表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

一頭のヤギ

作者: 谷口 由紀
掲載日:2026/02/10

とある国の王妃が懐妊した。


王はたいそう喜んだ。


王妃の腹は日に日に大きくなり、数ヶ月目には悪阻がはじまった。彼女の悪阻は少々変わっており、国に生える希少な毒草のみを好んで求めた。


言うまでもなく身体は次第に蝕まれていった。

妊婦の身体に良くないと理解していても、胎児が欲しているのか求めることをやめられなかった。


かくして王妃は死んだ。

誰の目にも触れぬよう、その無惨に変化した遺体は燃やされた。

王妃の死の間際、二ヶ月ほど早く世に出た姫を残して。


姫といえど赤子ゆえ、乳を求めた。

王は即座に乳母を探したが、乳を吸わせてまもなく命を落とした。

どういうことかと、また新たな乳母をあてがった。


そしてその乳母もまた、姫が口をつけるなり苦しそうに痙攣し口から血と唾液の混ざった泡を吐き息絶えた。


生まれてすぐ二人の乳母の命を奪った姫は、ようやく腹が満たされたのかすうすうと可愛らしい寝息を立てていた。


王は悩んだ末に、遠くの村から乳母を雇いつづけ、日に数人が消えていった。

乳母が用意出来ぬ時などは、飼っていたヤギの乳をそのまま姫に吸わせた。


やがて、姫は粥や乳に浸したパンを食べられるようになり、命を落とすものもいなくなった。



時はうつり、姫は16歳を迎えた。

美しく育ったが、姫の身体は毒そのものだった。

王はそんな姫を愛していた。

だが、触れることも抱くことも叶わぬ我が子を、どう守ればよいのかわからなかった。


そこで、流行り病で死者が増えて続けているという隣国の王子に嫁がせる事にした。

せめて女として誰かに嫁ぐ幸せを感じてから、病なりで死ねばよい、と。



姫が王子へ嫁いだものの、そのに華やかな結婚式は存在しなかった。

言葉を交わすこともなく王子は流行り病で倒れていた。

意識もなく息も絶えだえで、整っていたであろう顔は青黒く変色していた。


嫁いだのだから、彼のために妻としてできる事がしたい。

せめて薬でも……そう思い、国の薬師を頼った。

唯一希少な材料が足らないという。


それは、己の母が身を蝕まれながら齧り続けた毒草だった。


幼き頃のように自分がその毒草そのものであるなら、その血や体液は薬に使えるのでは無いか。そう思い、姫は薬師から作り方を教わりながら足りなかった少量の毒草の代わりに、自らの血を少量混ぜてみた。


完成したそれを誰かに試す時間はなく、王子の横たわるベッドに腰をかけ、薬を飲ませようとした。

もはや王子は飲み込む力も無いのか、注ぐ唇のはしから溢れていく。

そこで、姫は血を混ぜる前の薬を自らの口に含み、ゆっくりと王子の口へ流し込んだ。


言葉を交わすこともなく、始めて触れた夫となる王子の唇。

その温もりに、涙を溢した。


やっと、今だけ、誰かに触れることを許された。



薬師だけが、姫の傍に寄り添い、薬を作りだすところを見ていた。

自らの血を混ぜていた姿に「生ける猛毒」と呼ばれた姫の噂が真実だと気づいた。



このままだと王子はいずれ命を奪われてしまう、と。

それと同時に、姫がいれば、国の民を流行り病から救えることもーー。




王子が柔らかな光の中で目をさました時、城や近隣の町や村で流行っていた病が沈静化した事を知った。


民を思いやる優しい王子は喜んだ。

そして薬師に問うた。


どうして病は治まったのか、と。


薬師は答えた。

一頭のヤギが草と間違えて毒草を食べ死にました。その体内に貴重な毒の成分が残っていたのです、と。


その身体が王子と民を救った。


それを聞いた王子は喜んだ。

ヤギを丁重に葬るよう薬師に伝え、薬師は静かに頷いた。

四年ぶり?に書いた練習用の物語

絵本みたいなものが書きたかった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ