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第六章:邪神VS戦乙女

屋敷に着き兵士たちは兵舎へと帰って行き夜叉王丸達も屋敷の方へと向かった。


その間、クレセントは終始無言を通していた。


「ただいま」


玄関を潜るとジャンヌ、ヴァレンタイン、黒闇天、カリが夜叉王丸達を出迎えた。


美夜、真夜、美羽が居ないから恐らく外出中だろう。


「お帰りなさいませ。飛天様。あら?そちらの方は?」


何時も通りの曇り一つ無い笑顔で出迎えたジャンヌは見慣れない格好と背中に背負った長大剣を背負ったクレセントに驚いた。


「こいつは今日から屋敷に仕えるクレセントだ」


夜叉王丸がクレセントを紹介した。


「ヴラド・ブローディア・クレセントと言います」


軽く会釈し自分の名前を言うクレセントにカリとヴァレンタインは目を見張った。


「あのヴラド一族!!」


「あの一族は滅んだ筈・・・・・・・・」


「?」


ジャンヌと黒闇天だけが何なのか解らないと顔をしていた。


「私は、かつて夜叉王丸様に一族を皆殺しにされました」


さらりと自分の過去を話すクレセント。


『!!』


ジャンヌと黒闇天は目を見張った。


ヴァレンタインとカリは、やはりと言う顔をして夜叉王丸の後ろに立っていたダハーカ達を睨んだ。


ダハーカ達は苦々しい顔をして視線を背けた。


元死天使だったヴァレンタインは、クレセントの一族が傭兵上がりの騎士で名うての暗殺者一族であった事を知っていた。


カリも軍人の家系で生まれた事からアルバルド公爵家が、裏で汚い仕事をサタナエルから頼まれてしていたのを知っていた。


そしてアルバルド公爵家が崩壊したと同時に、ヴラド一族も夜叉王丸の手によって壊滅されたのを知っている。


ジャンヌ達が戸惑っている中で夜叉王丸は静かに言った。


「こいつが言った事は本当だ」


「こいつの一族は俺を殺そうとした刺客で、一族総出で勝負を挑まれた」


「それで皆殺しにしたのですか?」


ジャンヌが無理やり落ち着かせた声で聞いてきた。


「そうしないと、俺が死んでいた」


「そうですか。分かりました」


沈んだ声で納得した声のジャンヌ。


「それで、何で主はその刺客の生き残りを連れて来たのじゃ?」


黒闇天が興味深げに聞いてきた。


軍神を父に持ち邪神である為か何処か冷静な部分があるような聞き方だった。


「こいつが安定した生活を望んでいると言ったからだ」


夜叉王丸は経緯を話した。


「なるほど。主も酔狂な男じゃな」


クスクスと笑う黒闇天。


やはり邪神の血を引いているだけあると夜叉王丸は思った。


「まぁ、主は普通の男とは違うからの」


笑いながら黒闇天は廊下を歩いて行った。


「私が貴方の部屋へ案内します。さぁ、行きましょう」


ヨルムンガルドがクレセントを率先して玄関に上げてダハーカ達は、ヴァレンタインとカリの無理やり背中を押して消えて行った。


二人は抵抗したが、男の手には勝てずに奥へと消えて行った。


玄関に残ったのは夜叉王丸とジャンヌだけとなった。


「・・・俺を軽蔑するか?」


夜叉王丸は静かに玄関に腰を下ろしジャンヌに背を向けて喋った。


「幾ら自分の命が危なくても一族郎党を皆殺しにするような男は軽蔑するだろ?」


自嘲気味に笑う夜叉王丸。


この姿を見たらベルゼブル達は、夜叉王丸が再び元に戻ったと思うだろう。


かつて自分を奈落の底から救い出してくれたジャンヌ。


しかし、それは一瞬の救いでしかない。


彼は今でも自暴自棄になる時がある。


今回クレセントを仕えさせると決めた時も心の中では、ジャンヌに嫌われるのではないかと危惧していた。


帰り道でもヨルムンガルド達に聞かれた。


『ジャンヌ殿に知られますが、大丈夫ですか?』


『大丈夫だ』


気丈に答えたが心は不安で一杯だった。


ジャンヌは心優しい娘だ。


だから、どんな奴でも傷つくのを見たくないし起こっても欲しくないと思っている。


その彼女を悲しませるような事を自分はやった。


過去とは言え、やった事に変わりはない。


もし軽蔑されても仕方ないと思う反面で、軽蔑されたら生きていけないという気持ちが夜叉王丸の中で混沌としていた。


『・・・・・仕方ねぇよな』


ふっ、と自嘲していると後ろから抱き締められた。


「・・・私は、貴方を軽蔑など致しません」


ジャンヌは夜叉王丸の背中越しから胸に白い両手を回して喋った。


「貴方は、クレセントさんの一族を皆殺しにしました。しかし、それは自分の命が危ないからやった事です」


誰も聖人君子にはなれないと言った。


「生きる者は、時に残酷な事をしなければ、いけない事もあります」


「私も、そのような事態に追い込まれれば相手を、傷つけます」


ジャンヌの手は震えていた。


それは自分が罪を犯す事に恐れての震えだった


「それに、私は言ったではありませんか?」


ずっと傍に居ると・・・・・・・・・


「私は飛天様のお傍にずっと居ります。例え、飛天様が罪人と言われようと、私は傍にいます」


だから大丈夫です、と言うジャンヌ。


「・・・・・ありがとう」


夜叉王丸はジャンヌの海よりも深く空よりも広い心に感謝した。


「さぁ、ダハーカさん達も待って居ますから行きましょう?」


「・・・あぁ」


ゆっくりと立ち上がり夜叉王丸は靴を脱いで上がった。


その顔は迷いを断ち切って潤っていた。


二人が肩を並べて奥へと進もうとした時だった。


「夜叉王丸!!」


地から這い出したような声が背後から聞こえてきた。


夜叉王丸はジャンヌを後ろに隠し振り返った。


そこには鬼女のような形相をしたジークルーネが立っていた。


身体の所々に鎖が巻かれていた後があるから引き千切って来たのだろう。


「鎖を引き千切ったのか?まるでフェンみたいだな」


忠狼の名前を出して笑う夜叉王丸。


ジャンヌはジークルーネの形相に怖がっていた。


「煩い!!言ったでしょ?私は貴方を倒すまで帰らないって・・・・・・・・!!」


ルンカを振り上げようとしたが首筋に刃を当てられて動きを止めた。


「・・・・それ以上、動くと斬る」


ツヴァイハンダーを片手で持ったクレセントがジークルーネに無表情と抑揚の無い声で警告した。


「ほぉう。随分と速いな」


夜叉王丸はベルトに差していた扇を取ってパチリと音を立てて開いた。


黒一色に染められ三日月が描かれているシンプルなデザインの鉄扇だ。


「主人を危険から護るのは従者の務めです」


無表情で喋るクレセントは、ジークルーネを見て喋り出した。


「大人しくしろ。ジークルーネ。私とて無益な殺生は好まない」


クレセントは刃を首筋に当てたまま言った。


「貴方には関係ないでしょ!!」


刃を当てられながら怒鳴るジークルーネ。


「私はただ主人である夜叉王丸様に害が及ぶ者を排除するだけだ。警告を無視した以上は死んでもらう」


無表情で言うと刃を引こうとした。


その腕を太い大木のような腕が掴んだ。


「そこまでだ。姐ちゃん」


ダハーカがクレセントの腕を掴みながら笑った。


「まったく。急に身を翻したからビックリしたぜ」


くくくくくっ、と笑うダハーカ。


「ここで無益な殺生は禁止だ」


「・・・これは主人に害する者を殺すだけだ」


「この嬢ちゃんじゃ、飛天に害はない」


少し煩いだけだと言うダハーカ。


ジークルーネは嬢ちゃんと呼ばれ怒り心頭だが、刃が首筋にあるため何も出来ない。


「お前さんの忠義心は大したもんだが、主人の意に沿わないのは頂けないな」


チラリとクレセントは夜叉王丸を見た。


「ダハーカの言う通りだ。無益な殺生は止めろ」


クレセントはツヴァイハンダーを収めた。


「あんまり強硬な手段は取らないでくれ」


少し困った顔をする夜叉王丸。


クレセントは無表情に見ていたが、プイッと逸らした。


「・・・・承知しました」


それだけ言うと音も無く姿を消した。


「やれやれ。随分と頑固な女だ」


ダハーカと夜叉王丸は小さく嘆息した。


ジークルーネはクレセントの刃が消えてからも少し放心していた。


少し経つとドタドタと幾つもの走って来る音がした。


「旦那!何が遭ったんですか?!」


『主人(様)ご無事で!?』


『飛天(様)大丈夫ですか?!』


「夜叉王丸様!?」


「おいおい。何の音だ?」


ゼオン達が口々に夜叉王丸の心配をして駆け付けた。


「貴様、ワルキューレか!!」


夜叉王丸が説明する前にヴァレンタインがジークルーネの姿を見て眉を顰めた。


「そうよ。悪い?」


ギロリとヴァレンタインを睨むジークルーネにヴァレンタインも負け時と睨み返してきた。


「ワルキューレが魔界に何の用だ?」


「貴方には関係ないでしょ。それより、そっちこそ誰よ?」


「私はヴァレンタインだ」


ジークルーネの問い掛けにヴァレンタインは名前だけ名乗った。


「ヴァレンタイン?もしかして“紅の堕天使”」


かつての異名を言われヴァレンタインはうろたえた。


「・・・ふぅん。天魔大戦で一人だけ取り残された哀れな天使が居るって聞いたけど、貴方だったの」


どこか馬鹿にした笑みを浮かべるジークルーネにヴァレンタインは怒りを露わにした。


「・・・・だったら、何だ?」


「同じ武を志している者として恥ずかしいわね」


「おい。ジークルーネ」


夜叉王丸が制止の声を上げた。


「敵に捕まって自害もしないなんて一武将として恥じを知りなさい」


「黙れ!!貴様に何が解る!?」


「あーあ、やだやだ。これだから、お嬢様育ちの武将は・・・・・・・・・!!」


最後まで言う前にジークルーネは玄関口を破り後方に飛ばされた。


「・・・・・それ以上、ヴァレンタイン殿を侮辱するのは、童が許さん」


黒闇天が紫の扇を広げて静かに言った。


「黒闇天さん・・・・・・」


ジャンヌが驚いた表情をしていると黒闇天は静かに頭を下げた。


「申し訳ありません。ジャンヌ殿。玄関を壊してしまい・・・・・・」


「俺には謝らないのか?」


夜叉王丸の言葉に黒闇天は口角を上げて笑った。


「童が先に動かなかったら、主が壊していたじゃろ?」


腰に差した村正の柄に手が掛っているのを指さして黒闇天が笑った。


「まぁ、な。ちょうど良い。黒闇天。そいつに扇術の強さを見せてやれ」


顎で命令する夜叉王丸に黒闇天は言われるまでもないと言って玄関を出た。


何時の間にか消えた筈のクレセント姿を現して黙って腕を組んだ。


どうやら黒闇天の実力を見る積もりらしい。


カリとラインハルトも傍観する事にしたのか武器を収めダハーカ達に至っては最初から傍観を決め込んでいたのか床に腰を下ろしていた。


「ヴァレンタイン。あんな女の言う事は気にするな」


悔しそうに唇を噛むヴァレンタインの頭を優しく叩く夜叉王丸。


「夜叉王丸様・・・・・・・」


「お前は俺と正々堂々と死力を尽くして戦ったんだ。それを誇りに思えよ」


捕虜になったから屈辱などと思う事はないと夜叉王丸は言った。


ジャンヌもヴァレンタインを優しく慰めた。


「さぁて、何処まで戦えるかな?」


夜叉王丸は睨み合う二人に視線を向けた。


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