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第十七章:宴に乱入者

夜叉王丸の部屋に着いた皆はそれぞれの席に着く。


「そろそろスコルが酒を持って来るはずだ」


ベルゼブルが言うと窓から彼の秘書であり王室を束ねる初老の老人、スコル・ベノトが立っていた。


「おぉ。来たか。スコル。酒は?」


「はい。ワインを一樽。それからウィスキーを30本ほど持って参りました。それから兵の方にもちゃんと渡しましたから安心してください」


何とも多い数だが、彼らから言わせれば足りない方でもあった。


「運んできてくれ」


畏まりましたと言いスコルが指を鳴らすと一樽とウィスキーの箱が3つほど部屋に現われた。


「すまないな。スコル」


「いいえ。皇帝陛下の頼みでしたら何時でも。それから夜叉王丸様。ラインハルト殿の迎えは私が行きますので安心して下さい」


「いいのか?」


ラインハルトの迎えに行く事をスコルが知っている事に夜叉王丸は驚きもせずに訊く。


「はい。あの方とは一度お話しがしたいと思っていましたから」


では、失礼します、と一礼してからスコルは姿を消した。


「あのご老人は?」


「俺の秘書にして飛天と真夜の祖父みたいなものだ」


ベルゼブルの説明に彰久はただ頷いた。


「さて、宴の始まりだ」


夜叉王丸はグラスに氷を入れて人数分配ると酒を注ぎ始めた。


「伯爵自らすることでは」


「ここは俺の屋敷で俺の部屋だ。入って来たら俺の客人。だから俺が持て成すんだよ」


「そういう事だ。彰久。だから気にするな」


夜叉王丸の行動に戸惑う彰久をダハーカが笑いながら説明する。


「まぁ、こいつの性格に慣れるのは時間が掛る。気にするな」


ベルゼブルも彰久に説明を施す。


そして彼はグラスを掲げると言った。


「今宵はウールヴヘジンである彰久の第二の人生に乾杯」


乾杯と皆で上げて宴を始めた。


「飛天から聞いたが、お前は妻子持ちだったが家を追い出されたらしいな?」


酒を飲み始めてから数分も経っていないが、ベルゼブルは気になっていた事を言う。


「えぇ。まぁ・・・・・・・・」


「どういう経緯で結婚したんだ?」


「普通に見合いで結婚したんですけど、彼女の方は最初から乗り気ではなく娘が生まれたのも結婚してから、5年も経った時です」


「娘が出来たから少しは私にも優しくなるのかと思ったのですが娘共々、冷たくて」


「そうか。家庭に見放されると夫とは悲しいものよ」


「皇帝も、ですか?」


「まぁ、な。美夜と初めて出会ったのは彼女が15歳の時だった」


15歳と言う言葉に彰久は驚いた。


つまり計算すれば美夜は16歳の時に真夜を出産するという事になる。


『・・・・ロリコン皇帝』


無意識に彰久の頭上にロリコンという言葉が浮かんだが、皇帝相手に言う訳にはいかないと思い、口を閉じベルゼブルの話に耳を傾けた。


「それから色々と壁があったが、何とか結婚して真夜も生まれて幸せ一杯だったな」


「それを、こいつが壊したんだ!!」


ベルゼブルは行き成り夜叉王丸を睨んだ。


「俺じゃない。美夜ちゃんの方から『真夜ちゃんの情操教育上、悪いから屋敷に住まわせて』と言ってきたんだ」


「何処が教育上、悪いんだ!!」


「お前、覚えてないのか?真夜が小さい頃に俺の所に来て『パパがママをベッドの中で朝から夜まで泣かせている』って言ったんだぞ」


ダハーカ達は思い出したのか笑い出した。


「そんな事もあったな。それで、お前は怒り心頭で城に乗り込んで蝿王を叩きのめしたんだな」


今でも覚えていると言うダハーカ。


「そ、それは・・・・・・・・・」


「美夜ちゃんも、お前の絶倫に呆れ果てたから逃げたんだよ」


「うるさい!お前も結婚すれば解かる!!」


「暫く結婚しないから解からんな」


「くぅー。彰久よ。お前はどう思う?」


「え?ま、まぁ、お二人の言い分は分かります」


彰久は戸惑いながら双方の仲介をした。


そんなこんなで二人を宥めているとドアが控え目に叩かれる音がした。


「ラインハルトです」


「ラインハルトか。入れ」


夜叉王丸が入室を許可するとラインハルトが入ってきた。


黒のジーパンに紺色のベストを着たラインハルトは彰久の姿を見ると首を傾げた。


「どちら様ですか?」


「やっぱりお前は分からんか」


ダハーカは情けないと肩を竦めて息を吐いた。


「こいつは草神彰久。いつも人間界で会ってただろ?」


フェンリルが言うとラインハルトは驚いた。


「あのおじさんですか?まったく別人じゃないですか!?」


「そりゃそうさ。この男はウールヴヘジンとして生まれ変わったからな」


「ウールヴヘジン?もしかして北欧神界で名を馳せた獣戦士の事ですか?」


「他に何がある。まぁ、詳しくは後で説明してやるから、お前も酒を飲め」


ダハーカが顎で来るように言うとラインハルトは恐縮な態度で部屋に入ってきた。


ベルゼブルの存在に気付いたからかもしれない。


「で、どうだった?逆ナンは?」


ダハーカが下品な笑みを浮かべて聞いてくるとラインハルトは真っ赤になりながら答えた。


「狭い部屋の中で5人の女子に囲まれて身体中を触られました」


「逆セクハラもされたのか?くー羨ましいぜ」


「本当に変わってもらいたかったです」


心の底から言ったラインハルト。


「お前も少しは女慣れしろ」


夜叉王丸も弟子の様子に呆れ果てていた。


「女に触られた位で赤くなるな。しかし、まだ若いな」


俺もこんな可愛らしい息子が欲しかったと夜叉王丸を見ながらベルゼブルは言った。


「可愛げのない息子で助かったぜ」


「ちっ。本当に可愛くないな。お前は」


憎まれ口を叩き合いながら二人は酒を飲みラインハルトも混ざり男だけの宴は続いた。


肴は夜叉王丸が用意した干し肉とバター・ピーナツ、それにサラミだった。


「んー。ピーナツが美味い」


ベルゼブルは美味しそうにピーナツを頬張る。


「皇帝がこんな庶民の物を食べているのが珍しいかい?彰久」


ベルゼブルは彰久の視線に気づいて訊く。


「まぁ、王族ともなればキャビアやフォアグラなどを肴にすると思っていたので」


「それは夜会の時さ。おぉ、そうだ。お前もこれから夜会に出る機会があると思うから何かと飛天や俺に聞け」


「夜会と言いますと、ドレスを着た婦人と酒を飲んだりダンスをする夜会ですか?」


「それは表向きだ。本当は集団見合いみたいなものだ」


夜叉王丸はセブンスターを銜えながら無下に言う。


「お前は偏屈な答えしか出せないのか」


「偏屈じゃなくて本当の事だろ?」


「我が息子ながら何て男だ。つくづくお前の育て方を間違えたと思う」


「お前に育てられた覚えはない」


バッサリとベルゼブルの言葉を切り捨てる夜叉王丸。


互いに睨み合っていると何やら外が騒がしい。


『ちょっと離しなさいよ!!私は酒を飲むのよ!?』


『馬鹿な事を言わないで!!私たちが入って良い訳ないでしょ?!』


「何だ?」


男性陣が首を傾げているとドアが開きジークルーネとヴァレンタインが倒れ込んできた。


「何をやっているんだ?お前らは」


夜叉王丸は呆れた眼差しでジークルーネを見下す。


「私も宴に混ぜなさい!!」


開口一番に言われた言葉に唖然とする。


「も、申し訳ありませんっ。飛天様。クレセント殿が湯浴みに行っている間に行こうとしたので止めようとしたのですが・・・・・・・・・」


ヴァレンタインは謝罪しながら経緯を説明する。


「やれやれ。お前の騒々しさには目に余るな」


溜め息を漏らしながら夜叉王丸はヴァレンタインを立たせた。


「ちょっと、私は?」


「てめぇは自分で立て」


ヴァレンタインの手を掴んで優しくエスコートする。


本来ならやらない彼だが、この時ばかりはヴァレンタインに褒美という形でやる事に決めた。


「あ、の、そんな事をしなくても・・・・・・・・」


「お前は身体を張って、あの猪娘を止めようとした。その褒美だと思え」


ヴァレンタインは夜叉王丸の言葉に嬉しく思う反面、褒美としては良すぎると思った。


彼女から言わせれば夜叉王丸は恩人も恩人である。


戦で負けて一人、残された自分を屋敷に居候させてくれた上に皇帝と后妃に面会させて色々と世話をしてくれたのだ。


それを返す為にメイドとして働いているが、そんな事で返せる訳がないと思っている。


それなのに、あんなワルキューレを止めようとしただけで褒美が貰えるなど美味し過ぎると思う。


しかし、心で思うが身体は言う事を聞かずに夜叉王丸の座っていた直ぐ隣に座る事になった。


「それだけ完璧なエスコートが出来るのに夜会に出ないのは宝の持ち腐れだぞ」


ベルゼブルは息子の勿体ない才能に呆れながらもヴァレンタインを歓迎した。


「ようこそ。ミス・ヴァレンタイン」


「皇帝陛下に着きましては、ご機嫌も麗しく天使である私も嬉しく思います」


「そなたの屋敷での働きは聞いている。よく馬鹿息子にジャンヌちゃんと一緒に仕えているな」


「敗戦の将である私を客人として迎えて世話をしている夜叉王丸様に少しでも恩返しが出来れば何よりです」


謙虚な答えにベルゼブルは満足しながら夜叉王丸に不貞腐れているジークルーネをどうするんだ?と眼で聞く。


「おい。飲むのか?飲まないのか?」


「飲むわよ!!何よ!そっちだけエスコートして・・・・・・・」


怒り心頭で言うジークルーネに対して夜叉王丸は落ち着いていた。


「お前は俺にエスコートされたいのか?」


「ヴァレンタインとの格差が丸分かりで嫌なのよ」


「分かるなら、もう少し態度を改めれば良いだけです」


ヨルムンガルドが冷静で的を射た言葉を言うとジークルーネは押し黙った。


しかし、直ぐに開き直ったのかズカズカと歩み寄り乱暴に椅子を引いて腰を下した。


「ヴァレンタインはワインで良いかな?」


ヴァレンタインは酒を飲むのを断ろうとしたが、夜叉王丸の勧めで飲むと頷きジークルーネに至っては最初から飲む気なのか早く寄こせと催促してきた。


「ほれ」


ボトルを一本丸ごと渡す夜叉王丸。


ヴァレンタインには夜叉王丸自身がワイングラスに少し注いで渡した。


ここでも格差が丸分かりである。


「何よ何よ」


ぶつぶつ文句を言いながらジークルーネはボトルの封を切るとラッパ飲みした。


「あの猪娘は放っておくとして、ヴァレンタイン。乾杯」


「・・・・乾杯です」


チン、と夜叉王丸とヴァレンタインはグラスを合わせる。


「つくづくお前は勿体ない男であり朴念仁と思う」


ベルゼブルは呆れながらグラスを煽りジークルーネに話し掛けた。


「その様に一人で酒を飲むのは寂しいだろ。ワルキューレ。俺の隣に来い」


「くぅー。皇帝陛下だけです!私の気持ちを察してくれるのは・・・・・・・・」


ジークルーネは紳士的なベルゼブルに涙を流しながら隣に座った。


「俺の馬鹿息子に困り果てているようだな」


「そうなんです!私が結婚を申し込んだのに断ったんです!!」


「お前の勝手な言い草だ」


夜叉王丸は呆れた眼差しを送りながらグラスを煽る。


ヴァレンタインの方も同感だと頷いていた。


「ほらっ。見ました?皆して私を虐めるんです!!」


ジークルーネは泣き真似をする。


「はぁ。もう良い。そうだ。ヴァレンタイン。お前、何か曲を弾いてくれないか?」


この馬鹿な空気を一掃してくれと言う夜叉王丸。


ピアノは前まで無かったのに、何時の間にか置いてあった。


「私ごときの演奏で良いのですか?」


「お前の腕は確認済みだ。今宵の宴に、お前の美しい音色を聞かせてくれないか?ヴァレンタイン」


貴族の令嬢には、威力絶大な殺し文句を言って、頼み込む夜叉王丸にヴァレンタインは真っ赤になりながら頷いた。


「・・・・おい。女たらし」


ベルゼブルの発言に夜叉王丸は渋面を浮かべた。


「誰がたらしだ」


「あんな殺し文句を言って、たらしじゃないと言うお前は立派な女たらしだ」


息子の態度に心底、呆れながら夜叉王丸のためにピアノを演奏しようとするヴァレンタインをベルゼブルは、密かに嫁候補に入れても良いなと考えた。


現在、彼の頭の中に浮かんでいるのは本の数人ほどではある。


その中にヴァレンタインを入れても問題は無いと彼は結論付けた。


元死天使ではあるが、そんな小さな事を隣の愚息が気にする訳ない。


寧ろ過去の自分と重ね合わせて愛おしくするだろう。


『後で、リストアップするか』


魔界の皇帝が自分をリストアップしようなどと知らないヴァレンタインは、ピアノの演奏を始めた。


演奏されたのは夜想曲だった。


「ふむ。流石は音楽の女神と謳われただけの事はあるな。素晴らしい演奏だ」


ベルゼブルはヴァレンタインの演奏に耳を傾けながらジークルーネを片目で見る。


ジークルーネも騒いでいたのが嘘のように静かに耳を傾けていた。


他の者も耳を傾けながら酒を飲み続けた。


今宵の宴にはピッタリな曲だと夜叉王丸は思い、ヴァレンタインを満足気に見た。


暫くの間、夜叉王丸の屋敷からはピアノ曲が流れ続けていた。


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