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あいまいっ!  作者: 遠山竜児
第2章
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3月28日(月)共同作業を兄妹で

 穂波が作ってくれた夕食を食べ終わり、俺はキッチンで洗い物をしていた。

 両親がいない間は、食事担当は穂波、洗い物担当は俺という分担だ。

 ゴム手袋に包んだ手で、食器を一つ一つ泡だったスポンジで磨いていく。面倒臭いと思ったことはない。むしろ、三食飯を作ってもらっているのだから、洗い物するくらいじゃ釣り合わないとさえ思っている。それなのに穂波は、洗い物も自分がすると言ってきてくれるのだ。

「ホント、良い妹だよな、アイツは……」

 ちょっと前なら、そんなこと絶対に思わなかった。穂波は人に対する好き嫌いの激しいやつで、気に入った人にはとことん優しいくせに俺のような気に入らないやつは邪険に扱う。そんな二面性のある性格は好きじゃなかった。なかったんだけど……

 いざ自分が気に入られた側になってみると、なんだかんだ言って心地が良い。俺も結局は、自分本位だったってことだ。今まで冷たくされてた分、「デレ」の破壊力が核ミサイル並になっている。まさに殺人的なかわいらしさだ。

「嫁にしたいわ……、妹じゃなかったら」

 ――ああチクショウ、またシスコン発言しちまったよ。言葉にすると悪化するだけなのに……

「よ、よよ、よっ、よっ、嫁ぇ!?」

「――っ!?」

 ちょっと待ったァァァ!!

 今後ろから、女の子の声が……

「ほ、穂波! おまっ、いつからそこに!? てか聞いてたのか!?」

 まさかのご本人登場サプライズ。

 振り向くと、キッチンへ続くドアが開かれていて、その場所に俺の妹が突っ立っていた。

「き、聞いてたわよ! 良い妹だよなってところから……。ア、アンタ、このシスコン、変態……」

「わ、忘れてくれ! 頼む! お願いだ!」

 ブラコンに言われたくねえよ! という突っ込みをする余裕はない。俺はただただ、顔を真っ赤にしてモジモジとしている穂波に、ゴム手袋を付けた両手を合わせるしかなかった。

 ――ていうか、俺の独り言って声デカいのか? エロゲーといい今のといい。

「これはその、口が滑ったというか……、だから忘れてくれ!」

「……忘れられるわけないでしょ! このバカ兄! そ、そんな嬉しいこと言われて……」

「う、うれ……しい?」

 そんなこと言われたら、むしろ俺の方が嬉しくなるんだが。

「はっ!? い、今のナシ! べ、別に嬉しくなんかないし! 嫁にしたいとかアアアアンタどういう神経して……、あ、でも、良い妹って言ってくれたのは……、嬉しくないわけじゃないんだけど……、その……、ありがと……」

 ――ヤバイ。

 このツンデレはヤバイ。

 このままじゃ死ぬ。

 人として死ぬ。

 ……俺が。

「ま、まあ落ち着けって! で、何か用でもあ、あったのか?」

 とりあえず強引にでも、話題を逸らしておく必要があった。俺が穂波に襲い掛かってしまう前に。

「え、えっと……、洗い物、手伝ってあげようかなって……」

 ――本当に良い妹だよチクショウ!

 だけど間が悪すぎるんだよなあオイ! よりによって、あんな恥ずかしいこと呟いた瞬間に……

「だから洗い物は俺がやるって言ったろ。飯作ってもらってるんだから、これくらい俺に任せろって」

「良いから私にもやらせなさいよ! ………………この鈍感……」

「え? 何?」

「な、何でもない何でもない! とにかく、私も洗い物するわよ!」

 穂波は俺の横に立ち、俺が泡だったスポンジで磨いて置いた食器の泡を、蛇口から出る水で洗い流し始めた。

「――まったく。じゃあ、よろしく頼むわ」

 俺は根負けして、穂波が手伝うことを承知したのだった。


 ――最近、穂波が近くに来るだけで妙にドキドキしてしまう。……今みたいに。

 前はそんなことなかったのかと言われれば……嘘になるが、少なくとも今より酷くはなかった。

 ――チラリ。

 穂波の横顔を見てみる。

 未だに真っ赤な顔をしていた。

 ――チラリ。

 俺の視線に気付いたのか、今度は穂波が俺に顔を向けてきた。

 目と目が合ったその瞬間、俺達は両方とも顔の向きを洗い物へと戻すのだった。

「……明日の合コン、しっかりやりなさいよ」

「お、おう」

 お互い洗い物をしながら、顔を見ないで会話する。

「とりあえず、目当ての子見付けたら絶対にメアドゲットしてきなさいよね」

「……わかってるよ」

「そしたら、私が色々協力してあげるから。女の子のことは女の子に聞くのが1番だもの。頼りにしなさいよ?」

「……ああ」

 ――何で俺は、ちょっとイライラしているんだ? そもそも何にイライラしてる?

「大丈夫よ。……アンタならきっと、良い彼女できるから。自分を信じなさい」

「…………………………」

「……兄貴……?」

「……なあ穂波、お前さ……」

 ――言えない。

 そんなこと、聞けない。

 だって俺達は……

「兄貴? どうかしたの?」

「……いや、何でもない。……そういえばお前、素手じゃねえか。ゴム手袋はどうした?」

 今気付いたが、穂波は素手で洗い物をしていた。我が家のキッチンの蛇口は冷水しか出ないので、素手で洗い物をするのはけっこう堪える。

「もうないわよ。一つしかないもの」

「……だったら、お前が俺の使え」

 俺は迷わず、自分のゴム手袋を脱いで穂波に差し出した。

「べ、別に大丈夫よ。冷たくなんて……ないんだから。それに、今度はアンタが手冷たくなっちゃうじゃない」

「……実を言うと、このゴム手袋小さくて手が痛いんだ。これなら素手の方が全然マシだし……だからお前が代わりに付けてくれ」

「で、でも……」

 ゴム手袋が小さいのは本当だ。元々洗い物は母さんが基本的にやっていたから、手袋も母さんの手の大きさに合わせたやつだった。

 とは言っても、俺が付けても別に痛いわけじゃない。素手で洗い物するよりは全然マシなのだが……

「遠慮するなって。妹に素手で洗い物させるなんて、兄貴がすることじゃないからさ」

「……ごめん」

「違うだろ。ありがとうって言ってくれる方が、俺は嬉しい。……まあ、お礼を言わなきゃならないのは俺の方なんだが……。手伝ってくれて、ありがとな」

「うん……あ、あ、ありがと……」

 やっぱり俺は、妹の前じゃカッコ付けたくなる性格みたいだな。正直、こういう台詞は言ってて少し恥ずかしいんだが、意外とスラスラ口を出てしまう。


 それから、一段と頬を赤らめた穂波と同じく真っ赤な顔をしているであろう俺は、特に会話をすることもなく順調に洗い物を済ませていくのだった。

今日も学校が休みだー!

by作者

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