3月23日(水)兄妹でお出かけ〔4〕
兄貴の顔をよーく見てみると、話に花を咲かせながらも目線が巨乳女の脚へとチラチラチラチラ……
ショートパンツから伸びた長い脚を盗み見ている。
よかった……
胸の大きさは関係な……
ち、違う! あのエロ兄、今日だって私の脚チラチラ見てたくせに!
私の脚をそんなに綺麗に思ってくれているんなら、仕方なーく我慢してあげようかなって思っていたのに、今度は巨乳女の脚にまで……
脚なら誰でも良いワケ!?
女の脚があれば誰にでも尻尾振るの!?
この変態脚フェチの発情犬が!!
「それにしても、鳴くん背伸びたね~。 昔は私の方が大きかったのに、すっかり抜かされちゃってまあ」
巨乳女は、胸だけじゃなく背もデカい。兄貴の身長は170cm後半くらいだけど、頭半分しか変わらない。しかもムカつくことに……
この女、背の高さがむしろプラスになるような、モデル体型をしているのだ。出るとこ出てて、締まるところが引き締まっている、世の女の子の理想とも言える体型を……
顔も客観的に見れば…… み、認めたくないけど美人な顔をしているし、雑誌の読者モデルをしていると言われればすんなり信じてしまうだろう。
それほどまでに…… 腹立たしい見た目を、コイツはしていた。
「中学から急に伸びだしたんだよ。昔はよくお前にちっちゃいちっちゃいって頭撫でられてたけど、今度は俺が撫でる番だな」
ナデナデくしゃくしゃ。
カチン。
こ、このバカ兄ときたら……
巨乳女の頭を、いい子いい子って感じで撫で回しやがってる!!
しかも女の方も、「エヘヘ」とか言ってデレデレしているし!!
さ、盛りのついたエロ犬共め……
「あれ? 鳴くん、この娘もしかして…… コレ?」
巨乳女が私の存在に気付くなり、兄貴に向けて小指を一本突き出した。ていうか、気付くのが遅い。
「ち、ちげえって! 誰がこんなちっこいの!」
カチン。
ちっこい?
身長が?
それとも……胸が!?
「こいつはただの妹だよ! ほら、お前も見たことあるだろ」
「えっと…… ああハイハイハイ! 穂波ちゃん、だよね? ――ってうっそー! カーワーイーイー!! あの頃も鳴くんの妹だってことが信じられないくらいに可愛かったけど、さらにめーっっちゃ可愛くなってるじゃんっ!! やばい可愛い憧れる~!」
カチン。
憧れるだぁ!?
どのツラ下げて言ってんだテメエは!?
モデル体型が調子こいてんじゃねえぞコラ!!
「残念ながら俺の妹だ。穂波、覚えているか? たまに家にも来てたろ……って、どうした? 何ムスっとしてんだ?」
「……なんでもない。着替え、済ましてくる」
明らかに居心地が悪かった。私は逃げるように試着室のカーテンを閉めた。
カーテンであのバカ2人と私を遮断しても、バカみたいな騒ぎ声はバカみたいに私の耳に入って来る。
「穂波ちゃん超可愛い! 妹にしちゃいたい!」
誰がお前の妹になんかなるか。死んでもお断りだ。
ていうかアンタが死ね。輪廻転生してハエにでも生まれ変われ。
「あんな妹でいいならいつでもやるよ。まったく、我が儘で困ったものでさ」
なっ……
このバカ兄!
アンタ、『俺のこと頼ってくれていい』とかほざいてたくせに!
巨乳女は、「またまたー、ご冗談を~」とか言って笑っている。兄貴も兄貴で、すっごく楽しそうにあの女と話している。
……今日私と話していた時よりも、楽しそうだ。
……カチン。
だ、か、ら、!!
何で私がそんなこと気にしなきゃならないのよ!!
私達は……
たまたま見たい映画が同じだったし、他に見に行く友達とかいなかったから仕方なーく一緒に映画見に行っただけで、ついでに一緒にお昼食べて、そのまたついでに一緒に買い物してただけなのに……
私は別に
楽しんでなんて……
カーテンの外と中では、まるっきり世界が違うように思えた。向こうが常夏の島なら、こっちは永久凍土。それほどまでに温度差がある。向こうは、私がいるには暖か過ぎた。
ロングスカートのワンピースを脱ごうとする、布の擦れる音が
この隔絶された世界に、虚しくこだましていた。