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フラッシュバック

目を開けると、すでに日は傾きオレンジの夕焼けの光とその光が生み出す漆黒の影のコントラストが目に飛び込んでくる。

そのまま起き上がろうと体に力を入れるが、途端に襲ってくる頭の痛みに小さく唸る。

さっきまで部屋の真ん中に敷いてあった布団が窓際まで引きずられて、その上に俺は寝かされていた。

いつもより大量の光が目を射す。俺は右腕で目を隠し光をさえぎり記憶をさぐる。

体は激しい運動のあとのようにだるさを抱え、うっすらと汗をかいていた。

ジージーとセミの鳴く声に合わせるようにトクントクンと心臓が波打つのを感じる。

どうやら俺の心臓は淡々と鼓動を刻むという役割を思い出したらしい。


朝、あの変な女に出会ったことで俺の何かが狂いだした。いや、狂っていたなにかが戻り始めたのか。


自分でもわからないがあの女は俺と鈴の世界に簡単に入りこんできた。

なにかが、あの女にはある。

鈴が俺以外の人間に触らせることなんてありえないのだから。

俺が、人として接することができたのだから。


体の調子はいまだに悪いが頭は妙にすっきりしてきた。



「あ、目が覚めましたか」


声がする方向に首を傾けると、そこにはあの女がビニール袋をぶら下げて立っていた。


「ああ」


俺は無感情を装って言うと、もう一度体を起そうとした。

女はその様子を見て縁側をよじ登ると俺の横に腰を下ろす。

相変わらず、自分以外の人間を感じると気分が悪くなるがそれもいささか慣れた。

やっとのことで体を起こし女の方に顔を向ける。

どんなブスかと思いきや、見れない顔でもなかった。


「…もう、私に消えろとか言わないんですか」


女は、若干目を細めて厭味っぽく言う。


「…いくら消えろと言ったところでお前は消えてくれないだろ」


女は眉毛を若干上げ何かを言いかけたが、俺の布団から出てきた鈴の鳴き声でさえぎられた。


「あ、鈴。よかったね。お前の主人の意識が戻ったよ。お前は本当に賢い猫だね」


女は鈴の喉元を優しくなでてやると、鈴は気持ちよさそうにゴロゴロとのどを鳴らした。


「おまえ、なんで鈴の名前知ってるんだ?」


鈴が自分の名前を話すわけはない。俺がこの女に教えた覚えもない。


「それが…私にもわからないのです。あなたが倒れて、真っ白になった時にはもうすでに鈴の名前を呼んでいたんです。きっと、私のイメージで勝手に名前を付けていたんだと思ったけど、実際鈴が反応してくれたから、こんな偶然もあるもんなんだと思っていました。」


鈴は相変わらず、女の手に体を預けて太陽を仰ぐように眼を細めている。

女は右手で鈴をあやしながら、左手で持っていたビニール袋をあさり、中からミネラルウォーターを取り出し差し出した。


「はい。これ。この暑さです。水分を取らないとまた倒れますよ。」


差し出されたペットボトルはついさっきまで良く冷やされていたのだろう。うっすらと表面に汗をかいていた。

そして俺は喉が焼けつくような激しい渇きを感じた。

喉の奥上と下で密着し、へばりつくような感覚。

人間、餓えはしのげても、喉の渇きにはあらがえない。

究極な渇きを感じた時、目の前にあるのは毒入りだとわかっていても水を飲んでしまうという。


この女から物をもらいうけることは少々不満があるが、ペットボトルを受け取るために手を伸ばす。


その時、女の親指の付け根にある三日月型の傷が目に飛び込んできた。その瞬間、脳裏を閃光が駆け抜ける。

それと同時に幼いころの記憶がまざまざとよみがえってきた。


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