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第十九章:尾張柳生

バラテから戻った夜叉王丸達は、ジャンヌが淹れてくれたコーヒーを飲みながら他愛ない話をして時間を潰した。


マーロンとステファンは、仕事があると言って昼食前にはバロンを後にした。


夜叉王丸達は昼食を終えた後は、彰久に色々と魔界の常識などを教えた。


16時になると真夜達がバロンに来た。


「いらっしゃい」


夜叉王丸は真夜達を出迎えた。


「何にする?」


「私はカフェオレ」


「・・・・私もカフェオレをお願いします」


「私はココアで」


「私もココアをお願いします」


「童はミルク入りのコーヒーを頼む」


真夜と美羽がカフェオレを頼み、綾香と真琴がココアを頼んだ。


黒闇天だけはミルク入りのコーヒーを頼んだ。


「ねぇ。飛翔さん。この小父さんって、いつも店に来る小父さん?」


灰銀の髪をした彰久を指さし綾香が尋ねて来た。


「良く分かったね。ラインハルトなんかは気付かなかったのに」


「うっそー!!全然違うからビックリしたわ!!」


綾香と同じく真琴も驚いた。


対して真夜、美羽、黒闇天は対して驚きもしていなかった。


「あんまり自信が無いんだよ」


彰久は苦笑してコーヒーを飲んだ。


「前より格好良いですよ。小父さん」


「そうですよ。格好良いです」


綾香と真琴が彰久を褒め3人も同感だと頷いた。


彰久は照れ臭いのか頬を掻いた。


「おおお、若い娘に褒められて赤くなるとは初心だな」


ダハーカが豪快に笑う。


「それだけ純心なんだよ」


何処かのエロの塊とは違うと言う夜叉王丸。


「それを言うなら何処かの人生破綻者も同じだな」


「おい。エロドラゴン。旦那は人世破綻者なんかじゃねぇ」


ゼオンが夜叉王丸を弁護すると一斉射撃のように周りから否定されてダハーカは孤立ししょぼくれた。


彰久は、どうしようか迷い中立を保つ事にした。


「ねぇ。飛翔さん。いつ頃、家に泊まりに行って良い?」


綾香がココアをスプーンで掻き混ぜながら訊いた。


「んー。2、3日くらい後かな」


「それじゃ、3日後に泊りに行って良い?」


「別に良いよ。前にも言ったけど、大歓迎さ」


それから6時まで談笑を交えて、夜叉王丸は二人を家まで送る為にディムラー・ダブルシックスを動かした。


ダハーカ達は先に魔界へと帰った。


真琴を先に家へと送り、続いて綾香の家へと行く。


「ねぇ。飛翔さん。ラインハルトさんに剣術を教えているって本当?」


綾香を玄関まで送り背を向けると綾香が質問を浴びせた。


「まぁ、基礎的な事はね」


何れは自分の剣術も教えるが、それは伏せた。


「私が教えてって頼んだ時は誤魔化したのに、ラインハルトさんには教えたの」


ぶぅと頬を膨らませるのを背中で感じ、夜叉王丸は苦笑を浮かべた。


「気紛れだよ」


「飛翔さんの十八番だよね。気紛れって」


綾香は、夜叉王丸の発言に呆れながら綾香は諦めた。


「じゃ、またね」


夜叉王丸は綾香を残し、道場へと足を運んだ。


道場に行くとラインハルトが大勢の主婦や子供たちに囲まれていた。


「よぉ。ラインハルト」


「あ、師匠」


ラインハルトは主婦や子供たちを退けて、夜叉王丸に近寄った。


「豪い人気だな」


「自分でも驚いている次第です」


「おぉ。飛翔殿。来ておりましたか」


宗斎は夜叉王丸を見ると軽く挨拶をしてから話し掛けて来た。


「実は、飛翔殿に折り入って頼みたい事があるんですがの」


「頼み事とは?」


「実は、ラインハルト殿に柳生新陰流の免許を授けたいと思うのです」


「ラインハルトに?」


夜叉王丸は弟子を見た。


「実は、数時間前に尾張から柳生新陰流の方が来たんです」


「尾張とは、また古臭い言い方をするな」


夜叉王丸は弟子が言った尾張に軽く呆れた。


尾張とは今の愛知県で、江戸時代は御三家の一つ尾張徳川家が置かれていた尾張藩の事だ。


尾張は御三家の中でも筆頭として数えられ紀州家出身の八代将軍、徳川吉宗とは将軍の座を争った因縁深い土地でもある。


更に柳生新陰流に到っては、江戸柳生と尾張柳生とで熾烈な争いが裏では起きていたとも言われている。


その理由としては、江戸柳生が大名格であるのに対して尾張柳生は旗本格であったのが、理由として挙げられている。


三代将軍家光の時には江戸と尾張で御前試合をしたが、結果は尾張柳生が勝った。


しかし、それは家光の心の中に仕舞われて公にはされなかったとも言われている。


夜叉王丸と宗斎は、宗家である尾張柳生の流れを組んでいる。


「で、その尾張柳生のお偉い方が来てどうしたんだ?」


「何でも私が伯爵様の弟子だと言ったら、是非とも免許を取らせたいと言って・・・・・・・」


「なるほどな」


夜叉王丸は少し考えてから頷いた。


「私としては、免許は欲しいです。ただ、まだ日数もそんなに経っていないのに免許を取るのはどうかと思いまして」


「確かに。それは言えているな」


まだ初めて一ヶ月も経っていないのに免許皆伝など許される訳が無い。


「ですが、飛翔殿。私はラインハルト殿に今、免許を授けても良いと思うのです」


宗斎は、二人の意見とは逆に免許を与えても良いと言った。


「天性の才能も然る事ながら、この若者は努力しています。今、免許を与えても問題ないと思うのですが」


「それは言えていますが、本人がまだ早いと言っている以上は、もう少し待ってはどうですか?」


「うーむ」


宗斎は夜叉王丸の提案に考えた。


「では、もう少し待ってもらうように、わしから言っておきましょう」


「助かります」


夜叉王丸は宗斎に礼を言った。


道場の掃除を終えたラインハルトを連れて、帰宅した。


「実は、宗斎殿には、言っていない事があるんですよ」


車の中でラインハルトは夜叉王丸に渡された煙草を吸いながら切り出した。


「宗斎殿には言ってない事?何だ?」


「実は・・・見合い話なんです」


「見合い話?」


夜叉王丸は弟子の出した言葉に眼を見開いた。


「はい。何でも、その老人の孫娘なんですけど・・・・・・・・」


是非とも自分の孫娘の夫にと言われたらしい。


「もちろん断りました。会ってもないですし、僕には、リーラが居ますから・・・・・・・・・」


「だろうな」


弟子の答えに頷きながら、夜叉王丸はどうしたものかと思った。


彼の頭の中では一人の老人が浮かんでいた。


尾張柳生の筆頭とも言える人物、柳生厳冬だ。


尾張柳生の中でも天才と謳われた柳生厳包を祖先に持つ老人で剣術の世界でも一際目立つ人物。


宗斎とは剣の道で争った中とも聞いており夜叉王丸も面識はあった。


普段は人懐こい爺だが、剣を取れば無敵の強さを誇る。


おまけに頭の速さも良く決して中身を見せず他人を利用する策士の一面も持つから性質が悪い。


『あの爺なら、ラインハルトの才能を見抜くのも有り得るし、その才能を是非とも一族に引き入れたいと思うのもありだな』


「で、相手の反応は?」


「はぁ、それが諦めた様子が無くて・・・・・・・・」


「だろうな」


諦めが悪いからな、と夜叉王丸は呟いた。


「師匠も会った事が?」


「あぁ。人は良さそうだが、中身は腹黒い爺だ」


「僕も、そう思いました」


「お前も人の眼を見るが育ってきたか?」


「いえ。そんな・・・・・」


ラインハルトが照れた笑みを浮かべるのを見て、夜叉王丸は小さく笑い魔界へと帰宅した。


魔界の屋敷へと帰宅した二人をヴァレンタインが迎えてくれた。


「僕は鍛錬場に行くので」


ラインハルトは玄関で別れて夜叉王丸だけが朧夜谷の中へと入った。


ヴァレンタインは夜叉王丸から渡された刀を持ち後ろを歩いた。


「彰久は?」


「鍛錬場で汗を流しています」


「そうか」


「どうかなさいましたか?」


「いや。ところで、ヴァレンタイン」


「何でしょうか?」


「お前は、彰久をどう思う?」


「どう思うとは?」


「まぁ、戦士として、だ」


「まだ日数がありませんが、磨けば光る人材だというのは確かです。それはラインハルト殿も同じですが、彰久殿の場合は、前世がウールヴヘジンである事も大きな強みと思います」


「その根拠は?」


「前世での戦士としての経験なども恐らく、戦う内に蘇り戦場で活かせると思います」


「素晴らしい説明だ」


夜叉王丸に褒められてヴァレンタインは嬉しそうに笑った。


「さっき、マーロウと戦わせたが、お前の言う通り前世での経験が活かされたようだ」


「ということは、彰久殿の勝ちでしたか」


「あぁ。お前はどっちが勝つと思った?」


「やはり彰久殿です。マーロウさんも経験は彰久殿以上にありますが、前世での影響が決め手かと思いました」


「確かに、それも決め手の一つだった」


「それも、という事は他にも決め手が?」


「まぁ、これは最初だからと思うが、彰久の場合、戦いで本能が理性より勝っていた」


「つまり、相討ちも辞さなかったと・・・・・・・・・?」


「そうだ。まぁ、前世も相討ちだったからな」


それに影響されたのかもしれないと夜叉王丸は語った。


自室へと着いた夜叉王丸はソファーに腰を下し、ヴァレンタインは刀を夜叉王丸の脇に置いて自分も傍に立った。


「まぁ、これからあいつもラインハルトも成長する。お前も出来るだけ力になってくれ」


「心得ております」


ヴァレンタインは一礼して、頷く。


その後、夜叉王丸はヴァレンタインと一緒に談笑を交わして時間を潰した。


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