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第十八章:狼VS胡狼

夜通し酒で飲み明かした夜叉王丸達は、何ともないように朝食を取っていたが、ラインハルトとヴァレンタインは、完全に二日酔いだった。


「あれ位でへばるとは、若いのに情けないな」


ラインハルトにきつい事を言いながらベルゼブルは、用意されたハムエッグを綺麗に箸で切っていた。


「・・・・申し訳ありません」


皇帝の辛辣な言葉にラインハルトは平謝りしながらトーストを食べた。


ヴァレンタインは久し振りに夜を明かしたためか欠伸をしていた。


貴族の令嬢としては、はしたないが誰もそれを言わない。


「童も参加したかったぞ」


黒闇天は昨夜の話を聞いて羨ましがりカリも同じだった。


「子供は参加しない方が良い」


夜叉王丸は二人を一瞥して笑った。


「童は子供ではない。立派な大人じゃ」


「私も立派な大人です」


二人は夜叉王丸を睨むが彼はどこ吹く風だった。


皆で朝食を終えるとベルゼブルは美夜を片手に悠々と城へと戻った。


途中、美夜は暴れたが彼に勝てる訳もなく、誰も止めない事から城へと連行されたのは想像に任せる。


彰久は取り合えず夜叉王丸達と一緒にバロンへと行き、ジークルーネ、クレセントも後に続いた。


その頃、ソフィーは未だに休暇中だが悠々と日頃の疲れを癒していた。


バロンは相変わらずの寂しい状態だが、これ幸いにと夜叉王丸は彰久に色々と知識を教えていた。


「では、北方防衛軍は魔界の軍隊の一部だったんですか?」


「あぁ。最初は軍を北に配置するだけだったが、それでは心細いと言う事で独自に情報網と力を付けていったのさ」


旧日本軍の関東軍みたいなものだと言う夜叉王丸に彰久は納得した。


「まぁ、今は和平を結んでいるから特に戦はない」


ただ、他の所で戦があれば出るし他国に睨みを効かせるためにも置いてあると付け足した。


「なるほど」


彰久は聞いた事を黒い手帳に書いて纏めた。


元営業マンとしての名残かボロボロの手帳にボールペンで書く姿は様になっていた。


「ところで彰久。お前は結婚する気はあるか?」


「結婚ですか?前の事もありますし乗り気ではありません」


「だったら夜会に出たら目立たないようにするか、直ぐに逃げろ。さもないと捕まって終わりだ」


「身も蓋もない言い方ね。飛天さん」


リリムは面白そうに笑う。


「そうは言うが、事実だろ?」


「否定しないわ。彰久さんの場合、日は浅くてもウールヴヘジンだし、ベルゼブルの覚えも良かったわ。何より飛天さんの部下となれば、否応なしに結婚話が出ても可笑しくないもの」


リリムの言葉は的を射ていた。


彰久は昨夜、ウールヴヘジンとして覚醒した。


言い換えれば生まれて間もない赤子なのだ。


そんな赤子同然のウールヴヘジンを腹に幾つも思惑を忍ばせている貴族が見過ごす訳がない。


それを夜叉王丸は警戒しているのだ。


彰久もそれなりに生きていただろうが、悪魔である彼らから言わせれば人間など皆が赤ん坊か幼子でしかない。


「そんなに私の獣は凄いんですか?」


「何も知らない貴方に私が教えて上げるわ。ウールヴヘジンは獣戦士の中でも絶大な力を誇る戦士よ。北欧神界では獣の戦士である事は名誉な事だったわ」


「そりゃオーディーンの爺が直々に力を与えたからだろ」


夜叉王丸の指摘にジークルーネは頷く。


「最高神であるオーディーン様の力があるウールヴヘジンを身内に引き入れられたら家にとっては美味しい話だわ」


「それに、“こんな”男でも魔界の英雄。その部下と懇意になるだけでも名誉であり、おつりも来るわ」


“こんな”を強調するジークルーネにヴァレンタインとゼオンたちは青筋を立てた。


しかし、ジークルーネは完全に無視した。


「だから、貴方を狙う貴族は大勢いると思った方が良いわ」


彰久は頷いたが、完全には理解できてないようだ。


「あの先ほど伯爵様はオーディーン様を爺と言いましたが、どういう関係ですか?」


「まぁ、旅仲間でありフェンとヨルムの身元引受人の関係だな」


「身元引受人?」


「そうだ。オーディーンの爺がこいつ等の身元引受人をしてくれたから今いる」


でなければ殺されているか監禁されていたと言う夜叉王丸。


「主人が助けてくれたから俺とヨルムは自由を満喫しているんだ。だから俺は何があっても主人は裏切らない」


そして裏切り者は誰だろうと殺すと狼姿のフェンリルは言う。


「お前も自分に部下や友が出来たら命がけで守れ。そうすれば自ずと部下は着いて行くし友は命がけで守ってくれる」


フェンリルの言葉に彰久は頷きながら自身は、そのような行動が出来るだろうかと思った。


それから暫く話は続き昼頃に話は終わり昼食を取る事にした。


昼食はサンドイッチとウィンナーで飲み物はコーヒー。


談笑を交わし合いながら昼食を終えたのは1時で、未だに客は来ないと言う寂しい状態だった。


2時30分になる頃にバロンのドアが開いて一組の男女が入ってきた。


グレーのスーツとトレンチコートにソフト帽と言うハードボイルドの定番格好に身を包んだ男と同じくグレーのスーツを着た娘。


男は、茶髪を綺麗に纏め緑色の瞳をしていて二十代前半。


女性の方は金髪を後ろで纏めていて、瞳は碧眼でモデル並みに美しいプロポーションを誇っていた。


「おー、マーロウか」


夜叉王丸は入ってきた一組の男女に笑いながら歓迎した。


「お久しぶりです。“伯爵様”」


マーロウと呼ばれた青年はソフト帽を取り綺麗に一礼した。


「なんだ。探偵小僧じゃねぇか」


ダハーカもマーロウの姿を見ると歓迎しながら美女に話し掛ける。


「よぉ。嬢ちゃん。相変わらず綺麗な脚だな」


目尻を下げながら女性の脚を無遠慮に見下すダハーカ。


「相変わらずダハーカおじ様も元気そうでなによりです」


女性は笑いながらダハーカを見る。


「彰久。紹介する。こいつは、俺の部下で私立探偵のジェシー・マーロンだ」


「初めまして。ジェシー・マーロンです。国籍は日本ですが、貴方と同じように第二の人生を歩んでいます」


「こちらこそ。草神彰久です。私と同じように人生を歩む者がいると何だか嬉しいよ」


二人は握手を交わした。


「ミスター・彰久。初めまして。私はステファン。マーロウの恋人兼相棒です」


ステファンも手を差し出し彰久と握手を交わす。


彰久はステファンとも握手を交わした。


「こいつも、お前と同じく獣人だ」


マーロンは、ジャッカル。


ステファンは、狐。


「私以外には、どんな獣人が居るのですか?」


「人それぞれに宿る獣は違うから多い」


マーロンはジャッカルでステファンが狐なのは、その者の精神や性格など色々な面が影響しているとも言う夜叉王丸。


「まぁ、お前さんの場合は前世の影響が一番強いがな」


「・・・狼、ですか」


マーロンがポツリと呟く。


「やはり分かったか」


「はい。数日前に、ここで獣人の気を感じました。とてつもない強い力でした」


一度、戦ってみたいとマーロンは語る。


「なら戦ってみるか?」


夜叉王丸の発言に彰久とマーロンは驚いた。


「それはいいかもな。こいつも何れは、お前の軍に入れるんだ。今の内に戦ってみるのも一つの経験だ」


ダハーカが同意する。


「まぁ、ここでは戦えないから、少し空間を変えるか」


夜叉王丸は椅子から立ち上がり、ダハーカも立った。


「少し出かける」


「はい。お気を付けて」


ジャンヌは夜叉王丸に微笑みを返した。


クレセントは黙って壁から背を離し、夜叉王丸の傍に歩み寄った。


「それじゃ、行くぞ」


夜叉王丸が指を鳴らすと空間が歪み、バロンとは別の空間へと移動した。


「ここは?」


彰久は目の前に広がる荒野に見回した。


「ここは、魔界の最果ての地、バラテだ」


昔、俺が住んでいた場所だと夜叉王丸は言った。


「何だか寂びれた場所ですね」


「まぁ、な」


夜叉王丸は煙草に火を点けながら、答えた。


「まぁ、ここなら邪魔は入らん。思う存分、戦え」


マーロンはステファンを下がらせると、変化を始めた。


見る見る内に気が生えて、顔なども伸び始めた。


尻から尻尾が出て、ジャッカルへと変身した。


毛の色は、金色だった。


「これが私の姿です」


マーロンは、何処からともなく黒鋼の棒を取り出した。


「その棒は?」


彰久は、マーロンが出した杖を指さす。


「獣人には、己の肉体が武器ですが、自分の獣にあった武器を取り出せるのです」


貴方にも出来る筈だと彰久は言われた。


「心の中で念じてみろ」


夜叉王丸が助言し、彰久は眼を瞑り武器を取り出そうとした。


念を強くすると、何処からともなく斧と盾が出て来た。


「それがお前の武器だ」


斧は北欧などで使われるバトルアックスと円形の革盾、カエトラだった。


「・・・・・何だか、凄く懐かしい感じです」


「恐らく、お前の前世が使っていた物だろうよ」


なるほどと、彰久は頷き自らも変化した。


「グレー・ウルフ。灰色の悪魔・・・・・・・」


ジャッカル姿のマーロンは、眼を細めながら棒を構えた。


彰久も身体が覚えているのか、斧と盾で構える。


「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


互いに無言で相手の出方を窺っていたが、ジャッカルの方が先に動いた。


棒を一閃させて、グレー・ウルフの頭上を狙った攻撃。


グレー・ウルフは、カエトラで受け止めバトルアックスを横薙ぎにした。


ジャッカルは後方に跳び下がり避けた。


しかし、グレー・ウルフの攻撃は止まらず、直ぐ様にジャッカルに向かいバトルアックスを打ち込んだ。


「素早いな。それに相手に隙を与えない」


夜叉王丸は、グレー・ウルフこと草神彰久の攻撃に眼を細めた。


攻撃を交わし続けるジャッカルだったが、僅かな隙を見ては棒を動かし首や腹などを狙い攻撃をした。


特に首には執拗なまでに攻撃を続けていた。


首は人体の急所の一つで、一撃で相手を仕留める事も可能だからだろう。


攻防が続く中、グレー・ウルフとジャッカルは互いに距離を取った。


「流石は、灰色の悪魔。油断ない攻撃に果敢な精神。実に手強い相手だ」


「そっちも僅かな隙を逃さずに攻撃するなんて曲者だよ」


二人は互いに褒め合い、気を集中させた。


どうやら次の一撃で決める様子だ。


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


同時に動き、ジャッカルの棒がウルフの喉をウルフの斧がジャッカルの腹を狙った。


しかし、ジャッカルの棒の方がリーチで勝ち、ウルフの喉に当たりそうになった。


ウルフはカエトラで受け止めて、手放した。


右手の斧をジャッカルの腹を狙いながら左手でジャッカルの喉を狙った。


ジャッカルは棒を放そうとしたが、ウルフの左手と斧が間近に迫り、遅い。


後少しという所で、ウルフの爪がジャッカルの喉を引き千切ろうとした所で、止まった。


「流石は、グレー・ウルフ。中々の戦でした」


ジャッカルは笑みを浮かべると人間に戻った。


「いや。身体が勝手に動いただけだよ」


グレー・ウルフは苦笑いをして人間に戻った。


どちらもズボンが辛うじてあるだけという格好だった。


「二人とも。早く着換えろ」


夜叉王丸が二人に背広を渡した。


それに腕を通しながら、彰久はマーロンと親しげに話した。


「中々の戦いだったな」


ダハーカがジョーカーを銜えながら夜叉王丸に話し掛ける。


「あぁ。これで訓練を積めば立派な軍人になれるな」


「楽しみだ」


二人は笑い合いながら煙草を吸いクレセントは黙って二人を見ていた。


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