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5話 自信がついたよ

「うわあああん、ライマルううううっ!! 生きててよかったよおおおおおっ!!」


 毒竜の死を確認すると、リーシャがものすごい勢いでライマルの胸に飛び込んできた。

 顔が涙とよだれでぐしゃぐしゃだが、そんなことは気にならない。

 ライマルは、彼女を死なせることなく窮地を乗り切れたことを純粋に嬉しく思った。


「さすがに危なかったね」

「うん……わたし一人だったらとっくに死んでた。全部ライマルのおかげだよぅ」

「なんか……」

「なに?」

「いつになくしおらしいね」

「うぅ、だって、こんなひどいことになるなんて思わなかったんだもん。もっと簡単に倒せるって油断してた。ごめんなさい、ライマル」

「気にしないで。むしろリーシャには感謝してるくらいなんだ」

「感謝? どうして?」

「ここに来られたから、僕は〈ジャンプ力〉のスキルを手に入れることができた。おかげで世界が一気に広くなった気がするんだ」

「そっか、宝珠見つけたんだったね」

「鋼化と重量化とジャンプ力……この三つがあれば、僕もアタッカーとして前衛で戦うことができる。うぬぼれかもしれないけど、自信がついたよ」


 笑いかけると、リーシャはごしごしと涙をぬぐった。


「うぬぼれなんかじゃない! ライマルの潜在能力はすごいってわたしはずっと信じてた! それが今回のスキルでついに花開いたんだ!」

「まだ、僕もやれるかな?」

「やれるよ! むしろこれからが本番ってくらいだよ!」


 リーシャはようやく笑ってくれた。そこで限界が来た。


「うっ……」

「ああっ!?」


 ライマルはふらつき、リーシャを抱えたまま倒れる。彼女を押しつぶしたらヤバい――と、とっさに横向きになって地面にぶつかる。


「ご、ごめんリーシャ。体に力が入らなくて」

「ううん、わたしも同じだよ。限界超えて戦ってたんだもん」


 倒れたまま、二人は無言で見つめ合う。ライマルはだんだん恥ずかしくなってきた。


「ふふっ」


 リーシャが小さく笑う。


「ライマル、顔赤くなってきた」

「た、戦ったあとだから」

「ほんとにそうかな~?」

「うう……」

「あっ、こら。目をそらしちゃ駄目だよ」


 顔を動かそうとしたら、リーシャに押さえられた。彼女の手はひんやりと冷たい。氷属性魔法を得意とするリーシャの体温は、普通の人より少し低い。


「いいな……ライマルの目、すごく輝いて見える」

「そ、そう?」

「前は暗かったけど、今は希望に満ちあふれてるって感じ」

「スキルのおかげだな」

「ライマル自身の力があってこそだよ。あの戦法をとっさに思いつけたのはすごい。発想力がなかったら毒竜の攻撃を避けるだけで終わってたよ」

「僕、頑張れてた?」

「よくできました。満点!」


 こんな美少女にひたすら褒められ、頭を撫でてもらう。ガーケルのパーティにいた時からでは想像もつかなかった。あのパーティでは、足を引っ張らないように四人と少し距離を空けていた。リーシャとは一年半くらい一緒に戦ったけれど、ここまで密着したのは初めてだ。


 リーシャの自慢の金髪は、竜のブレスを受けてだいぶ荒れてしまっている。それでも、ライマルをまっすぐ見つめる翠玉の瞳と相まって、とても美しく見えた。


「さ、そろそろ帰ろ。SSランクのドラゴンを倒したんだから、ギルドもびっくりするでしょ。堂々といこうね」

「今なら大丈夫そうだ」

「お、いい返事! 昨日までのライマルだったら「できるかなぁ……」って言ってたところだったね」

「あはは、そうかも」


 二人は立ち上がった。倒した毒竜の死骸を見る。


「せっかくだから、持てるだけ持って帰ろっか」

「よし、やろう」


 上級ランクのドラゴンは、あごの下に特殊な鱗ができていることが多い。この毒竜にも、キラキラと紫色に光る鱗がついていた。

 ライマルは短剣で鱗を一枚ずつ剥がしていく。これが高値で売れるのだ。置いていくなんてありえない。

 リーシャは腹を割いて、臓腑の中を一つ一つ確認している。毒竜だけあって、腹を割ったら腐臭が一気に立ち上ったが、お宝の前では障害にならない。


「あ、宝珠だ!」


 リーシャが何かの臓器から紫色の玉を見つけ出した。


「たぶん毒系の能力がつくんじゃないかな? ライマル、使っていいよ」

「いや、リーシャが使って」

「またそういうことを……」

「そうじゃなくて、もし毒を扱えるようになるならリーシャの方が向いてるってことだよ。僕は自分の体が武器になっただけで、相手に毒を与えるには向いてない。リーシャなら剣で毒を打ち込むことができるだろう?」

「なるほどぉ。じゃあ、いいんだね?」

「もちろん」


 リーシャはその場でスキルの取得にかかった。宝珠を強く握りしめ、精神を統一する。

 スキルは手に入れた瞬間、どう扱えばいいのか体が勝手に理解する。リーシャにも能力の中身がわかったはずだ。


「やっぱり猛毒の付与だね、これ」

「剣士や後衛向きの能力だ」

「何種類使えるのかまではわからないから、ちゃんと確認しなきゃ」

「間違って僕の食べ物にかけちゃ駄目だよ」

「ふふん、どうかな? 恋の毒とかあったら使っちゃうかも」

「え?」

「あ――な、なんでもないっ」


 ぷいっとそっぽを向いて臓器の解体に戻るリーシャ。ライマルはしばらく動けなかった。

 恋の毒……僕に使う?

 それって――と考えかけて、やめた。


 ライマルは鱗を剥がす作業に戻る。

 こればっかりはうぬぼれだ……。まさか、リーシャがそんな……。

 きっとからかおうとしただけだ、とライマルは自分に言い聞かせた。

 こんな太っちょを好きになってくれる女の子なんていない。現実を見ろ。戦いで活躍できたとしても、体は横に大きいままなのだ。顔も胴体も丸い。


 リーシャにはもっとかっこいい男がお似合いだよ……。


 必死に邪念を追い払おうとするライマルであった。

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