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第二十章:父親は馬賊

夕食の席で彰久とラインハルトは互いに身の上を話し合い、励まし合ったりしていた。


と言っても、彰久の方が人生的に経験豊富である事からラインハルトを励ましている方が多かった。


夜叉王丸はそれを微笑ましい眼差しで見ていたが、ジークルーネは暑苦しいとばかりに食事に集中していた。


彼女から見れば男同士の話は暑苦しい以外の何でもないようだ。


対してクレセントは彰久とラインハルトを無表情に見ながら食事をしていた。


食事が終わった後、夜叉王丸は二人を伴い、酒を飲む事にした。


「何が良い?」


「私はウィスキーの水割りを」


「僕もウィスキーの水割りをお願いします」


二人揃ってウィスキーの水割りを頼んだ。


「OK。待ってな」


夜叉王丸は、二人分のウィスキーのグラスを用意して、氷を入れてワイルド・ターキを注いだ。


「ありがとうございます」


二人は礼を言ってグラスを取った。


「それで、何から話そうか?」


「え、と彰久さんは、僕位の歳はどんな事をしていましたか?」


「私が君くらいの時か・・・・・・高校で部活を、剣道をしていたね」


「剣道を?」


「父が嗜んでいたんだよ。他にも琉球空手や合気道、太極拳などを教えられたね」


「ほぉう。お前の親父さんが武術を?」


夜叉王丸は、彰久の父親に興味を持ったように眼を細めた。


「えぇ。何でも戦時中、馬賊をしていて暴れていたそうです」


「馬賊か。お前さんの父親も『大陸浪人』のように一旗揚げようとしていたのか?」


大陸浪人とは、明治初期から第二次世界大戦終結までの時期に中国大陸を中心とした地域に居住・放浪して各種の政治活動を行っていた日本人のことだ。


大体の日本人は、大陸で一旗揚げようと海外に出発して、失敗したりしたが。


「どうでしょうか。父は、殆ど生前の頃を話さなかったので」


彰久は少し寂しそうに答えた。


「あの、馬賊ってなんですか?」


ラインハルトは二人の話に付いていけずに聞いた。


「馬に乗った強盗。ていうのが、一般的な答えだな」


「ですね。私も調べなかったらそう思っていました」


「実際は違うんですか?」


「まぁ、大体が盗賊と然して変わらないが、中には本当に義賊として戦った奴もいるし自警団的な面もある」


「へぇ。ロビンフッドみたいなものですか?」


「イギリス生まれのお前には、そう取れるな」


ラインハルトは、納得してグラスを煽った。


「彰久さんの父上は、どんな人でした?」


「まぁ、一言で言えば筋を通す人だったね」


遠い眼をして答える彰久。


「筋を通す?」


「仕事でも間違いがあれば、上司だろうと文句を言ったし、悪い事をすれば他人だろうが叱った」


「まるでビレトのおっさんだな」


夜叉王丸は、自身の保護者であるビレトの名前を出した。


養父はサタンとベルゼブルだが、戦場を共に駆け巡った彼には、ある意味ではビレト・ザパンの方が父親的な存在であるのだ。


「ビレト、というとベルゼブル様の側近にして夜叉王丸様の保護者である方ですか?」


バロンで教えられた事を思い出して、訊いてみる彰久に夜叉王丸は頷いた。


「あぁ。自他ともに厳しい性格だ。まぁ、面倒見は良いし、筋を通すがな」


「僕は、演習で会っただけですけど、眼つきが鋭くて怖かったです」


演習でバール王たちと見られたが、バール王に比べて厳つい顔で怖いという印象がラインハルトにはあったようだ。


「お前の事を見込みがある奴だと言っていたから、頑張れよ」


弟子の弱気な発言に対して励ますように夜叉王丸は言った。


「僕を?」


「おっさんは、軍の中でも慧眼はある。他の奴もお前を高く評価していたぞ」


ジークの口から脱出した所を、と言う夜叉王丸。


「ジークとは?」


「こいつの相棒で、雷龍の名前だ」


彰久の質問に夜叉王丸は答えた。


「雷龍と言う事は、ラインハルト君は奇襲部隊に所属しているんですか?」


「あぁ。こいつは嫌がっていたがな」


ラインハルトは、恥ずかしそうに顔を赤くした。


もう過去のことだが、未だにジークを手懐けていないから恥ずかしいのだろう。


「凄いじゃないか。奇襲部隊は風の翼でも優秀な部隊と皆、言っていたよ」


訓練中に仲良くなった兵士から聞いていた彰久はラインハルトを褒めた。


「で、でも、た、隊長に問題が・・・・・・・・」


「まぁ、それは否定出来んな」


「隊長は誰が?」


「ダハーカだ」


彰久は、あの大柄な男を見て少し間を置いて答えた。


「・・・・大変だね」


「・・・・はい」


ラインハルトは、小さく頷いてウィスキーを飲んだ。


夜叉王丸は二人の会話でダハーカが周りからどんな眼で見られているかを改めて認識した。


「そう言えば、私はどの部隊に所属するのですか?」


「まだ考えていない。正直、言って今の状態では人手不足が目立ってどうにもならん」


「以前は、どれくらい居たんですか?」


「まぁ、2000だったが、先の大戦で200に減った」


夜叉王丸は、何処か悲しそうに答えた。


「・・・・夜叉王丸様」


彰久は不味い事を聞いたと思った。


「・・・まっ、何れ募集して新しくするが」


敢えて明るい口調で夜叉王丸は話を続けた。


「具体的には?」


「全体的にだな。まぁ、お前の部隊は未定だが、新しく新設した部隊に所属させようと思う」


彰久は頷いて、グラスに入っているウィスキーを飲んだ。


「お前には外人部隊に行ってもらうが、恐らく1、2年、若しくは半年で大丈夫だろうと思うが」


「ふつうは5年の契約で国籍を貰えるのでは?」


「あぁ。しかし、フランス外人部隊の仕事は、表の仕事より裏の仕事が主流だ。裏の仕事をやれば直ぐにでも貰えるさ」


「裏の仕事、というと汚れた仕事、ですよね?」


「あぁ」


現在、フランス外人部隊は、国軍などでは動けない『汚れた仕事』をさせられる事が比較的に多い。


そう言った仕事で手柄や重傷を負えば直ぐにその見返りとして国籍などが支給される事になっている。


「なるほど。しかし、仕方ないですね」


生まれ変わると誓った時にどんな事にも耐えて見せると自分は誓ったのだからと彰久は思った。


「そう言えば、師匠も外人部隊に居たんですよね?」


ラインハルトが話しに混ざるように夜叉王丸に質問を浴びせた。


「あぁ。俺は5年の契約で国籍を獲得したが」


「夜叉王丸様は、何処の部隊に?」


「第2外人落下傘連隊だ」


第2外人落下傘連隊とは、外人部隊の中でもエリートの隊とされていて全員が空挺技術とヘリボーン技術を取得している。


「そこから伸し上がって大佐にまで昇進してから除隊した」


本来なら大尉で外国人の階級は止まるのだが、彼の場合は異例中の異例だったらしい。


しかし、除隊して数十年以上ないし半世紀も経った今でも影響力があるのだから、口では言えない仕事をして来たのだろうな、と彰久は思った。


ラインハルトの方は叩き上げの人なんだ、と素直に感動していた。


ここら辺が彰久とラインハルトの差を思わせる。


「まぁ、お前も俺と同じように最初は第4外人連隊に入隊するだろうな」


夜叉王丸が言った第4外人連隊とは、外人部隊に入隊した新兵を鍛え上げる隊のことである。


この隊に4カ月ほど入隊しフランス語などを学びながら連日連夜の訓練を重ねていくのだが、訓練は軍人でも無事では済まないほどの厳しさを持つ。


その他に訓練には耐えられたが、フランス語しか話せない事に苦しみを感じて逃亡する兵もいる。


しかし、その者たちを捕まえるのも第4外人連隊の任務であるのだ。


「お前、外国語とかは得意か?」


「海外にも仕事で行っていたので、何とか出来ます」


「海外に行っていたなら、何とかなる」


彰久は緊張した顔で残りのウィスキーを飲み干した。


「彰久さん。頑張って下さい」


ラインハルトが今度は彰久を激励した。


彰久の緊張した態度を崩そうとしているのが、夜叉王丸には分かった。


「あぁ。君に比べて歳は取っているが、まだ頑張るさ」


彰久は笑みを浮かべてラインハルトに今夜は飲もうと笑い合った。


夜叉王丸は、二人がこれから成長するのが楽しみと思いつつ、自身も全力で力を貸そうと思った。


その後、夜叉王丸も酒を飲み3人で深夜まで飲み明かした。


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