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序章:幽霊将軍と演習

天に弓を引き罰として暗い奈落の底へと落とされた天使、神が寄り添い連合して作り上げた魔界、地獄帝国。


四方を数人の王族達が連携して治め軍などを配備して外敵からの防衛、反乱などに備えてある一つの国として四方は出来ていた。


北の地は、首都からも比較的近い場所であり天界からも近いという事で、北方防衛軍という独自の組織が出来た軍事国家だ。


東も北に劣らない軍事国家として知られ、西と南は商業などで賑わっており豊かな資源などがある。


独自の文化を作り上げた四方の地の中心地に魔界の首都、万魔殿は存在しており皇帝が住む居城、魔天楼もある。


そんな魔界の首都、万魔殿に堂々と建つ魔天楼の一室で夜叉王丸の信じられないという声が聞こえてきた。


「演習に参加しろだと?」


「あぁ。どうしてもお前が良いと聞かないんだよ」


胡散臭そうに見下ろす夜叉王丸を見上げながら革のソファーに座り、葉巻を蒸かしているのは、魔界の皇帝であり彼の養父である蝿王ベルゼブル。


サタンの後を継いで二代目の皇帝となり、類い稀なる政治力と情報収集力を駆使して二代目皇帝として活躍している。


天魔大戦でも陣頭指揮を取り和睦の席でも威厳ある姿勢で臨み、改めて天界に名前を轟かせた。


しかし、私生活ではロリコンと言われても、文句の一つも言えない位に年の離れた人間の娘である源月美夜を妻として迎えて翌年には、愛娘である真夜が誕生した。


周囲の誰もが呆れる程の愛妻家兼親馬鹿であるが息子である夜叉王丸には、何かと厳しいようだ。


皇子である事も理由だが、色々と破天荒で我が道を行く主義が自分と重なってぶつかっているからが理由である。


「誰が聞かないんだよ?」


ギロリと自身と同じ金色の眼差しで睨む息子にベルゼブルは苦笑した。


「お前を慕う学生達とバール王やビレト、ザパン、アビコール達の軍上層部だ」


「・・・・大方の検討は着いていたが、当たると頭を抱えたくなる」


夜叉王丸は額を抑えて、どうしたものかと考えた。


彼、飛天夜叉王丸“伯爵”は、人間出身ながら成り上がった悪魔として蔑まされていたがバルト戦から人物が評価され、今や魔界を問わず各界でもその名を轟かせている。


そんな彼は、天魔大戦の功績により男爵から伯爵に昇格し、北方防衛軍と呼ばれる軍の特別組織に在籍しており、総帥であるバール王から副将軍の職位を与えられた。


夜叉王丸の他にも彼の腹心であるゼオンも夜叉王丸の補佐役として、副将軍補佐官に任命され他の者もそれなりの地位と名誉を与えられた。


この北方防衛軍とは、天界との戦では直ぐに迎え撃つ事になっている北の地方に特別に設けられた組織で、最新式の装備などを施されたエリートの軍団だ。


天魔大戦を機に和睦を結んだが、油断は禁物であり各界にも睨みを利かせる為に存在している。


その中で夜叉王丸の地位は、副将軍である事から重要書類から軍隊の演習指揮や各界の視察など、目が回る忙しい仕事を与えられている。


だが、彼は類い稀なる実力と懐刀としてヨルムンガルド、ゼオンが居る事で全ての仕事を難なく片付けている。


そのため彼が北方防衛の副将軍としてやるべき仕事は、特に無く屋敷でのんびりと昼寝をするか人間界の喫茶店、バロンでマスターをしている。


バロンの存在を知っている者は、少なく来る客も僅かな事からプライベートな場所となっている。


仕事が出来る事は良い事ではあるが、あまりに要領の良い事から彼を副将軍に任命したバール王を始めとした上層部は、何の接触も出来ずに親睦を深める事が出来ないと悲しんでいた。


特に兵士たちなどは、夜叉王丸が演習に参加するのを避けているので実戦的な訓練が出来ないと嘆いていた。


今回は幽霊副将軍的な存在である彼を表に引っ張り出すことを目的として、バール王、ビレト、ザパン、アビコールなどの軍の中でも大物の悪魔が、彼を慕う学生たちと扇動して夜叉王丸を演習に参加させるようにベルゼブルに直訴して来たのだ。


ベルゼブルとしても半ば引き籠り的な息子を引っ張り出す良い機会と考えて快く了承して夜叉王丸を城に呼び出したのだ。


「お前もたまには演習に参加しろ」


これは“命令”だと今や彼の十八番である言葉を出した。


皇帝から“命令”と言われれば文句は言えない。


「・・・・ちっ」


思い切り聞こえる声で夜叉王丸は、舌打ちをすると乱暴な手つきで贅を凝らした扉を開けて部屋から出て行った。


返事はなくても彼の機嫌が悪い事を見れば参加する事を了承したと解る。


「あいつも、これで少しは社交界に出るようになってくれれば良いのだが・・・・・・・・」


ベルゼブルは葉巻を蒸かしながら息子の将来を案じていた。


二千八百歳と人間で言うなら三十路になる頃なのに、未だに結婚もしないは特定の恋人、愛人も定まっておらず、風のようにフラフラする息子にも身を固めて貰いたいと一般的な父親の考えをしていると思いきや・・・・・・・・・


「社交界に出て何処かの令嬢と恋仲になって結婚・・・・・・・そして念願の初孫をこの手に!!」


息子の人生を勝手に目論んで一人で笑う皇帝の声が、暫く部屋の中から聞こえてきて城の者たちは、気味悪がって近寄らなかったらしい。


一方、部屋から出た夜叉王丸は不機嫌を顔から溢れ出していた。


「くそー。面倒くせぇ」


愚痴を零しながら赤いカーペットが敷かれた石の廊下を歩いた。


城に召集されてから嫌な予感はしていた。


彼の養父であるベルゼブルが呼ぶ時は、必ずと言って良いほど自分に不利益な事が待ち構えているのだ。


いつもなら拳骨の一発でもお見舞してやる所だが、彼としてもベルゼブルの言わんとする事が理解できる事から今回は強気に出れなかったのだ。


「あーあ、面倒くせぇ」


二度目の面倒くせぇを言って夜叉王丸は、長い廊下を歩いて適当な場所に行くと窓から飛び降りようとした。


正門まで行くのが面倒になり窓から出ようとしたのだ。


「またそんな所から出るつもりですか?」


聞き覚えのある声に夜叉王丸は振り返ってみた。


「・・・シルヴィア」


振り返って見ると、黒い軍服とベレー帽を纏って、カールの掛った金髪を惜しげもなく曝し濃紺の瞳を持った美女が、腕を組んで仁王立ちをしていた。


夜叉王丸の近衛兵の団長、シルヴィア・エターナ・ゾルディスだ。


元海軍の中将だったが、手腕を買われて近衛兵に移籍したが、まったくと言っても良いほど仕事がないため、学園の教師などをして気を紛らわしている。


「皇子ともあろう方が、そのような所から出るなどいけません」


姉のようにシルヴィアは夜叉王丸を叱りつけられた。


「硬いこと言うなよ」


夜叉王丸は苦笑したが、シルヴィアは険しい顔を更に険しくするだけだった。


「・・・ちゃんと門から出て下さい」


堅い声で喋る近衛兵隊長に夜叉王丸は仕方ないと諦めた。


この近衛兵隊長が一度決めたら断固として動かないのは、身を持って分かっているからだ。


「はぁ、分かった。ちゃんと城門から出れば良いんだろ?」


溜息を吐きながら窓から降りた。


それを見てシルヴィアは険しい顔から温和な表情に変わった。


軍服に身を包んでいるが、やはり女なのか柔らかな顔が似合っていると思った。


シルヴィアは自分が居なくなった途端に窓から出ると考えたのか、並んで廊下を歩き城門まで歩く事にした。


石で作られた廊下を赤いカーペットが隙間なく敷かれた廊下を歩くと、何人かのメイドや騎士、小間使いの子供が通った。


夜叉王丸の姿を見ると皆は笑顔で挨拶をして夜叉王丸も笑顔で返した。


彼は苦労人であった事から下々の気持ちも理解し皇子という重さも知っている事から民たちから好かれた。


ただ、近衛兵を務めるシルヴィアは破天荒な行動を取る夜叉王丸に悩んでいたが・・・・・・


夜叉王丸は城門まで間近となった所でシルヴィアに言った。


「今度、演習に参加する事になったからお前とシャルロットも来てくれ」


「・・・・はい!!喜んで!?」


少し静止してから子供のように笑うシルヴィア。


夜叉王丸は近衛兵などを付けるのを嫌っている事からシルヴィアが指揮する近衛兵は殆ど暇を持て余している。


シャルロットの新鋭隊は、堅苦しくない事もあり何かと夜叉王丸が懇意にしているが接点がない近衛兵たちから怨みを買っていた。


今回の演習も時期にシルヴィアの耳に入る。


そうなったら、『また自分たち近衛兵は置いて行くのか?』と喚いてくるに違いないと考えて夜叉王丸は先手を打ったのだ。


そうとは知らないシルヴィアは、周りからは気持ち悪い位に見られる上機嫌さで城門から出て行った夜叉王丸を見送った。


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