3月22日(火)兄貴の夢
私と兄貴は、食卓に向かい合うように座って、お互い無言で夕食を食べている。リビングに響くのは、テレビから流れるニュースの音声のみ。
今日の夕食は、シーフードカレーを作ってみた。『風の食卓』で紹介しているメニューの中でも特にイチ押しらしいので、挑戦してみたのだ。
ま、まあついでに、兄貴もシーフード系の料理が好きらしいし。
……あくまでついでだけれど。
朝昼と兄貴に好評価を貰っていたから自信が付いていたはずなのに、いざ食卓で食べてもらうとなると途端に不安になったのだが、そんなモヤモヤを打ち消すように兄貴は、『めちゃめちゃ美味い!』とテンションを上げてくれた。
嬉しいのと恥ずかしいのと照れ臭いのがごっちゃになって、私は兄貴に話し掛けられない。兄貴も、食事のときは私にくだらないことで話し掛けてくるくせに、今日の食事は朝昼晩とも会話がほとんどなかった。
そこで、なんとなく気まずくなった私はテレビの電源を入れてこの場の雰囲気を和ませようとしたのだ。画面では、ニュースのアナウンサーが国際情勢について報道している。
『続いてのニュースです。内戦が続いてきたスーダン南部、独立へ向けて一方前進か。国連のスーダン派遣団が……』
どうやらアフリカのスーダンという国の一部が独立するかもしれない、ということがアナウンサーの話からなんとなくはわかった。そういえば……
兄貴は、こういう世界中の紛争とか難民だかの話題がニュースで流れているとき、いつも真剣な顔でテレビを見つめていたっけ。
スプーンを置いて兄貴の顔を見てみると…… やっぱり、視線がテレビに釘付けになっていた。
「兄貴ってさ、こうゆー話題、好きなの?」
いい加減無言の空気が嫌になってきたのもあり、何の気無しに問い掛けてみた。
「ん、ああ。好きというか…… 放って置けないっていうかさ……」
兄貴は私のほうに視線を向け、少し悲しそうな顔をした。
「放って置けないって…… またいつものお節介癖? ……ま、まあ別に、アンタのそういうとこ嫌いじゃないけど……」
というよりそんなお節介癖に助けられたんだから、感謝しているよ。
……とまでは、思っても口に出せなかった。
その……
は、恥ずかしくて。
「お節介癖…… そうかもしれないな。けど…… 世界を救うくらいのお節介、してみたいんだよね」
「え?」
兄貴はどこか遠くを見るような目をしていた。
……私の知らない、兄貴の顔だった。
「俺さ、将来国連に勤めて…… 難民とか飢餓で苦しんでいる人とかのために働いて、世界を少しでも平和にするのが夢なんだ」
若干照れ臭そうに笑いながらも、強い意志を感じさせるはっきりとした声で、兄貴は言った。