8話 その頃ガーケルは……
山道を歩きながら、ガーケルは苛立っていた。
「おいロゼ! 早く上がってこい!」
「無理。荷物重い」
「てめぇ……」
「戦いで動けなかったらどうしようもない。休むの優先」
「ぐっ……」
拳を握りしめるガーケル。横から槍使いのケインが慌ててなだめにかかった。
「ま、まあまあ。ガーケルさん、ロゼは力ないんですからしょうがないですよ。ちょっと休憩しましょう」
「……ちっ」
ガーケルは道の脇の木に背中を預けて座る。ケインも背負っていた荷物を下ろして息を吐いた。坂の下では、ロゼが草の上で横になっている。
……調子が狂うぜ……。
パーティが三人になってから初めて受ける依頼だった。
ライマルを追い出したら、激怒したリーシャに抜けられた。リーシャがいなくなるのは誤算で、戦闘に影響が出るのは間違いないと危惧していた。
だが、それ以前の問題だ……。
そもそも、目的地に着くまでに時間がかかりすぎている。
ギルドで依頼を受ける際に必要な書類を書いていたが、書き方がわからず手間取った。出発の時も、荷物をまとめるのに時間がかかった。
そして、ロゼが「荷物重い」と言ってすぐに休みたがる。
「ライマル……」
「え、何か言いました?」
「いや」
ガーケルは鼻を鳴らした。
依頼に向かう日、起きれば道具がすべて調っていた。
それは誰がやっていた?
――ライマルだ。
あの太っちょの少年が、書類を書き、道具をそろえ、荷物を運んでくれていた。
いなくなって初めて、このパーティがどれだけライマルに依存していたのかに気づかされた。
こんな当たり前だと思っていたことができない。そんな自分たちに、ガーケルは苛立ちを隠せなかった。
ギルドでは噂が立っていた。
ライマルとリーシャが一緒にカフーを出ていくのを見た者がいると。
あいつらはよその街でやっていくつもりなのか。
……そういや、リーシャはやけにライマルを気に入ってたな。
ガーケルからしたら、魅力のない太った少年でしかなかった。ガーケルは十九。ライマルとリーシャは二つ年下だった。ケインが間の十八で、ロゼは十六。
あの二人は歳が同じだから話が合うくらいにしか考えていなかった。
しかし、リーシャはパーティを捨ててまでライマルを追いかけていった。
……まさか、な。
浮かんできた考えを否定する。それを認めるのは、なんだか腹立たしい。
ガーケルは立ち上がった。
「おい、もういいだろ。出発するぞ」
「わかりました。おーい、ロゼ! 行くぞー!」
「んぅ……早い……」
ロゼはだるそうな顔でのろのろ起き上がる。杖を支えにしてゆっくり立ち上がる。
「早くしろ!」
「重いんだってば」
渋々大きな荷物を背負うロゼを、イライラしながら待つガーケルだった。