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〈クラウン〉

掲載日:2026/07/13

 「これで何人目だ?こんな繁華街の裏路地とは言え仏さんがまた現れるなんて」

 ベテラン捜査官の斎藤は部下の清水に声をかける。

 「斎藤さん、今月だけで東京だけで4人目です。全国的には13人を超える数です。それにこのピエロのお面がどの事件現場にも落ちているなんて、まるで警察への挑戦状ですよ。もしこのままいくと年間で50人は超える勢いです。」

 しかし被害者の一致する特徴が一切なく操作は難航を極める。

 ここは20XX年の繁華街である笑福街で起きた話。

 ここ数か月間の間で笑福街では不可解な殺人現場が多く見つかっている。そしてその現場には形や色はそれぞれではあるがピエロのような、オペラ座の怪人に出てくるようなお面が必ず落ちている。そこで笑福街西口警察署の斎藤と清水は事件の解決に乗り出す。

 「斎藤さん、この事件は絶対に快楽殺人ですよ。だって見てください、毎回事件現場には必ずこの笑顔で不気味なお面が落ちているんですよ。しかもどのお面にも被害者の物となるDNAが付着してるんです。それにどのお面も絶対に笑顔なんですよ、(少し不気味ではありますが)これが快楽連続殺人以外なら何があるんですか?」

 「いったん落ち着け清水。今は捜査一課と二課が合同で捜査を行っている。そしてこのマスクがどこで作られたか?も含め調査中だ。我々は急いで被害者の身元の特定と関連する手掛かりが一つでもないかを探すんだ。」

 世の中では連日このニュースが全国を駆け巡っている。そのニュースを眺める男性たちがいた。

 「なにが連続殺人だ、こんなの変なカルト宗教の仕業だろ?」

そう言っているのは斎藤とは別動隊の小林と高橋のペアだった。彼らは何かと清水たちのバディと張り合うことが多く、署内でも一触即発になりやすいため、警察の間では鉢合わせないようにするのが暗黙の了解となっていた。

 斎藤と小林は昔は優秀な同期ペアとして数々の事件を解決していた。しかし些細な衝突が起きてそこから険悪な関係になってしまった。そんな二人が偶然に署の入り口で鉢合わせてしまった。周りの署員はやってしまったと思い、即座に二人を離そうとする。しかし二人は目に入るや否やけんか腰で相手をにらみつけてまさに危ないと思ったところで無線が入る。

 「笑福街3丁目9番地11号、玉二アパートの305号室にて遺体が発見直ちに近隣の警官は向かうように」緊急の指令が入った。事件があれば現場に向かわなくてはいけないため、一旦は相手をけん制して現場に急行した。

 すでに通報を先に受けた警官はそれぞれ二人に別々で状況を報告する。

「今回の被害者は20代女性、死因は部屋の洗濯物を干すために使っていた吊り具に掛けられたロープが首にかかったことによる窒息死。目立った外傷はなく、室内に争った痕跡は無し。第一発見者はこの女性と面識のある50代男性。発見者のややパニック気味のため、パトカーの後ろに座っています。」

 そのパトカーは現場に少し早く到着した高橋の運転するパトカーだった。高橋は運転席に座ったままで斎藤に気が付くと軽く会釈をした。そこで斎藤は被疑者である50代男性から詳しい話を聞くためにそのパトカーに近づく。

 すると男性は何かブツブツと独り言を話していて、斎藤がパトカーの窓をノックした次の瞬間。

「ボトッ」何かが落ちる音がした。すると勝手にドアが開き、男性がパトカーから落ちてきた。

 「おい、どうした、急に倒れるな、何か体調でも……」斎藤が男性の体に触れると脈が無く、パトカーの後部座席には不気味なあのお面が落ちていた。

 現場はまさにパニックになった。警官は男性に自傷行為が可能なものは一切ないことは確認済みであり、運転席には警官が座っていた状態で参考人が急に倒れたのである。

 斎藤が急いで応援を呼び対応を焦る。しかし野次馬などがその一挙手一投足を動画で撮影し始めていた。そしてネットに動画を拡散し始めた。そして現場は大混乱し、斎藤は必死に救護を行った。しかしその命はかえって来なかった。現場の対応に奮闘した斎藤であったが気が付くと、署長室に呼び出されていた。その横には高橋の姿もあった。ネットには「警官殺人、ついにドアに触れただけで殺人」とひどい見出しを付けて拡散された。これを重くみた署長は斎藤に無期限の謹慎を言い渡し、高橋にも同じ処分を言い渡した。

 そこからはまさに地獄そのものだったネットでは二人の名前や友好関係、家族構成など様々なものが拡散されていた。そしてネットでは根も葉もないうわさがたち、二人を締め付ける。


 斎藤の部下の清水は独自で捜査を始める。

 「先輩が戻ってきたら必ずホシをあげるんだ、きっと先輩も何か考えているはずだ、そう言えば被害者たちのスマホの解析はどうなっているかな?大した情報はないって言ってた気もするけど、念のためもう一度調べよう」

 すると解析室には小林の姿があった。

 「誰じゃ?って謹慎中の先輩のいる清水君じゃないか?こんなところになんか用か?」

 清水は要件を伝えると

 「なにも出てこんかったで、被害者に関する共通点、探すだけ無駄じゃい。やっぱり捜査は足に限るんじゃい」

 小林はそそくさと部屋を後にした。

 「絶対に何かしらの共通点があるんだ、探して少しでも先輩の役に立つんだ。」

 小林は今回の被害者と前回の被害者のスマホを二台並べてどこにも共通点が無いかくまなく探した。

しかしやはり小林の言った通り事件の解決の一歩になるものは何もなかった。 

 諦めて清水が喫煙所に向かい、ふと思い立ちAIアプリである〈Crown〉に聞いてみた。事件のことが現状どのようにネットにあるかなどもろもろ含めて聞いてみた。すると〈crown〉は見事に様々な情報をあげてくれた。小林は感心すると〈crown〉のアプリをどこかで見た気がした。そして急いで解析室に向かい、それぞれの被害者のスマホを開けると確かにそこには〈crown〉がインストールされていた。最近のスマホユーザーにはほとんど入っているアプリで誰も気がつかなかったが確かに入っていた。

 小林は恐る恐るそれを開くとそれぞれの被害者の闇の部分が見えてきた。今回の女性の被害者はパパ活をして生計を立てていたが、このままではまともになれない、といったことがびっしりと書いてあった。

パトカーで亡くなった男性は風俗、パチンコ通いが止められる、借金があり、まともに生活ができないなどなど。到底他人には見られたくない闇の部分が見えていた。そして清水はこの情報をもって斎藤の所に向かって走り出した。

 

 一方で謹慎処分を受けていた高橋は完全に生きる気力をなくしていた。事件を解決して世の中の人の役に立つ。そして誰にでも誇れる人になる、それを決意して警察官になったのに今や殺人犯としてネットに流されている。高橋は相談をしたかったが、小林は不愛想で相談なんてできないとそう思っていた。そして高橋はAIである〈crown〉に相談をする。すると〈crown〉は高橋が望む答えを次々と出してくれる。今まで気にしていたことに蓋をするかのような気分になっていった。


 清水は急いで斎藤の家に向かった。途中でスマホに家に行くとメッセージを添えて全力で向かった。家に着くと玄関の鍵が開いており、斎藤が自分のため開けてくれたと思い部屋に転がり込んだ。斎藤は落ち込んだ様子はなく、スーツを着て部屋の真ん中に座っていた。

 「先輩!先輩!、僕手がかりを見つけたんです!〈crown〉って言うアプリが……パキッ」

何かが割れる音がした。恐る恐る下を見ると、床には何かが転がっていた。それはなんとピエロのお面だった。そして斎藤はすでに冷たくなっていて、生気が無いのは明らかだった。

 その現場で清水は何もできなかった。やっと手がかりを見つけたのに斎藤に渡せず、すべてが水の泡になってしまったように感じた。


 清水は放心状態で小林のパトカーで警察署に帰ろうとすると。斎藤に手がかりを渡したいと思って手に持っていたしわしわのメモを小林は見つけると、大急ぎで高橋のマンションに向かい、清水を連れて部屋に入ろうとインターフォンを押す。すると高橋はいかにも寝起きのような表情で鍵を開けた。そして小林は高橋の安否を確認すると今回の事件について清水が手にいてた手がかりを説明するように求めた。

 清水は斎藤の無念を晴らす思いが出てきたのかゆっくりではあるが話し始めた。

 「結論から言って僕が思うに今回の連続殺人の犯人はすでに死んでいます。」二人は驚愕する。

 「それならその真犯人の遺体はどこだちゅうねん!」小林は問う。

 「すでに死んでると言ったのは自殺だと思うからです。」小林も高橋も頭にはてなが浮かぶ」

 「あくまでも推測ですが、今回の先輩のを見て思ったんです。」清水は続ける。

 「なぜ、お面がどの現場にも落ちていたか、ですが、それは本人が世間体を良くするために身に付けていたものだと思うんです。そしてピエロで思い出してほしいのが、ピエロがいる状況です。基本的には道化師、ピエロは舞台の上で誰かに見てもらって生活しています。そのお面がはがされるってどういうことだと思いますか?」清水は小林に聞いてみる。

 「そりゃぁ、化粧を落とすっちゅう意味で閉演した時やろ」清水は続ける。

 「そうです。閉演つまり、舞台から降りたということです。その舞台って、いったい何だと思います?」

 小林ははっとした顔で高橋を見る、しかし高橋はポカンとしている。その対照的な二人を見つつ清水は続ける。 

 「人間にとっての舞台、それは人生ですよ。人生という舞台から降りるということは命の終わりを示すと思うんです。今まで様々な所で頑張ってきた人が何かの拍子に崩れた時、生きる意味をなくした時、そのお面は落ちて、命の舞台から降りてしまうということだと思います。」

 「そして今回

 小林は言ってることは理解できるが、そんなことがあるのかと半信半疑の顔をしている。しかし、高橋はハッとした顔をする。 

 「小林さん、僕もこれからどうしていいか、変わらなくなったときに〈crown〉に聞いてみたんですよ、すると安心する答えばっかりくれるんですよ。まるで何かに包まれたような感覚です」高橋は答える。

 すると小林は

 「高橋の謹慎を特例で一時的に解除してもらえないか、上に聞いてみる。そして一緒に解析室に向かうぞ」小林はこのまま事件が解決すると思い、高橋に着替える様にいい、清水にお礼をする。


 そして解析室に着いた3人は今までに笑福街が起きたこの事件に関係するスマホを調べると、どのスマホにも〈crown〉が必ず入っていた。そしてアプリを開けると、好意があったのに別の人と付き合われた人や、家族が遠くに行ってしまい孤独を感じた人、友人から見捨てられた人など様々な人の負の感情が渦巻いていた。この情報はすぐに警察上層部に行き、全国ニュースとなった。今回の事件に関連はないと報じられたが、ネットでは今日も事件について様々な都市伝説が出来上がっている。


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