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最終章:3軍に手紙

夜叉王丸は翌日、ベルゼブルに急きょ呼び出しを受けて低血圧の顔で城に登城した。


「何の用だ?俺は忙しいんだ」


夜叉王丸は低血圧の顔で、書類の山と格闘しているベルゼブルに言った。


「何の用、だと?どの顔でお前は言っているんだ!?」


バンッと机を叩き怒声を上げるベルゼブル。


叩かれた机から書類が宙を舞い、床にひらひらと落ちた。


その内の一枚を夜叉王丸は手に取り低血圧の瞳で走り読みした。


「えー、風の軍団に入隊したい・・・・・・入隊志願書か」


自分の軍団に入りたい志願書なのに、気にも留めない口調で言う息子にベルゼブルは眉間に皺を寄せた。


「この机に乗っている書類と、ビヒモス、フォカロル、リヴァイアサンの部屋にもある書類も全部だ」


数えたら切りが無いとベルゼブルは椅子に腰を預けた。


「へぇー。随分と集まったものだな」


「何だその淡白な答えは。まったく。俺に何の相談も無しに勝手に軍の構成をしようとするなんて」


特にリヴァイアサンとフォカロルは全身包帯だらけだったとベルゼブルは話した。


「何をしたんだ?」


「鵺を使者として行かせただけだ」


あいつか、とベルゼブルは頭を悩ませた。


かつて一度、自分も酒の飲み過ぎで息子を愚弄した事がある。


その折に鵺に袋叩きにされた事があるのだ。


2人も同じような目に何度も遭っていると聞いたが、今回の事も恐らくそんな所だろう。


「少しは部下の教育をしっかりしろ。俺を袋叩きにするなんて、お前とあいつ位だ」


「部下は主人に似ると言うが、強ち間違いじゃないな」


何処か自慢気に話す息子にベルゼブルは、もういいと諦めた。


「それで、何の用だ?」


「この志願書を何とかしろ。このままだと日に日に増えて、仕舞いには3軍から一人も兵が居なくなる」


「とは言っても、俺の方だって兵が居なくて困っているんだ」


「なら、妥協案として条件を付けろ」


年齢、爵位、家族、兵歴などを事細かに纏めてから出し直せとベルゼブルは命令した。


「面倒臭せぇな」


誰のせいで面倒な事になっていると思っているとベルゼブルは言いたかったが、敢えて言わない事にした。


この馬鹿息子に説教をした所で馬の耳に念仏、意味が無い。


「とにかく条件を付けてから改めて、志願書を出せ。良いな?」


「分かった。明日にでも、お前に出す」


「そうしてくれ。そうじゃないとまた面倒だ」


ベルゼブルは指をパチンと鳴らしただけで志願書の山を燃やしてしまった。


殆ど目を通していないのに。


「おいおい。履歴書みたいな物を燃やすなよ」


「俺だって忙しいんだ。これだけの量を全部見てたら仕事が出来ない」


尤もだ、と夜叉王丸は低血圧の頭で思いながら城を出た。


城を出た後は、バロンに行きそこで条件を考える事にした。


「何が良いかねー」


夜叉王丸は椅子に身体を預けながら、条件は何にするかを考えた。


「先ず歳を決めるのは良いでしょう」


ヨルムンガルドが参謀というだけあって真っ先に意見を伝えてきた。


「年齢か・・・どの程度から入隊させるのが良いと思う?」


「そうですね・・・先ず二千歳から三千歳が妥当かと思います」


千八百歳から二千歳とは人間で20歳から30歳くらいだ。


この歳だと学園を卒業しているか、軍隊に入っている歳で鍛え易い。


「そうだな。それで、他にはどんな条件が良いと思う?」


夜叉王丸はセブンスターを銜えながらダハーカ達に訊いた。


「まぁ、最低軍歴は五百年から千年位ある奴が欲しいな」


ダハーカが軍歴の条件を言い、フェンリル、ゼオンも同感だと言った。


最低軍歴が五百年だとすると、学園に入らず軍隊に入隊した者達の軍歴くらいだ。


「軍歴が無い奴だと一から教えるのが面倒だし、訓練にも付いて行けないだろうしな」


「言えてるな。それじゃ、軍歴は五百年位で歳は二千歳から三千歳」


先ずは、これが一つの条件とすると夜叉王丸は紙に書いた。


「彰久は何かあるか?」


自分の隣で考え込んでいる彰久に夜叉王丸は問うた。


「私は軍隊に入った事がありませんので、何とも言えません。ただ、事務的な面をこなせる方も必要だと思います」


軍隊は戦う事だけでなく、衛生や食事、兵器修理など色々とやる。


彰久は、事務的な言わば後方支援を任せられる者も必要だと説いた。


「なるほど。確かにそれは言えているな」


夜叉王丸は礼を言いながら彰久の言った事を書いた。


「そうなると、女性も必要だな」


ある程度、女性の軍人も居るが、殆どが家柄的な面がある。


シルヴィアが良い例と言える。


家柄が代々続く海軍出身の軍属。


そうなると女だろうが、海軍色に染まり軍人の道に入るのも強ちではない。


「女性も確保するなら、何か女性だけの見返りも必要かと思います」


「どんな見返りだ?」


「そう言われると、何とも言えませんが、金に困っているならボーナスを弾んだり、子供が居るなら、ベビーシッターを雇わせたり、手当を渡す、結婚のサポートなど、ですかね?」


彰久は思い付く限りの事を述べた。


「主人様。強ち、彰久殿が言った事は間違いではありません。女性は男と違い、色々と大変な面があります」


それらをカバーしてやれば、在る程度の人数は集まる可能性があるとヨルムンガルドは言った。


「そう、だな。よし。取り合えず考えよう」


夜叉王丸は、取り合えずという事で書いた。


それから爵位の事も考えた。


夜叉王丸の軍団に入りたいと思うのは、貴族の子弟達が多い。


軍団に入り、覚えが良くなれば何かしらの見返りがあるからだ。


「爵位か・・・俺は別に必要ないと思うが、そうなると後々面倒な事になるだろうな」


恐らく上は公爵から下は男爵まで集まるだろう。


「妥当で男爵から伯爵。それも長男ではなく、次男から三男などの家が継げない者にすれば良いと思います」


ヨルムンガルドはここでも参謀として知恵袋を発揮させた。


軍隊は元々というか入隊するのは金が無い者、犯罪者、爵位を継げない者、働き口が無いなどと、ある程度に分けられる。


爵位を継げない者とは長男ではない者。


ラインハルトなどは次男だから、長男が死ぬか婿に行かない限り爵位を継承するのは出来ない。


そうなると長男の家で形見の狭い生活をするか、何処ぞの貴族に婿入り又は養子となるしか道は無い。


しかし、魔界は女性でも爵位を得られるし継げる事も考えると、次男、三男が爵位を手にするのは中々難しいのが現実である。


ヨルムンガルドはそこに目を付けて、爵位が継げない者を軍団に引き込もうと考えたのだ。


入隊してしまえば、後はこっちの物だ。


煮て食おうと焼いて食おうと、文句は言わせない。


ヨルムンガルドは、そう言った。


「相変わらずお前は、えげつない性格だな」


だから、蝮などと呼ばれるんだとゼオンが憎まれ口を叩いた。


「蝮とは嬉しいですね。私は蛇です。えげつなくて当然です」


まったく意に返さず、寧ろ開き直るヨルムンガルドに夜叉王丸達は少なからず呆れ果てた。


「まぁ、話は戻って最後は家族だ」


家族持ちは別に採用しても良い。


ただ、万が一に戦死でもされると金や怨みなど有り難くない物まで付いてくる。


「出来るなら独身が良いんだがな」


独身なら後腐れも無いし、身軽だ。


「では、家族持ちを採用もするが、事務管理や後方支援でも良いかと条件を付けましょう」


事務管理や後方支援なら戦死する確率はそれほどではない。


「なるほど。それじゃ、そうしよう」


夜叉王丸は条件の欄にまた一つ付け加えた。


「まぁ、こんな物か」


取り合えずは仮条件と言う事にしようと夜叉王丸は決めた。


「それを皇帝陛下に見せるのですか?」


彰久が紙を見ながら尋ねて来る。


「一応な。ただ、これだけの条件で果たして何人集まるかが、問題だ」


もしも集まらない場合は、他の世界から勧誘するしかないと夜叉王丸は答えた。


「なるほど。しかし、伯爵様の人徳を持ってすれば、集まると思いますよ」


彰久は無意識に思っていた事を告げていた。


「俺に人徳?止せよ。俺みたいな無頼者に人徳があるか」


夜叉王丸は苦笑した。


しかし、ジャンヌとヴァレンタインは、そんな事は無いと言って自分の事のように怒り出して夜叉王丸に説教を始めた。


女性二人、しかもどちらも自分に対してここぞと言う所では遠慮が無いから容赦も情けも無い。


夜叉王丸は小一時間ほど説教を喰らう羽目になり、ダハーカ達から大笑いされた。


一人、クレセントだけは無表情にしていたが。


その後、バロンでの仕事を終えた夜叉王丸達は魔界へと帰った。


夜叉王丸は自室に戻ると鵺を呼び出して、例の仮条件を書いた紙を渡した。


「これをベルゼブルに届けてくれ」


これで、ある程度は向こうも納得する筈だと夜叉王丸は語った。


「畏まりました」


鵺は恭しく紙を受け取ると姿を消した。


夜叉王丸はセブンスターを銜えて、ジッポーで火を点けると小さく息を吐いた。


「これで、どれだけの人数が集まるかね・・・・・・・・」


あの条件を満たす者が、どれだけ居るかによって今後の改革に大きく影響がある。


何はともあれ、軍の改革は急がなくては、と思った。


第3部は、これにて終了いたします。また、近い内にお目に掛れる事を楽しみにしております。


では、また・・・・・・・・・・・・・


ドラキュラより

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