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9話 まともな服を買う

「おおお、これはすごい! カフーの洋服屋さんにも負けてないよ!」


 リーシャがはしゃいでいる。

 毒竜を討伐した翌日、二人は真っ先に服屋へ向かった。昨日の戦いであちこち破れ、毒が染みついてしまったので買い直す必要が出たのだ。ギルドの討伐確認がすぐ終わるとは思えないので、こちらを優先した。


「これならライマルでも入るんじゃないかな?」


 リーシャがシャツとベストを見繕ってくれる。


「着替えさせてあげよっか。ほらほら、そのシャツ脱いで~」

「わわっ!? ちょっ、自分でやるから!」

「え~。わたしとライマルの仲でしょ?」

「は、恥ずかしいんだって!」

「昨日なんて実質二人でお風呂に入ったようなものじゃん。今さら何を」

「い、いや、あれはしっかり壁があったから!」


 むー、とリーシャは不満そうだが、とにかく服を受け取って物陰で着替える。ズボンは自分で選んだ。


「おっ、爽やかになった!」


 リーシャの笑顔がはじける。白いシャツの上に黒のベストを羽織ったライマル。いつもシャツだけで行動していたので一枚多いのはなんだか違和感がある。


「ちょっと大人っぽさあるね。ライマルの新しい一面を見てしまった」

「いい?」

「よい!」

「じゃ、これ買おうかな」

「うんうん。今まで買えなかった分を買いまくるんだ!」


 前のパーティでは、ガーケルがメンバーの貢献度に応じて報酬金を分割していた。ライマルは一番低く、高い服はとうてい手が出なかった。リーシャに「買ってあげる」と言われたこともあったが、それはあまりに情けないので断ったりもした。


 だが、今日は自由に使えるお金をかつてないほど持っている。気になる服を片っ端から買っても足りるくらいに。難点は、ぽっちゃりしたライマルに入りそうな服が少ないことだが、気にしても仕方がない。急には痩せられないのである。


「わたしもいろいろ見てくるから、ライマルは先に会計しちゃうといいよ。強度付与もしてもらいたまえ」

「強度付与?」

「……知らないの?」

「シャツとズボン以外買ったことないから……」


 リーシャが申し訳なさそうな顔になる。


「強度付与っていうのは服屋さんでつけてもらえる防御魔法の追加注文のことだよ。戦闘で簡単に服が破れないように、魔法で繊維を強化してもらうの」

「なるほど。だからリーシャの服はいつも頑丈だったんだね」

「そういうこと。破れてきわどいところが見えなかったのは残念でしたか?」

「そ、そそそそんなことないって」

「ほほ~ん」

「ぼ、僕会計してくる!」


 ライマルは逃げるようにカウンターに向かった。店主が服を確認する。


「強度付与はつけるかい」

「お願いします」

「ちょっと時間がかかるんでね。また昼過ぎくらいに取りに来てくれ」

「お支払いはいつすればいいですか?」

「あとでいい」

「料金だけ確認したいんですけど」

「強度付与込みなら五万シロンになる。つけなければ一万シロンでいい」


 それを聞いて、強度付与の術式には高い価値があることを知った。


「込みの料金で払います」

「わかった。やっておこう」


 ライマルは女性服売り場に移動した。他にお客さんがいないのでこういう場所でも比較的気楽だ。


「ライマル、これどうかな?」


 リーシャは黒いロングコートを羽織って一回転した。裾がふわりと舞い上がる。


「前のやつ、毒でカピカピになっちゃったから替えようと思うんだ。わたし、黒ってどうなのかな」

「すごく似合ってる」

「そ、そう?」

「茶色のコートもよかったけど、黒の方が金髪と合ってるよ」

「そっか。じゃあこれに決めた」


 あとはー、とリーシャが棚を探し回る。

 女性服売り場は「婦人用」と「女性冒険者用」に分かれている。女性冒険者用は、基本的に飾りっ気がなく機能重視。婦人用は装飾こそ目を引くが、動きづらそうなものが多い。


 リーシャが白いブラウスと黒いスカートを選ぶ。どちらも柔軟性に優れた繊維で作られているのが売りらしい。他には靴下、タイツを手に取る。


「よし、これで完璧だ」

「やっぱり、僕より買うもの多いよね」

「あんまり野暮ったく見られるのも嫌だからね。戦いやすさと見た目のよさを考えるといろいろ増えちゃう」

「リーシャは何を着ても似合いそうだけど?」

「うっ……ほ、褒めても何も出ないよ?」

「本当にそう思っただけだよ」

「ふ、ふーん……」


 リーシャの頬が少し赤くなっている。そんなに褒めたつもりはないのだが。


「ま、待ってて。わたしも会計してくるから」


 微妙な間のあと、リーシャが慌てたように移動していった。

 僕なんかにでも褒められたら嬉しいのかな……。

 ぼんやりそんなことを考えるライマルだった。

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