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第十三章:草神彰久

16時くらいにバロンに学校を終えて真夜達が訪れた。


今日は綾香と真琴が来て真夜達も織り交ぜてバイトをしていた。


と言っても客はリストラされて新たに道を見つける事が出来た営業マンだけがいる。


「おじさん。辛い時もあるけど、良い事もあるよ」


綾香が慰めるように言った。


「そうですよ。飛翔さんが力になると言うなら、きっと幸せな人生が待っています」


真琴は修行僧のような言葉を言うが重さがある。


「ありがとう。君らみたいな娘に言われると自分の娘に言われた気分だよ」


営業マンは笑った。


「それにしても妻が夫を捨て娘が実の親を追い出すとは随分と怪しからん娘じゃ」


黒闇天が唸った。


厳格な家で生まれた為か、そこら辺は正しい考えを持っているようだ。


「だな。お前さんには悪いが子が親の家を出るなら問題ないが、子が親を家から追い出すのは悪い」


夜叉王丸も頷く。


子供が成長して親の家から出て行くならまだ解るが、子供が親を家から追い出すのは同考えても道に外れる。


夜叉王丸の場合は男と違い親から追い出された方だが。


「何れにしても、お前はこれから新しい人生を歩むから問題はないか」


夜叉王丸の言葉に営業マンは頷いた。


「あの、それで考えたんですけど新しい名前を名乗ろうと思うんですけど・・・・・・・」


「名前か。しかし、親から貰った名前を捨てて良いのか?」


「両親はもう居ませんし、新しく人生を送りたいと覚悟が欲しいんです」


営業マンは野獣の瞳を見せた。


「ねぇ。どうせなら飛翔さんが付けたら?」


綾香が言うと美羽と真夜も賛同した。


「主が面倒を見るなら名付け親になるのも主の役目かもしれぬな」


黒闇天も言い真琴は少し迷っている様子だった。


「んー・・・・・何が良いかな?」


夜叉王丸は腕を組んで考えた。


「あの主。苗字は俺が考えて良いですか?」


フェンリルが上から降りてきた。


「何だ?何か良い名字があるのか?」


「えぇ。まぁ本を読んで浮かんだんですがね」


「どんな名字だ?」


「モンゴル帝国史を読んでいて浮かんだんですが、草神という苗字はどうでしょうか?」


それ以外にも彼に宿る野生の獣を見て思い付いたのだろう。


「駄犬にしては良い名字だな」


ダハーカが笑う。


「俺は狼だ。そして、こいつも狼だ」


フェンリルはダハーカに言い返しながら営業マンの獣を言う。


「狼、か。何だか大草原を走り回ったり森林を徘徊するのがイメージ出来るな」


綾香が本物の狼を見た事はないが、そうだろうと想像する。


日本の狼は愚かな人間が絶滅に追い込んだから日本で見る事は出来ない。


「だけど、フェンさんが考えた名字は好きだな」


「私も思うわ」


真夜と美羽、綾香と真琴も好きだと言って黒闇天の方も良い名字だと言った。


「よし。先ず名字は草神で良いな?」


営業マンは頷く。


「後は、名前か。お前の名前は?」


「若人と言います」


まったく若く見えませんがね、と言う営業マン。


「若人か。まったく見えないな」


ダハーカが笑う。


「ダハーカさん。それは酷いですよ」


ジャンヌが厨房から出て来て軽く叱る。


「同感です。彼の名前は親から頂いた大切な宝です。それを笑うのは失礼です」


ヴァレンタインもジャンヌを援護した。


ダハーカは女性陣二人に言われて押し黙った。


「名前、名前か・・・・・・・」


相棒が困っている中で夜叉王丸は自身の名前について思い出していた。


人間の頃の名前は当の昔に忘れた。


今の名前はどうやって付けたのか?


『復讐の悪鬼となることを誓って付けたんだよな』


自分が人生を表したようにこの男にも人生を表す名前を付けようと思った。


「お前さんはこれからの人生で、何を望む?」


「これからの人生では・・・・・・・はっきりと自分の考えを表したいです」


「なら、今日からお前は草神彰久だ」


夜叉王丸は明言した。


草神彰久。


「彰久か。良い名前だな。久は何だ?」


「筋を通す、こいつの心意気を踏まえて名付けた」


夜叉王丸はダハーカの質問に答えた。


「これがお前の新しい名前だ。文句はあるか?」


営業マンは首を横に振った。


「よぉし。決まりだ。これからお前は草神彰久だ。今日この時から、お前は草神彰久だ」


営業マンは再度、頷いた。


この時から営業マンいや、草神彰久の第二の人生が幕を開けたのだ。


その後、茨木童子とヨルムンガルドが草神彰久を連れて今、住んでいるアパートに行き契約を解除しにバロンを後にした。


今日から夜叉王丸の屋敷で暮らす為だ。


「大丈夫なのですか?夜叉王丸様」


ヴァレンタインが聞く。


恐らく草神彰久の事だろう。


「大丈夫さ。あいつはラインハルトと同じく骨がある」


夜叉王丸は言った。


「これからどうするの?飛翔さん」


綾香はジャンヌが淹れてくれたカフェ・オレを飲みながら聞いた。


「俺の元で鍛えて仕事を与えるよ」


「鍛えるって事は軍隊みたいに?」


「まぁ、ね。俺の仕事ってなるとどうしても荒仕事になるから」


軍人であり犯罪界のボスとして君臨する彼の仕事はどうしても荒仕事になるのだ。


「だけど、今から鍛えて働けるのですか?もう30になるって言っていましたけど」


真琴が心配そうな声を出す。


20から30歳が人間の男の身体的な面でキープだ。


それを超えて鍛えるとなると、どうしても上手くいかない。


「そこはこいつ次第だ」


ダハーカが草神彰久を見る。


「お前が本当に変わるという気持ちがあれば自然と力が出て来て強靭な肉体が出来る筈だ」


草神彰久は頷いた。


それを見て満足気に笑う夜叉王丸とダハーカ。


その後、18時までバロンを開いていたが、誰も来ない事で閉店をする事にした。


草神彰久は先ず今日は自分の寝床に帰り、明日またバロンに来る事を言ってヨルムンガルドと茨木童子に送らせた。


綾香と真琴は夜叉王丸が送る事となった。


「ねぇ。飛翔さん。今度、家に遊びに行って良い?」


ディムラー・ダブルシックスの助手席に座った綾香が横で運転をする夜叉王丸に家に遊びに行っても良いかと聞いてきた。


「家にかい?」


「うん。もう直ぐテストも近いから真琴と一緒に真夜達と勉強したいの」


なるほどと頷く夜叉王丸。


「別に良いよ。君らは俺から言わせれば真夜と同じだから」


「ありがとう。飛翔さん」


綾香は年頃の男が見れば一発で落ちる、であろう笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます。飛翔さん」


真琴も後部座席に座りながら礼を言う。


「なぁに。容易い事だよ」


笑いながら夜叉王丸はスピードを上げて鎌倉の街を走った。


綾香と真琴の家に着くと一緒に降りて泊まる事とラインハルトを迎えに行った。


道場の方に行くと小学生から中学生の子供たちと混ざって掃除をするラインハルトが見えた。


「あ、先生」


ラインハルトは雑巾を片手に夜叉王丸に近づいた。


着ているのは紺色の胴着と袴だ。


「今日の練習は終わりのようだな?早く掃除を済ませろ」


分かりましたと言ってラインハルトは掃除を再開した。


「おぉ。これは飛翔殿」


道場主で綾香の祖母である宗斎は夜叉王丸に会釈をしてから歩み寄った。


「ラインハルトを迎えに来ました。どうですか?彼の上達は」


「戦国の世なら類い稀なる剣の使い手として名を馳せていたでしょう」


大げさとも言える発言をする宗斎に苦笑しながら夜叉王丸はラインハルトに自分の剣術を教えるのも悪くないと思った。


道場の掃除を終わらせて、帰る準備を終えたラインハルトをディムラー・ダブルシックスに乗せると夜叉王丸は道路を走った。


車で煙草を吸いながら夜叉王丸は思っていた事を弟子に言ってみた。


「お前、俺の剣術を覚える気はあるか?」


「伯爵様の剣術と言いますと黒羽静夜暗殺剣、ですよね?」


「あぁ。名前は知っているようだな」


「この前、ヴァレンタインさんから聞いたんです」


なるほどと夜叉王丸は納得した。


彼の扱う黒羽静夜暗殺剣は殆どの者は名前どころか実在しているのかも知らない。


「ヴァレンタインさんには技を使ったんですよね?」


「あぁ。表の、な」


「表と言いますと・・・・・・・・・?」


「俺の技は表と裏の技がある」


「裏の技とは一体・・・・・」


「俺が本気で戦う相手に使う技だ」


ラインハルトの質問に答えながら裏の技を使ったのは何回だったか思い出すが直ぐに考えるのを止めた。


どの戦いを取っても碌な戦いでなかったからだ。


「伯爵様?」


ラインハルトが急に寡黙になった師匠に声を掛けると夜叉王丸はラインハルトと会話中だった事に気づく。


「ああ、悪い。で、どうする。俺の剣術を受けるか?」


少し考えたラインハルトは頷いた。


「正直、言って伯爵様の剣術を習えるなんて身に余る光栄です」


「そんな言葉を言うな。俺の剣術は相手を確実に殺すだけの剣術だ」


弟子に言われた言葉に歯痒い思いをしながら答える。


「お前も何れは戦に出るから教えておくが、剣は誰も救わない。ただ相手を殺すだけだ」


ラインハルトは黙って聞いた。


「柳生新陰流も活人剣をモットーにはしているが、結局は人を殺す術だ」


だがな、と夜叉王丸は付け加える。


「剣は殺すが、それを操る者は殺すだけでなく相手を救う事も出来る」


「相手を救う?」


「相手を殺そうと思えば殺せるし殺したくないと思えば殺さない」


剣は主人の気持ちを組んでくれると夜叉王丸は言いラインハルトに告げた。


「お前は、殺すだけの剣でなく誰かを救える剣を操れよ」


ラインハルトは師から言われた重い言葉を受け止めて力強く頷いてみせた。


それから二人を乗せたディムラーは魔界へと帰還した。


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