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あいまいっ!  作者: 遠山竜児
第2章
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3月27日(日)私の兄貴がこんなに○○なわけがない!〔2〕

 兄妹以上恋人未満の関係とは言っても、私と兄貴のやり取りには特に大きな変化がなかった。

 私は兄貴の為にご飯を作り、兄貴は「美味しい」といつも絶賛してくれて、私はその度に顔が真っ赤になり、それを見て兄貴も顔が赤くなる。テレビを見ながら他愛もない会話をしたり、ニュースの内容を兄貴に解説してもらったりもした。

 傍から見たら、仲の良い兄妹に見えるかもしれないし、付き合いたてのうぶなカップルにも見えるかもしれない。鳴沢家の兄妹は、両親不在の春休みをそんな風に過ごしていたのだけれど……



 私が兄貴の異変に気付いたのは、昨日の夕食後だった。

 私が作った海老ピラフを、美味しそうに完食してくれた後……


「やっぱりお前、料理上手いよな。ていうか、回を重ねるごとに上手くなってきてないか?」

「そ、そう? ありがと。……エヘヘ」

「ああ。本当にすげえよ。香苗かなえにも見習わせたいくらいだ。アイツはカレー作っても青酸カリ並の劇薬に錬成しちまうからな……。まったく、困ったやつだぜ」

「へ? 香苗って誰?」

「あ、いや……、これはその……」

 ↑狼狽する兄貴

「香苗って、だ、れ、か、し、ら?」

 ↑とりあえず笑顔で、穏便に尋ねてみる私

「ご、ごちそうさまでしたー!」

「待ちなさいバカ兄! 逃げるんじゃない!」


 香苗って誰? あのうろたえ具合からすると、ももももしかして兄貴の……

 気になる人、とか?



さらに今日の朝、兄貴が朝食を食べにリビングへ来たとき……


「遅い! いつまで寝てるのよ! ご飯冷めちゃったじゃない!」

「悪い悪い。昨日は茜が長電話してきてさ。なかなか寝かしてくれなかったんだよね」

「……茜さんって、どなたかしら?」

 ↑笑顔が引き攣っていないか心配な私

「あいや、こ、これはその……、友達! そう友達だよ! 学校の! 部活のことでちょっと話し合いをだな……」

 ↑完全に顔面引き攣っている兄貴

「本当……?」

「本当だとも! ……ああ、こ、この鯖の味噌煮美味しいなあ~! ホント美味しいよ~」

「……………………………。」


 ――香苗とか茜とか、誰なのよ!? なんでごまかすわけ!?


 私と兄貴は別に付き合っているわけじゃないから、あんまりしつこく聞くのも不自然かと思いグッと我慢したんだけど……




 今日の夜、私が自分の部屋に入ろうとしたとき……

 すぐ隣の兄貴の部屋から、気持ち悪い声がしていることに気付いた。何かと思い聞き耳を立ててみると……


「優香可愛いよ優香! やばい、俺の嫁さん超カーワーイーイー!! 俺が一生幸せにするぜ!! エヘヘヘヘ……」

 兄貴の声だった。

 ……非常に残念なことに、兄貴だった。

 ……非常に残念なことに、言葉の内容が非常に残念だった。

 ――あのバカ兄ぃ……、「俺の嫁」って言ってることは、相手はゲームの女の子よね?

 ……たかだが2次元グラフィックの空想フィクション女相手に、「一生幸せにする」!? わわわ私に言ってくれたのと同じ台詞を与えてるって言うの!? ……あんなに、私があんなに嬉しかった台詞なのに!

 ギリギリと歯軋りをして、兄貴の部屋に飛び入って罵倒したい衝動を抑えた。兄貴がゲームの女の子に話し掛けてるのは時々聞いてきたし、今までは無視してきたのに今突然怒るのも気が引ける。大体私は、兄貴のただの妹なんだし……

 ああけど、ムカつくムカつくムカつく!! 私じゃ恋愛成分は満たされないっていうの!?

 ……いや別に、満たして欲しいとかじゃないんだけど、……私とあんなことがあったのに、よくもまあ恋愛ゲームなんかできるわね! さんざん私とラブコメしたじゃないの!

 ――それにしても、兄貴がゲームの女の子に話し掛ける台詞って、いつもはこんなに気持ち悪かったかしら? なんだか前より悪化しているような……

「優香……、やっぱり俺、お前じゃないとダメだ! 俺と一つになろう! 未来永劫いつまでも!」


 ……カチン。

 我慢の限界だった。


「こんのバカ兄ぃぃぃ!!!!」

「うぉ、ほ、穂波!?」

 ドアノブをおもいっきり押し、兄貴の部屋に飛び入った。兄貴は私の方を振り向き、ヘッドフォンを耳に付けたまま慌ててパソコンの画面を体で隠した。

「アアアアアンタねえ、ゲームの女の子相手に何愛の告白なんかしてるのよ! バカ? バカなのこのバカ兄は! ……ああバカ兄なんだからバカなのは当たり前よねぇ? ……この大バカ兄が!!」

「いや、これはその……ってもしかして聞こえてた!?」

「当たり前じゃないこの発情犬! ……何を必死に隠してるの? そんなに見られたくないわけ?」

「ちちち違い! 見られて困るようなものなど、断じて、断じてない!」

「……ちょっと背中どけなさい」

「あ、ちょっ、穂波、腕引っ張るな! ってあー!!!」

 兄貴をパソコンから引き離すと、私の目に飛び込んだのは……

 予想通り、2次元のグラフィックだった。

 ただ、私が考えていたような絵面えづらとは違い、その……

 描かれている内容が……

「なっ、なななな何よこれぇ!!!!」

 だ、男女が……

 裸で抱き合っている絵なんですけど!!

「えっとこれは……、ほ、保健体育の勉強!」

「………………ねえお兄ちゃん? 火に油を注ぐって言葉知ってる?」

「ごめんなさい! てかお兄ちゃん!? あと笑顔逆に怖いからやめてマジで!」

「……他に、言い残すことはないかしら?」

「……本当にご……」

「この変態色欲最低エロ兄貴ぃぃぃ!!!!!!!!」

「ガッ!! ゴッ!! グハァァァ!!!!」

 遺言を最後まで聞く前に、バカ兄のアホ面目掛けて左ジャブ→右ストレート→ハイキックの3連妹コンボを叩き込んでおいた。

「死んじゃえバカ兄!!」




 もう一度言わせて。

 私の兄貴が……

 こんなに気持ち悪いわけがない!!



 ……と、ブラコンの私は思いたかった。

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