第二章:オタク悪魔
地獄の処刑人で出た、悪魔を少し出します。
食卓場に着くと既に帰って来たラインハルトとダハーカ達が座って待っていた。
真夜達はまだ居なかったが、時期に来るだろうと思い夜叉王丸座った。
ヴァレンタインは厨房へと消えて食卓場には男だけという花もへったくれもない場面になった。
「はぁー、早く真夜達が来ないかな?男だけの食卓なんて味気が無さ過ぎる」
ダハーカが大きく溜め息を吐きながら悪態を着いた。
普段はセクハラか馬鹿な事しか言わないのに今回は正論だった。
「けっ。年がら年中の色情魔が」
狼姿のフェンリルが鼻を鳴らしながら笑った。
夜叉王丸の第一部下と自負している彼は人間の姿より狼の姿で居るのが多い。
「何だよ?本当の事だろう?」
ダハーカは椅子に踏ん反り返りながら言い返した。
「なぁ?ラインハルトも思うだろ?」
隣で静かに待っていたラインハルトは話を振られて困り果てた。
「え?あ、は?ええ、とー・・・・・・・」
「ラインハルト。その馬鹿の言葉を真剣に答えようとするな」
夜叉王丸は困り果てる弟子に助言した。
「旦那の言う通りだ」
ゼオンが夜叉王丸の言葉に賛同した。
「は、はぁ・・・・・」
曖昧に頷くラインハルト。
彼が夜叉王丸の弟子となりダハーカの指揮する奇襲部隊に配属されてから既に三か月が経った。
その間に彼は目覚ましい成長を遂げているが、優柔不断な性格の面は未だに変わる事はなく、夜叉王丸達を苛立たせることがあった。
「どうやったら優柔不断な性格が直せるんだ?そんな性格だからジークに舐められるんだぞ?」
ダハーカが呆れ果てた口調でラインハルトを見た。
「うぅぅ・・・・・・・・」
「やっぱりドゥミ・モンドに連れて女を抱くのが良いな」
「この前はドタキャンされたが、今度はさせんぞ」
ギロリと黄色の縦目で不肖な部下を睨むダハーカ。
ラインハルトは貫禄のある瞳に項垂れた。
「まぁ、これも運命だと思え」
ポンポンと茨木童子が右手で肩を落とすラインハルトの肩を叩いた。
男だけで話をしていると廊下から二人分の声が聞こえてきた。
「拳と見せかけて銃を使うなんて卑怯よ!!」
「敗者の言い訳じゃな」
何やら卑怯だとか敗者だとか聞こえてくるから黒闇天とカリだろう。
「やれやれ。また黒闇天の勝ちのようだな」
夜叉王丸は小さく息を吐いた。
「カリ殿は特攻的な攻撃しかしませんからね。黒闇天殿のような臨機応変な攻撃には弱いのですね」
ヨルムンガルドが話から分析したように喋った。
「戦いにおいては死を恐れない精神も必要だが、臨機応変に対応できるのも必要だ」
「二人を足して一人前ですね」
ゼオンが笑った。
「ラインハルトといい半人前が多いな」
ダハーカが豪快に笑ったが口の中に花瓶が投げられて盛大に後ろに倒れた。
「(私、童)は一人前(じゃ、です)!!」
声を揃えて大きな声を出すのは黒闇天とカリだ。
二人とも汗を掻いた事から風呂に入って来たのか少し頬が赤かった。
「飛天、童は一人前じゃろ?」
黒闇天が夜叉王丸に聞いてきた。
「私が一人前ですよね?」
カリも負け時と聞いてきた。
「どっちも半人前だ」
二人は肩を揃えて落とした。
「ふぉうふぉう。ふぁまふぁまふぃぎゅうがふぁりない(そうそう。まだまだ修行が足りない)」
花瓶を口に入れたままダハーカが身を起こしながら言った。
その瞬間に顔面にもう一つの花瓶が飛んで来て再び床に沈んだ。
二人は睨み合いながら席に着いた。
そんな二人にやれやれ、と肩を落としながら夜叉王丸は小さく息を吐いて食事が来るのを待った。
少し待つとジャンヌとヴァレンタインが食事を持ってきた。
真夜達もそろそろ帰って来ると分かっているのか一緒に食事が置かれた。
その予想は的中で間もなく真夜達が帰って来た。
一緒にソフィーも帰って来たが、疲労仕切っていた。
「大丈夫か?ソフィー」
夜叉王丸は心配になり椅子から立ち上がってソフィーに近づいた。
「・・・少し疲れました」
何時もなら大丈夫だと答えるのに今回に限っては疲れたと言うからにはピークに達していると解った。
「今日は早めに食事を済ませて休め。それから一週間くらいは休養を取れ」
皆も心配そうに頷いた。
「で、でも、それでは患者が・・・・・・」
「心配するな。ちゃんと代わりは用意する」
夜叉王丸の脳裏では既に、と在る人物が浮かんでいた。
主人とも言える夜叉王丸の言葉にソフィーは頷いて席に着いた。
その後は何事もなく食事を終えた。
夜叉王丸は食事を終えた後でソフィーの代わりとなる人物に会いに行く為に外出した。
コートと帽子を被り馬小屋に止めてあるユニコーンに乗り颯爽と夜の万魔殿を走った。
その人物は万魔殿の東側にある中階級の上位に位置する住宅地で暮らしている。
実力などで言えば高階級に位置するが、職業が職業だけに出世が望めないし進んでやりたいと思う職業ではないから中階級の住宅地で暮らしている。
その他にも上げるとすれば趣味に問題があるのだが、それは誰も口にしない。
「今頃は一人で“あれ”を見てるんだろうな」
今の時間帯なら食後のデザートを楽しみながら見ている筈だ。
そう思ってユニコーンを走らせること三十分。
中階級の住宅地に到着した。
東側は北側に比べて中堅クラスの軍人などが住んでいる。
周りを見ると夜空を見ながらジョッキに入ったビールを飲み仕事の終わりを喜ぶ者たちで溢れていた。
大して大きくもないが、中々の家などがある中で一件だけが“妙”に目立っていた。
一言で表すなら“異質”であった。
西洋的な家々がある中で一件だけ江戸時代を思わせる家だった。
見てくれは悪くないが、やはり一件だけだと“異質”に見えてしまう。
その家まで行くとユニコーンから降りて近くの柱に轡を結んで襖を開けた。
「おーい。居るか?」
少し大きめの声で名前を呼ぶとドタドタと足音が聞こえてきた。
「飛天じゃない。どうしたの?こんな時間に?」
中から出て来たのは、腰まで伸びた緋色のストレートヘアーに対照的に氷のような冷たさを感じさせる蒼色の瞳を宿した二十代前半の女性だ。
着ている服は、何故か巫女服だった。
「もしかして私を抱きに来たの?それなら何時でもOKよ」
勝手に夜叉王丸の来訪を決めつける女性。
「勝手に決めるな」
呆れた態度で夜叉王丸は言った。
「そうなの?じゃあ・・・・・・まさか別れ話?!嫌よ!私は貴方とじゃなきゃ嫌よ!?」
髪を振り乱し夜叉王丸に縋る姿はまるで昼ドラさながらだ。
「少し落ち着け」
軽く女性の頭を叩いた。
「痛い!!」
「いいから中に入れろ。話しはそれからだ」
夜叉王丸は強引に家の中に入った。
「たくっ。相変わらずの性格だな。アラストール」
夜叉王丸は、はぁと息を吐いて女性の名前を言った。
アラストール、地獄帝国最高裁判官のルシュファーの側近にして魔界での死刑執行人で夜叉王丸の自称、恋人にして周囲の誰もが口を揃えて認めている“日本オタク”だ。
死刑執行人という事で、検事であるペイモンや弁護士のベリアルとは違い、忌み嫌われている職業をしているため、実力がありながら中堅クラスの住宅地で暮らしている。
夜叉王丸とは、ペイモンを通じて知り合い一方的に恋慕されているが、身体の付き合いが無い訳ではないから恋人とも言えなくはない。
数十年前に強引に夜叉王丸と旅行をした時に日本文化に触れて以来、日本大好き悪魔となった。
「それで何の用?」
廊下を歩きながらアラストールは隣を歩く夜叉王丸に尋ねた。
「少し頼み事だ」
ぶっきら棒に答える夜叉王丸に嘆息しながら、居間に通して陶器で作られたシンプルな火鉢で温めた鉄やかんを持って逆さにしていた湯呑に湯を注いだ。
居間は畳式で木製の箪笥と部屋に不似合いなデジタルテレビが置いてあった。
テレビは点けっ放しで画面では侍が脇差で背後を向いていた男を後ろから刺していた。
「また必殺仕事人か?」
ここに来る度に見る画面に夜叉王丸は心から呆れた。
「別に良いじゃん。好きなんだから」
怒りながら湯呑を渡した。
画面に映っているのは、裏の世界で生きる殺し屋、仕事人の活躍を描いた“必殺仕事人”だった。
夜叉王丸も好きであったからDVDを纏めて買ったがアラストールも気に入り自腹で購入したのだ。
「はぁ、何時見ても中村主水は格好良いわね」
惚れ惚れとするアラストール。
「やれやれ。まぁ、先にこっちの要件を聞いてもらうぞ」
テレビのスイッチを切る。
「何よ。早く言いなさい」
怒った口調で急かしてきた。
「一週間で良い。医者をしてくれ」
唐突な物言いだったが、慣れていたのかアラストールは驚かなかった。
「医者なら専門分野だから構わないわ」
アラストールは、あっさりと引き受けてくれた。
死刑執行人であるアラストールは、犯人の口を割らせるために拷問の知識も豊富であった事から人体、つまり医学の知識を持ち合わせていた。
昔の死刑執行人は処刑業だけでは食べていけない事から、拷問や処刑で得た知識を生かして医者や薬学師としても活動していた。
本業より副業の方が儲かっていた例もあるらしい。
「それなら明日から頼む」
短い会話を済ませた夜叉王丸は出された湯を一気飲みして立ち上がった。
「泊まって行かないの?」
何処か哀傷の雰囲気を出しながら聞いてきた。
「生憎と演習の準備で忙しい」
バッサリとアラストールの誘いを切り捨てて家を出た夜叉王丸は颯爽と朧夜谷に帰って行った。
一人残されたアラストールは、夜叉王丸の頼み事をしておいて何と言う態度だと怒りながら一人でテレビを見続けた。