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あいまいっ!  作者: 遠山竜児
第1章:曖昧な兄妹
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3月22日(火)妹で妄想

「まったく、穂波のやつ…… まだおでこいてえぞ、ちくしょう……」

 俺はベッドの上で大の字になりながら、先程穂波にかりんとうを投げ付けられた額をさすってみた。鏡で見たらきっと赤くなっていることだろう。

 ――穂波、俺のこと映画に誘おうとしてたんじゃなかったのか? あんなに動揺してたってことは……

 結局俺にはわからないが、どうやら一緒に映画を観に行く話はなしになったみたいだ。あんなに怒って部屋を出ていってしまったんだから、当然だろう。

「はぁ……」

 自然にため息が出る。なんだかんだ言っても、ちょっと残念だ。深い意味や下心なんてないが、どうせ見に行くならやっぱりデビル・ブレイカーが好きなアイツと見に行きたかった。

 ……繰り返すが、下心なんてない。

 ……多分ない。

「ああもうっ! だから俺は違うんだって!」

 そう、俺はシスコンじゃない。

 ちょっとお節介焼きだから妹のことがよく気になるだけだし、エロいことたくさん考えちゃう年頃だからたまに妹までもそういう目で見ちゃうだけだし、ツンデレ好きだから穂波の仕種にちょっとキュンときてしまったりするだけで、別に妹を1人の女として意識しているとか妹に彼氏できて欲しくないとかそういうことは一切考えてない!

 俺は気を紛らわすために、ベッドの下から『ディストピア』のパッケージを取り出した。カバーイラストには、メインヒロイン5人が非常に綺麗な絵で描かれている。

「俺が好きなのはこう、大人っぽくてセクシーな…… リサみたいな女の子が……」

 ――俺の視線が、無意識のうちにパッケージ右上のヒロイン…… ユキへと移っていく。主人公の実の妹で、黒髪ロングに気の強そうな目でロリで貧乳でツンデレで美脚のニーソで……

 穂波に、そっくりで……


 ドクンっ。


 心臓が一回、大きく跳ねた。

 俺が今までプレイしたギャルゲーのどのルートよりものめり込んだ、ユキルート。まだ途中までしか進めていないその内容が頭の中で再生され、しだいに脳内のユキが穂波に変わっていき……

 興奮、した。

 かなり、激しく。


 ドクンドクンっ。


 心臓がさっきよりも大きく脈打つ。


 ――俺は今、一線を越えようとしているのではないか。実の妹でアレな妄想をするという、禁忌の一線を。


 理性が上手く働かない。感情が上手く制御できない。俺の頭の中で、穂波がどんどんとあられもない姿に……


「コンコンッ」

 部屋のドアを叩くノックの音で、俺は現実に引き戻された。

「あのさ、話があるん……」

「うわぁああああ!!!」

 俺は慌てて『ディストピア』のパッケージをベッドの下へと隠した。ドアの向こうでは、「な、何!? どうしたの!?」と穂波がびっくりした声をしている。

 ――おおお俺はなんつーことをしてたんだ!! ユキを穂波に変換して、あんなエロい……

 だああああちっくしょう!!

 忘れろ忘れろ忘れろぉ!!

 俺は何もしてない!! 何もやましいことなんてしていないんだ!!

 不整脈を起こしたんじゃないかというくらいに、心臓がバクバク暴れている。俺がしていた妄想が穂波にバレたんじゃないかと、いらん心配まで頭を駆け巡る始末だ。

「い、いや、なななな何でもない! て、ていうかなんか用でもあるのか!?」

 平静を装うつもりだったが、まったく上手くいかなかった。しかも舌を少し噛んでしまったみたいだ。

「そ、そうよ。……あのさ」

 ドアを挟んでいてもわかる。言いたいことがあるがなかなか言い出せない、あの状態だ。

「まあとりあえず、入れよ……」

 ベッドの上に座りなおすと、ドアがゆっくりと開いていって、風呂上がりだろうか―― まだ髪が湿っていて上気した顔をしているパジャマ姿の穂波が、俺の部屋へと入ってきた。

「で、どうしたんだ? 話したいことがあるなら、言ってくれ」

 さっきまで妄想していた穂波が風呂上がりの姿で現れたことで内心激しくうろたえたが、なんとか平淡な言葉を絞り出す。

「あのさ……」

 こっちを見ないまま俯き顔で、穂波も懸命に言葉を絞り出そうとしているようだ。

「ごめん……ね、さっきの、かりんとう……」

「え? …………ああ、あのことか。……別に気にしてないよ。大丈夫だって」

 ……意外だった。穂波がわざわざ、俺の部屋まで謝りにきてくれるなんて。いやそれよりも、かりんとう投げ付けたことを気にしていたことのほうが意外だな。普段のアイツは物投げ付けるとか日常茶飯事だったわけだし。

「ありがとう…… あ、あとね……」

 穂波は顔をほんの少し上げ、続けた。

「明日、やっぱり一緒に行こう? ……映画」

「ほえっ!?」

 かりんとう事件の穂波みたいな間抜けなリアクションを、今度は俺がとってしまった。

 穂波の顔を見てみると、風呂上がりのせいだけじゃないことがわかるほど、顔が真っ赤になっていた。

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