3月21日(月)性格最悪な妹
俺―― 鳴沢タカトシは、普通という枠をはみ出してはいないと思われる、どこにでもいそうな高校生だ。
勉強ができるという点では頭が良いという部類に入るだろうが、一応県内では有数の進学校に通っているだけあって、周りには自分より『できる』やつはたくさんいる。ゆえに、高校生活の中では自分はいたって平均で平凡だ。
それに加え、我が家――鳴沢家も、いたって普通。そこら辺の家庭となんら変わりもない。両親2人と妹1人と俺で、ごくごく平和に暮らしている。
「穂波、今日は昼飯どうすんだ?」
「……外で食べてくる」
「そ、そうか……」
リビングの椅子に座り、サングラスをかけたおじさんが司会を務める某お昼の定番番組を、さも暇だからという感じで見ているのが、4月から中学2年生になる俺の妹―― 鳴沢穂波だ。
黒髪ロングに気の強そうなキリリとした目をしているが、キツ過ぎるわけではなく、笑うと太陽のように明るい表情を見せる顔。背は小さいがあくまで年相応、ついでに胸も小さいがまだ13歳なので将来に期待できる。全体的にかわいらしいその見た目は、実の兄から見ても非常にハイレベルで――
特に、脚は良い。身長の割にすらりと長く、本人も好んで履くニーソックスがよく映える。今だって、フリルがちょこっとついた短めのスカートと黒ニーソが絶妙なコントラストを生み出し……
「……何ジロジロ見てるのよ、気持ち悪い」
「い、いや、何でもない、そう、何でもないんだ」
いかんいかん。妹相手に何考えているんだ。いかに俺がニーソ大好きの脚フェチとはいえ、これじゃ変態丸出しじゃねえか。
――とにかく、実の兄でもたまに妖しい気持ちになってしまうほど、妹の容姿は優れているんだとご理解頂きたい。兄としてより、脚フェチとしてのひいき目が入ってはいるが――“見た目は”可愛い。
……繰り返す。“見た目は”可愛い。
「ていうかお前、春休みになってから昼も夜も外食ばっかじゃねえか。体に良くないぞ。――ったく、俺が作ってやるって言ってるのに」
料理を作ってやると申し出ているのは、何も飯で妹の気を引こうだとか、そういう邪なことを考えているからではない。妹に対するただただ純粋な心配と、兄としての責任感がそうさせるのだ。
それなのにコイツときたら……
「うるさい。黙れ。……アンタの飯はマズい」
……睨まれた。まるで、本来かわいそうだな~と思っている男を、敢えて哀れむどころか見下し嫌悪し蔑むかのように、冷たい眼差しで……
これが、“見た目は”を強調せざるを得ない、穂波の可愛くない部分である。
いや、可愛くないなんてもんじゃない……
例えるなら、独裁主義で民のことなど家畜同然に考えている最低最悪の暴君――――に、我が儘を聞かせまくり利用するだけ利用しているが実際父親のことなどこれっぽっちも愛していない王女、の如し。
――つまり言ってみれば、妹は性格が悪い。
ものすんごく悪い。
見た目の良さを帳消しにするどころかマイナス方向へ限りなく突進しているほど、悪い。
「な、な、な、なにぃ!? 兄のせっかくの好意を……てか待て、そもそもお前、俺の飯喰ったことないだろ!」
「……両親不在の春休みに、これ幸いと兄らしいところを見せてカッコつけよう、なんて魂胆で作られた料理なんか、マズいに決まってるわ。今さら兄貴ぶっちゃって、馬鹿みたい」
表情少なくとんでもない暴言を吐いた穂波。さすがの俺もカチンときた。
こ、こ、こ、こいつ……
言わせておけば……
ここは一発、ガツンと言ってやるしかないな……
決して、下心を見透かされムカついたからとか、そのような理由ではない。失礼な態度を振り撒く妹が、将来社会に出た時周りから嫌われないよう、改心させてやるためだ。
そう、これはあくまでもアイツのため。ここは心を鬼にしつつ、あくまで冷静に、広い心で諭すように……
「あ、りゅーくん! ……うんうん、B駅の西口に1時に待ち合わせね! ……うん、うん。……私も楽しみだよ! それでね、昨日の話なんだけど……」
「おい、ちょっ、おま……」
いつの間にか、穂波は電話をしながら2階へと続く階段を登っていた。相手は彼氏だろうか……態度が豹変している。
――まったく、いつもあんななら可愛いのになぁ。
「はぁ……」と小さくため息をついて、俺はテレビの電源を切った。