表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/25

第七章:決着、そして客人へ

ジークルーネはルンカを右に持ち左手にバックラーを持ち紫の扇を弄ぶ黒闇天を凝視した。


『・・・・一体、何をしたの?』


言葉を最後まで言う前に何か鋭い気を感じて咄嗟に盾で防御したが、遥か後方に飛ばされた。


『恐らく魔力を込めた真空の刃』


バックラーに来た衝撃から推測した。


「どうした?怖くて足が動かぬか?」


動かないジークルーネに黒闇天は挑発的な笑みを浮かべた。


「貴方、何者?少なくとも悪魔や天使の類ではないはね?」


格好からも推測したが、黒闇天は自分と同じく別な世界の住人だとジークルーネは睨んだ。


「別に何者でも良いじゃろ。まぁ、名前くらいなら名乗ってやろう。童は黒闇天。飛天の妻になる女じゃ」


「夜叉王丸の妻ですって!?」


「そうじゃ。主のように品の欠片も無い女は屋敷に無用じゃ。今すぐ北欧に帰れ」


扇を閉じてビシッとジークルーネを差して言った。


「嫌よ。それに、負けっ放しは嫌いなの」


貴方を倒すと言うジークルーネ。


「ふん。強がりな女じゃ。もっとも無傷で返す気はなかったから良いがの」


「望む所よ」


ジークルーネはルンカとバックラーを握り直した。


「それでは手並み拝見と行くかの!!」


黒闇天が扇を開き魔力を込めて真空の刃を放った。


風の刃、鎌居達だ。


「同じ手が二度も通じるものですか!!」


ジークルーネは瞬時に鎌居達の方向を読んで身体を動かした。


鎌居達を余裕で避けたジークルーネは黒闇天の立っていた場所を見たが、既に黒闇天の姿はなかった。


「何処に行った?!」


辺りを見回すが黒闇天の姿は見えない。


「後ろがガラ空きじゃぞ」


背後から声が聞こえ慌てて振り返ろうとした。


しかし、その前に拳が突き出されてきたのでバックラーでガードした。


ルンカを突き出したが、避けられて肘に畳んだ扇で強烈な一撃をお見舞いされた。


相手の肘を畳んだ扇で叩き武器などを落とす弱骨折りだ。


鎧を着ていても隙間を狙った強烈な一撃のためジークルーネはルンカを落とした。


黒闇天は隙を見逃さずルンカを蹴って遠くに飛ばすと更に攻撃した。


右手を掴み逆手にして骨を折ろうとした。


しかし、ジークルーネもやられっ放しではなく左手に持ったバックラーで攻撃してきた。


「ちっ」


舌打ちして放れた黒闇天。


「・・・・中々やるわね」


少し息を乱しながらジークルーネは黒闇天に言った。


対する黒闇天は汗一つ流してなかった。


「主が弱いだけじゃ」


バッサリと切り捨てる黒闇天にジークルーネは青筋を立てた。


「そのへらだ口を黙らせて上げる」


腰に差したヴァイキングソードを引き抜いた。


「どっちが黙るか、まだ分からんようじゃな」


黒闇天は扇を広げて鎌居達の構えをした。


「私が剣を抜いた時点で貴方の負けは決定よ」


ジークルーネは間合いを詰めて剣を振り上げた。


ビュン、と風を切る音が鋭く重量感のある音だった。


黒闇天は間髪で交わし再び拳を突き出そうとしたが、振り下ろした剣を振り上げて来たので避けた。


「まだまだ!!」


剣を避けたが、バックラーで突っ込んできた。


「鎌居達!!」


下に向かって鎌居達を放ち跳躍して避けると左手でコルトMKⅣを抜き三回撃った。


ドンッドンッドンッ


三発の銃声がした。


銃声が止むと同時にジークルーネが地面に片膝を着いた。


膝からは銃痕の後があり血が流れていた。


「どうじゃ?貫通弾の威力は?」


コルトから出る白煙を息で消しながら黒闇天は笑った。


「な、何をしたっ」


「童の魔力を弾に込めて発射したのじゃ」


これにより貫通力を高めたと言った。


黒闇天が撃った三発の弾はバックラーを貫通し一発がジークルーネの左膝を護る足甲の隙間を貫通した。


「お前の負けだな。ジークルーネ」


何時の間にか移動してきた夜叉王丸がセブンスターを吸いながらジークルーネの傍まで近づいた。


「どうじゃったかな?飛天」


「悪くないな。拳銃とのコンボが見事だった」


好きな男から素直に褒められて黒闇天は嬉しくて堪らないのが夜叉王丸に抱き付いた。


その時、ジークルーネの顔面を思いっ切り踏ん付けた。


「ぶっ!!」


地面に大の字で突っ伏したジークルーネを気にせずに黒闇天は夜叉王丸に抱き付き胸に擦り寄った。


「主に褒められると天に昇った気持じゃ」


スリスリと顔を擦り寄せる黒闇天。


「天に昇るとは大袈裟だ」


苦笑しながら黒闇天の髪を撫でた。


遥か後方ではカリが般若の顔になり襲い掛かろうとするのをラインハルトが必死になって止めていた。


クレセントは無表情で見つめていた。


「あ、貴方、何者よ?」


顔面から鼻血を出しながらジークルーネが恨めし気な眼差しを向けながら聞いた。


「さきほど名乗ったじゃろ?童は黒闇天。他の誰でもない」


パチンと扇を開き扇ぎながら答えた。


懐に手を入れて白いハンカチを取り出し無造作に投げた。


「ほれ。それで血を拭け」


黒闇天が投げたハンカチをジークルーネは取ろうと下が足を痛めたため取れなかった。


「仕方ねぇな」


夜叉王丸は地面に落ちたハンカチを取りジークルーネの顎を掴み上に上げると鼻血を拭いてから足を持ち上げて太股あたりをハンカチで縛った。


「痛ッ」


「ワルキューレなんだから少しは我慢しろ」


夜叉王丸は苦言を言うジークルーネを軽く叱った。


「黒闇天。ルンカを取って来い」


何で童が、と愚痴を言いながら黒闇天はルンカを取りに行った。


「あの娘は、何者なの?」


黒闇天が離れてから夜叉王丸に尋ねた。


夜叉王丸は立ち上がってセブンスターを銜えようとしていた。


「あいつは黒闇天だ」


「名前じゃなくて素性よ。あの子、並はずれた力を持ちながらセーブしてたでしょ?」


鋭い洞察力に夜叉王丸は苦笑した。


「そこまで読むとは流石だな。確かにあいつが本気を出せば屋敷の一つ位は全壊に出来る」


「そんな力を持つ邪神が貴方の屋敷に居候する理由は?」


「客人として住まわせている」


「あの子の両親は誰?貴方の妻になる女って言ってたし着ている物も高価だから良い所の御姫様かしら?」


「そこまで知りたい理由は何だ?」


「私を負かした相手の素性くらいは知っておきたいの」


「知っているが、あいつが知られたくないから言わない」


「知られたくない所を見ると妾に産ませたって所かしら?」


勝手に推察するジークルーネ。


「勝手に童の素性を推理するな」


ルンカを取ってきた黒闇天が不機嫌な口調と顔でジークルーネを睨んで来た。


「童の素性など、どうでも良いじゃろ?」


「ジークルーネ。お前も知られたくないのに無理やり知られると嫌だろ?」


「それは、そうだけど・・・・・」


「だったら聞くな。そうすれば、期限付きだが屋敷に住まわせてやる」


「本当?」


「傷が治るまでだが、な。どうする?」


「分かったわ」


ジークルーネは素直に頷いた。


「よぉし。決定だ」


夜叉王丸は黒闇天からルンカを受け取りジークルーネに渡すと黒闇天を連れて玄関に帰ろうとした時だった。


『見つけたぞ!!ジークルーネ!?』


二人分の大声が聞こえた。


「この声は・・・・・・・」


大体と予想は着いていながら夜叉王丸は門の方角を見た。


そこにはシルヴィアとシャルロットが近衛兵、新鋭隊を率いていた。


「・・・やっぱりな」


はぁ、と溜め息を吐きながら夜叉王丸はジークルーネを見た。


「俺の屋敷に住む件だが、無理かもな」


あいつ等を敵に回したくないと夜叉王丸は言った。


恐らく期限付きでも屋敷に住まわすなんて言えば二人も住むと言い出しかねない。


そんな事をすれば連鎖反応を起こしてペイモンやベリフェゴールなども押し掛けてくるのは必定だ。


前にもラインハルトが住みついたと何処から嗅ぎつけて来たのか押し掛けてきた前科があるため夜叉王丸は警戒していた。


二人は夜叉王丸に近づくと今にもジークルーネに跳び掛らんとする気持ちを抑えて夜叉王丸に一礼した。


「・・・申し訳ありません。皇子様。鎖で繋いで船に乗せたのですが、鎖を引き千切り船から脱出したのです」


「私たちは報告を聞いて捕らえようとしたのですが、虎の如く暴れ回って逃がしてしまいました」


シルヴィアとシャルロットは申し訳ないともう一度、謝った。


「鎖を引き千切るとは熊じゃな」


バンッと扇を開き黒闇天はルンカを杖に立ちあがったジークルーネを見た。


「熊とは何よっ。失礼ね」


「ふん。熊を熊と言って何が悪い」


互いに睨み合っている黒闇天とジークルーネ。


シャルロットとシルヴィアはジークルーネが足に怪我をしているのを見た。


「皇子様。そのワルキューレの怪我は?」


「黒闇天が付けた」


クイッと顎で指す夜叉王丸。


「貴様が付けたのか?」


「何じゃ?だったら、どうじゃと言うんじゃ」


シルヴィアの高圧的な物言いに黒闇天は不快感を露わにした。


「前々から気になっていたが、何者だ?黒闇天という奇妙な名前からして異国から来たな」


シルヴィアの質問にジークルーネも興味津々だった。


「貴様の出身国と両親の名前を言え」


これは近衛兵として命令だと言うシルヴィアに黒闇天はむっとした。


「貴様みたいにツンツンした女に命令される覚えはない」


黒闇天は答え様としなかった。


「答えないなら力づくでも聞き出す」


腰のカッツバルゲルを引き抜こうした。


「面白い。やれるものならやってみろ」


扇を構えた黒闇天。


しかし、二人の衝突は起きなかった。


「シルヴィア。やり過ぎよ」


シャルロットがシルヴィアのカッツバルゲルを掴んでいた手を掴んだ。


「貴様は宮廷騎士として皇子様を護る仕事を忘れたか?このように素性を明かさない娘を皇子様の傍に置いておくのは危険だ」


「いや、別に問題ないぞ」


危険だと言われた夜叉王丸はシルヴィアの肩を落とさせた。


「こいつの素性を俺が保証する。訳ありで教えられないが、由緒正しい家柄の娘だ」


なぁ?と黒闇天を見る夜叉王丸。


「・・・・そうじゃ」


むっとしながら黒闇天は頷いた。


「由緒正しい娘にしては行儀がなってありません」


シルヴィアは尚も食い下がろうとした。


「良家だからって皆が同じではないわ」


シャルロットが反論を述べた。


「飛天様が良家の子女だと言ってるんだから本当でしょ?それとも貴方は主人を信用できないの?」


シルヴィアが反論する前に言い募った。


「誰が信用できないと言った!私は皇子様を信頼している!?」


「それじゃ、黒闇天殿について聞かなくて良いわね?」


当然だ!!と言い終えたシルヴィアは自分が犯した失敗に気付いた。


「ふふふふ。相変わらず乗り易い性格ね」


優雅に笑うシャルロットに対してシルヴィアは悔しそうに歯ぎしりをした。


その様子を夜叉王丸は楽しそうに見つめ黒闇天、ジークルーネには訳が分からないといった顔立ちだった。


「・・・覚えておけ」


シルヴィアはギロリと黒闇天を睨んだ。


しかし、直ぐに逸らすとジークルーネを拘束しようとした。


「貴様は我々の監視下の元で治療を重ね完治次第、北欧に送り返す」


ジークルーネは嫌だと言ってルンカを構えようとしたが、シルヴィアが片腕を拘束して出来なくなった。


足の痛みで暴れられないジークルーネは口を喧しい位に動かして抵抗したが二人は気にしないで夜叉王丸に一礼して立ち去ろうとした。


しかし、背後から呼び止められた。


「待ちなさい」


二人が振り返ると薄青のセーターに濃紺のロングスカートを穿いた地獄帝国皇妃、美夜が立っていた。


「そのワルキューレさんは飛天さんが屋敷に住まわせようとしたのよ。それを許しもなく連れて行くのは良くないわよ」


穏やかながら威厳ある声だった。


美夜は優しく寛大だと民から慕われているが、皇妃という事もあり威厳ある姿になる時もある。


「しかし、皇妃様。このワルキューレは山賊紛いの行動に皇子様に無理難題を押し付ける不届き者です」


「それでも北欧神オーディーンの戦士でしょ?それなら丁寧に扱わないと失礼よ」


如何に山賊紛いの行動をしようと、と美夜は言った。


「これは皇妃として命令です。ジークルーネさんは傷が癒えるまで飛天さんの屋敷で暮らさせます」


シルヴィアは皇妃の美夜に何も言えずに項垂れた。


「貴方達が飛天さんを想う気持ちは解るわ。だけど、ここは私のお願いを聞いて?」


シルヴィアは渋々と言った感じでありながら皇妃の命令を無視する訳にはいかないので承知したと言った。


「ありがとう」


美夜は人懐こい笑みを浮かべた。


まるで猫だと夜叉王丸は思いながらジークルーネの頭を小突いた。


「おい。美夜ちゃんが身体を張って護ってくれたんだ。礼くらい言え」


言われてジークルーネは礼を言った。


「あ、ありがとうございます。皇妃様」


ペコリと一礼するジークルーネ。


「気にしないで。けが人を乱暴に扱って欲しくなかっただけだから」


ニッコリと笑う美夜。


「傷が治るまでゆっくりしなさい。飛天さんも望んでいる事だし」


ね?と夜叉王丸に話し掛ける美夜。


「まぁ、ね」


ポリポリと頬を掻きながら夜叉王丸は苦笑した。


「さぁ、この話はお終い。行きましょう」


美夜は背中を向けて歩き出し夜叉王丸はジークルーネの肩に手を回した。


「後でちゃんと手当てをするから我慢してろ」


ジークルーネは痛みを我慢しながら強がりを言った。


「ふんっ。偉そうに言わないでよ」


「貴様ッ。飛天に対して口の聞き方がなってないぞ!!」


バシリとジークルーネの頭を叩く黒闇天。


「何するのよ!けが人に向かって!!」


「怪我をしている割には元気ではないか」


思いっ切り皮肉を込めて笑う黒闇天。


夜叉王丸は新たに敵を増やす黒闇天に呆れながら屋敷の方へと足を運んだ。


その後ろ姿をシルヴィアとシャルロットは悔しそうに見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ