわかるけどよ、母さんの部屋とか父さんの部屋とか空いてるだろ!」
「……もしゴキブリが出たら、兄貴に退治して欲しいから……。私の部屋以外にも、いるかもしれないし……」
「……ま、まあ、確かにそうかもしれないが……、けどよ……」
「……兄貴なんだから、少しは役に……立ちなさいよ……」
「お、……おう」
……って、何頷いてんだ俺は!?
そ、そこは何とかして別の打開策を思案するところだろ!
まあでも、確かに理由は正統のような気も……
そうだ。俺が考え過ぎなだけなんだ。だいたい兄妹なんだから、一緒に寝るくらい不自然なことじゃない! だって昔は同じ部屋で同じベッドで寝ていたわけだし! 兄貴なんだから、ゴキブリから妹を守ってやる義務があるわけだし、何より妹が安心して眠れるようにするのは兄貴として当然だし、義務当然必然妥当適切…………………………
「じゃ、じゃあ、お前が俺のベッドで寝ろ。俺は床で寝るから」
承諾、しちまった。
「べ、別に私が床でいいわよ。……兄貴に悪いし……」
「気にしないでいい。俺も3日に1回くらいは床で寝てるし」
壮絶に下手くそな嘘しか言えなかったが、穂波は「わかった……ありがと」と了承してくれた。……妹を固い床の上で寝かせるわけにはいかないからな。




