最終話 新たな冒険の旅立ちに
ライマルはベッドから下りて、身だしなみを整えると廊下に出た。
「おはよっ」
ほぼ同時に隣の部屋のドアが開き、リーシャが出てきた。戦闘用のコートは着ていない。ブラウスにスカート。いつもの格好。
「同じタイミングでドアを開けるなんて、わたしたちますます息が合ってきたね」
「そうだね。明日も合わせよう」
「よーし、頑張って起きようっと」
二人で広間へ下りていく。そこで朝食だ。
「あ」
「よう、来たか」
広間にはガーケルが立っていた。武器は持っておらず、シャツにズボンの簡単な服装だ。
「俺たちはカフーに戻る。今回は世話になった」
「わざわざ挨拶に来てくれたんだ。ありがとう」
「くっ……てめえのことはやっぱり気に入らねえぜ。皮肉の一つも吐いてほしいもんだ」
「こういう性格だから」
「ふん」
ガーケルはちょっとためらってから言った。
「パーティに戻ってこいなんて虫のいい話をするつもりはねえ。俺たちは俺たちでやる。そっちもやりたいようにやってくれ」
「ああ、そのつもりだ」
「だが……」
「ん?」
「何か、また手に負えないことが起きたら……その、まあ、なんだ、力を貸してくれ」
「ガーケル……」
「い、言いたいことはそれだけだ! じゃあな!」
ガーケルは逃げるように銀鎧亭を出ていった。
「素直になれないんだね~」
リーシャは面白そうにしている。
二人は食堂へ行き、朝食のパンとスープを持って席に着いた。
「これで、追い出されてからのドタバタもいったん収まるところに収まった感じかな。ライマルは本当の意味で自由になったんだね」
「昔のことは振り返らずに済みそうだ。これからのことだけ考えるよ」
「今まで思うようにできなかった分、いっぱい冒険しようね」
「無茶は駄目だよ?」
「わかってまーす」
「わかってなさそうだ……」
ライマルはスープに口をつける。
結局あのシンオーガのことはよくわからない。
ガーケルたちが戦っていたから加わったけれど、出現した事情は後日あらためて聞くことになっている。
なんでも首都カフーでは国家転覆偽計罪により捕まった議員が出たらしいから、その関係だろうとライマルは想像している。
「召喚獣のシンオーガまで撃破して、ライマルの評価は止まらないね。わたしも精一杯ついてくよ~」
「一緒に頑張ろう」
ライマルはちょっと照れたが、言うことにした。
「冒険者としてはもちろん……か、彼氏としても頑張るから」
リーシャの顔が一瞬で赤くなった。
「わ、わたしも……恥ずかしくない彼女になります……」
気まずい空気が流れかけたが、お互いに笑い出したのですぐに穏やかな雰囲気が帰ってきた。
「ライマル、あらためて乾杯しない? お水だけど、本当の出発だから」
「いいとも」
水の入ったグラスを持つ。二人の顔は希望で満ちあふれている。
「僕たちの新たな冒険の旅立ちに――乾杯!」
「かんぱいっ!」
今日も未知なる冒険が、二人を待っている。
〈おしまい〉




