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第7章:過去の灰

みなさん、こんにちは、ミンゴです。


体調不良により更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。待っていてくださり感謝しています!第7章をお届けします。楽しんでいただければ幸いです!


コスタリカより、愛を込めて。Pura vida!

小屋への帰路は静かだった。ベネシアの夕焼けが空を非現実的な紫色に染めていたが、ローズにとって世界は依然として泥と血の色をしていた。敷居を跨いだ瞬間、黒い毛皮の塊が彼らに飛びかかってきた。


「ニャー!」


ネクロの血を引く堂々たる獣、フェリックスが、親しげにリリアに頭をこすりつけた。その様子に、場の緊張はほぐれた。


「へへ、戻ってきたよ」


リリアは巨大な猫を抱きしめ、その毛皮に顔を埋めた。


「誰を連れて帰ったか見てごらん、フェリックス」


動物は彼女から離れ、ローズに近づいた。今回は牙も唸り声もなく、猫は柔らかな鳴き声を上げ、彼の足元をぐるぐる回り始めた。おそらくリリアの服に付いた戦いの痕跡を認識したのだろう。


「また会えたね……」


ローズは呟いた。手を伸ばし、絹のような毛皮に埋めた。一瞬、動物の温もりが彼の震える指を鎮めた。


「夕食を作るから、ゆっくりしてて」


リリアは微笑みながら言ったが、その意味をローズはすぐには理解できなかった。

彼はうなずき、目を部屋の中へ走らせた。


(ここで彼女と一緒に暮らすのか? こんな狭い空間で……まるで新婚夫婦みたいだ)


その考えに彼は居心地の悪さを感じた。小屋は清潔で、小さなバスルームとリビングがあったが、部屋は一つしかなかった。


(部屋が一つだけ? 俺に床で寝ろって言うのか? ……いや、考えてみれば、一銭も持っていないんだ。文句は言えないな)


彼は木製のベンチに倒れ込んだ。疲れは肉体的なものだけではなく、長年の重みが一気に押し寄せたようだった。


フェリックスが彼のそばに飛び乗って、まるで彼の魂を裁くような金色の目でじっと見つめてくる。ローズが目を閉じると、ベネシアのそよ風が突然、彼が生まれた山々の冷たい風音に変わった。

________________________________________

【6年前 —— シアオリ山】


「ははは! さあ、キュウ! もっと上へ!」


13歳のローズは、まだ痛みを知らない笑顔で斜面を駆け上がっていた。空気は薄かったが、彼の肺は高度に耐えられるように鍛えられていた。


「ワン、ワン!」


彼の小さな相棒である犬のキュウが、舌を垂らして坂道に苦戦しながらついてくる。


「もう疲れたのか?」


ローズは樹齢百年の松の木の下に座り、リンゴを分けた。


「いいかキュウ……シルア山の頂上には、神の力を与えてくれる遺物があるって言うんだ。いつかそれを見つける。そうすれば、父さんも部族のみんなも守れるから」


キュウは興奮して吠えた。ローズは拳を握りしめた。その遺物が『フローレス』に関係していることは知っていたが、子供の心にはそんな理屈はどうでもよかった。


「ローズ!」


低い声が下から響いた。


「あ、兄貴だ!」


ローズは飛び上がるように立ち上がった。


「イカロス、ここだよ!」


兄が少し遅れて現れ、息を整えた。肩幅が広く優しい目をしたイカロスは、いつもローズを壊れ物を扱うように大切に守っていた。


「予告なしにそんな高いところに行くなよ……驚いて心臓が止まるかと思ったぞ、小さな探検家さん」


イカロスはそう言うと、ローズの髪をくしゃくしゃに撫でた。


「家に帰ろう。母さんが飯の準備をして待ってる」


当時、世界は単純だった。不気味な死も、呪われた雨の日もなかった。ローズと家族、家庭の温もり、そして「強くありたい」と願う少年の純粋な夢だけがあった。

________________________________________

村に着くと、母親のマリアが腕を組んで待っていた。その目は、一族の重責を担う家長の揺るぎないものだった。


「ローズ、あまり遠くへ行ってはいけません」


彼女は叱ったが、その瞳は心配で揺れていた。


「あなたにはネクロフローがないことを忘れないで。他の者と同じようなリスクは負えないのよ」

「分かってるよ、母さん……」


ローズはうつむいた。その言葉は、影のようにいつも彼に付きまとっていた。  家の中では、世話好きな女性のザンドラがスープを配っていた。マリアが切迫した口調でささやくのが聞こえる。


「同胞の晩餐会で、ローズに『ボードの鎧』を授けるよう要請するつもりだ」

「えっ!?」


ザンドラは杓子を落としそうになった。


「あれはシルア山の最も神聖な宝物よ。シルア族が承諾すると思うの?」

「彼しか候補者がいないのよ」


マリアは断言した。


「フローレス(無能力者)であるからこそ、鎧のネクロフローに精神を崩壊させられることがない。戦争が迫る今、生き延びる唯一のチャンスだわ」


その夜の家族の空気は、どこか重く、気まずいものだった。

一週間後、焼ける肉の香りと数百の声のざわめきがシルア山の空気に満ちていた。二つの部族の結束を祝福するかのような星空の下、晩餐会は最高潮に達していた。しかしローズにとって、笑い声の一つ一つが警告のように響いていた。


「計画を実行する時だ……」


ローズは礼服のローブを直し、相棒にそう囁いた。


「ワン!」


キュウは、彼には共有できないほどの喜びで尻尾を振って応えた。

マリアが立ち上がった。テーブルの上に、石板のように重い沈黙が降りた。ローズは肺の中の空気が凍りつくのを感じた。


「私はシアオリ族のマリア・ロクセスです。長老たちに正式にお願いがあります……」


いつもは揺るぎない彼女の声が、わずかに震えていた。


「私の息子、ローズはフローレス(無能力者)です」。

「どうか、私の息子に「盤面の鎧」の力を授けてくださいますよう、謹んでお願い申し上げます」。


驚愕のざわめきが群衆を駆け巡った。長老たちの顔は硬くなり、軽蔑の仮面へと変わった。


「静粛に!」


長老の一人が怒鳴った。


「マリア……そんな宝物を、お前の部族の子供に渡すことで、我々に何の利益がある? 彼は生まれながらの無能力者であり、死ぬまでそのままだ。鎧は、その呪いから彼を守ることはできない」

「鎧は、精神の流れである『心の流れ:つまり、「精神の波」を用いる」


マリアは、崩れ落ちそうになりながら説明した。


「他の戦士なら、魔力の衝突による副作用に苦しむでしょう。ですが、ローズは『空』だからこそ、その問題がありません。彼なら正気を失うことなく、完璧な守護者になれるのです」


長老たちはささやき合った後、冷酷に宣告した。


「技術的には理にかなっているが、特例は認められない。シアオリ族の子供に宝を与えることは、我々の戦士たちの面目を潰すことになる」


ローズは、足元の地面が消えたような感覚を覚えた。母親の誇りが皆の前で踏みにじられ、その原因が自分であることに。マリアは屈辱の重みに押しつぶされるように身を縮めた。


(なぜ俺はこんな風に生まれてしまったんだ? なぜ俺だけが、空っぽなんだ……?)

________________________________________

その夜、毛布にくるまって眠っていたローズは、地を揺るがす轟音で目を覚ました。


ドォォォン!


空は地獄のようなオレンジ色に染まっていた。焦げた藁の匂いと血の鉄臭さが鼻を突く。帝国の騎兵たちが炎の中を駆け抜け、逃げ惑う人々を蹂躙していた。


「ローズ!! 今すぐ逃げろ!」


煙の中からイカロスが姿を現し,必死の力で彼を掴んだ。


「兄さん? 何が起こっているの?」

「帝国軍だ……逃げろ!」


瓦礫の中を駆け抜け、隠れ場所へとたどり着いた。そこではマリアとザンドラが、青ざめた顔で待っていた。マリアはローズを、まるで二人の体を融合させようとするかのような力で抱きしめた。


「ローズ……あなただけ行って。ザンドラと一緒に」

「え? なぜ? みんなで行こうよ!」

「この人は瞬間移動ができる……あなたを安全な場所へ連れて行ってくれるわ。私たちは……ここに残る。大丈夫、誰も私たちを見つけられないわ」


それは嘘だった。美しくも絶望的な嘘。無垢なローズは、それを信じるしかなかった。

イカロスが近づき、革の袋を渡した。中には、奇妙な金属製の首飾りが三つ、炎の中で光っていた。


「ローズ、これを受け取れ」。

『ボードアーマー』だ。老いぼれたちが隠していたのを持ち出してきた……今は君のものだ」

「俺の? 使い方を教えてくれるの、兄さん?」


イカロスは、ローズが理解するのに何年もかかるであろう、憂いを帯びた微笑みを浮かべた。


「いや、坊や。それを使う方法は、自分で学ばなければならない」


ザンドラがローズの手を握った。それが故郷で見た最後の光景だった――炎の前に立つ母と兄が、死を告げる騎兵の足音を聞きながら微笑んでいる姿。首筋に鋭い衝撃が走り、叫ぶ間もなく彼は暗闇に沈んだ。

________________________________________

ローズはゆっくりと目を開けた。そこは、見知らぬ小屋の静寂だった。


「ん……? 母さん? イカロス? ザンドラ?」


ローズは起き上がり、心臓が跳ねるのを感じながら周りを見回した。

隅っこに座っていた老人が、深くため息をついた。


「坊や……誰のことか知らんが、ここにはお前以外誰もいないよ」


それは、少年の無垢が終わり、孤独な戦いが始まる瞬間だった。

________________________________________

【ベネシアにて】


「ロー……! ローズ……! ローズ!!」


ローズは目を見開いた。記憶の中の血に染まった空が、リリアの小屋の天井に取って代わる。リリアが心配そうに彼に身を乗り出していた。


「え……? どうしたんだ?」

「ローズ、大丈夫?」


リリアは手を伸ばし、限りなく優しく、彼の頬を拭った。


「どうしてそんなに泣いているの……?」


ローズは、温かい湿り気に驚いて自分の顔に触れた.


「ああ……大丈夫だ。ただ、昔の夢を見ていただけで……」


彼は顔を隠すように背を向けたが、胸の奥の疼きは消えなかった。リリアは黙って、彼の背中を見つめた。この少年の過去に何があったのかは分からない。だがその瞬間、彼を守るという決意は、義務ではなく彼女自身の「誓い」へと変わった。




7章をお読みいただき、ありがとうございます!


主人公ローズの過去が明かされる、物語の根幹に関わる重要な章でした。


もし気に入っていただけましたら、下にある【☆☆☆☆☆】の評価や、ブックマークで応援をいただけると嬉しいです!皆様の反応が、執筆の大きな励みになります。


Pura vida!

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