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36話 誰も欠けちゃいけない決着

 ダイナのバトルアックスが唸り、シンオーガの右腕に叩きつけられる。深い傷跡が残り、瘴気が噴き出す。ライマルは感動した。あれだけの人数で攻めても傷つけられなかったシンオーガを、最初の一撃でいきなり負傷させてみせた。やはりダイナはあの時の思い出と変わらず、すごい人だった。


 もうすっかり暗くなり、視界が悪い。月が出ているが、明かりは弱く、シンオーガの輪郭を掴める程度だ。


 みんな魔法で攻撃しなくなった。もう魔力が枯渇寸前なのだろう。軍人たちも動きがにぶい。

 リーシャがシンオーガの正面に入り、注意を引く。魔物が右腕で殴りかかるが、リーシャはしゃがんでやり過ごす。その合間にダイナが背後に回り込んだ。


「おおおおおおおッ!」


 横薙ぎの一撃がシンオーガのふくらはぎを直撃する。ざっくりと肉に食い込む。シンオーガが前のめりによろけた。


「ライマル、喉を攻撃しろ! こいつはそこが弱点のはずだ!」

「ダイナさん、知ってるんですかっ!?」

「召喚獣の文献で読んだだけだが、試してみる価値はあるだろう!」

「はい!」


 ライマルは両足の間をくぐってシンオーガの足元へ出る。

 ジャンプ力を発動し、斜めに飛び上がった。喉を狙った一撃は、しかし跳ね返された。あごから逆さまに生えている牙のような部位にぶつかったのだ。それが喉を覆うように出ているため、通らない。


「あの牙を折らないと駄目だ!」


 ライマルは相手の拳を受け止めながら叫ぶ。


「ううっ、部位破壊に使えそうな魔法は持ってないよ~……」


 リーシャが力なく言う。


「やるから!」


 だいぶ後方から声が飛んできた。振り返ると、ロゼが杖を向けていた。


「わたしに! 任せて!」


 大声を出すのに慣れていないのか、ロゼはげほげほ咳き込んだ。


「ライマル! 準備、して!」

「わ、わかった!」


 ライマルはシンオーガの正面を維持しつつ、距離を開ける。


「でも、ジャンプ力の加速だけで足りるか? 喉だって硬いはず……」

「それはわたしがなんとかするよ!」


 リーシャが横に来た。


「わたしの颶風タイフーンでジャンプしたライマルをうしろから押す! そうすれば速度が出るはずだよ!」

「な、なるほど!」


 シンオーガはダイナと激しい戦いを繰り広げている。ダイナはバトルアックスの柄で拳を受け流している。致命の拳を受け流すという行為そのものがすさまじい。普通の冒険者なら体がすくんでそれどころではないはずだ。胆力が違いすぎる。


「う……、狙いにくい……」


 ロゼが近くまで来てタイミングをうかがっている。


「もっとゆっくりになれば絶対当たるのに……」

「大丈夫だよ、ロゼ」

「え?」


 優しく言ったのはリーシャだった。


「わたしにはわかる。やーーーっと効いてきたなって」

「どういう意味……」

「あ」


 ライマルも気づいた。戦いに没入していたせいで気づけなかった。

 ダイナとシンオーガの戦いは、明らかにダイナが押し始めている。魔物の攻撃はさっきより大振りになり、ダイナに回避の余裕を与えている。反撃のバトルアックスがあちこちの皮膚に傷をつけていた。


「リーシャ、君は何を……?」

「ふっふっふ」


 リーシャは傷だらけの顔で笑った。刀身をライマルとロゼに見せて、軽く傾ける。ぽたり、と紫色の液体が切っ先からこぼれた。


「〈猛毒〉のスキル。さっきからずっとこいつを打ち込んでたんだ」


「ああ! 毒竜から手に入れた宝珠か!」

「そうそう。こんなヤバそうな毒でも全然回ってるように見えなかったからほんとに焦ってたんだよ?」

「い、いける。これなら勝てるぞ!」


 ロゼがあらためて、杖をシンオーガに向けた。


「今なら当てられる」


 ダイナのバトルアックスとシンオーガの拳が激突した。両者が大きくのけぞる。シンオーガの顔が上を向いた。


「今だ――氷結星メテオ!」


 ロゼの杖から氷球が放たれた。おそらく最高密度。これは通るはずだ!


「いった――――ッ!」


 リーシャが歓喜の声を上げた。

 氷球がシンオーガのあごを捉え、下向きの牙を破壊した!


「よしっ、ライマル飛べそう!?」

「やるよ!」


 ライマルは膝を曲げてジャンプの姿勢を作る。

 シンオーガは上体を戻すと、息を吸った。


「やばい!」


 衝撃波が来る!

 ――と思ったが、シンオーガはいきなり大きくよろめいた。何もない方向に向かってめちゃくちゃに腕を振るう。


「な、何が起きたんだ?」


 周囲を見回して、ライマルは気づいた。アネットが左手をシンオーガに向けている。


「アネットさん、何を!?」

「ふふっ、さっそく役に立ったな――〈暗闇〉のスキルが」

「あっ――」


 ゴウマから手に入れた宝珠! やはりあの魔物と同じように、相手の視界を奪う能力をアネットは宿していたのだ!


「今のシンオーガに迎撃は不可能! やってくれ!」

「はい!」


 アネットの声にライマルは応える。

 もう一度姿勢を作り、ジャンプ。スキルの力で超加速して飛び出す。


「飛ばすぞ――颶風タイフーン!!!」


 空中で、ライマルは一気に速度を上げた。リーシャの風魔法を背中に受け、まさに砲弾のごとき勢いでシンオーガに迫る。

 が、軌道が悪い。夜の闇で目測を誤った。


 この角度じゃかするだけで終わる……!


 そう思った瞬間、リーシャの風がライマルの軌道を変化させた。ライマルはわずかに左を向き、シンオーガの首の正面に完璧に入っている。


 ――当たる!


「食らえええええええええッッ!!!」


 ドン、と激突して、シンオーガがかすれた声を上げた。鋼化により砲弾となったライマルは、最高威力の頭突きでシンオーガの首を打ち抜いたのだ。皮が巻き込まれ、かなり深いところまで入った感触があった。


 シンオーガは後退し、ねじれるように倒れる。

 ライマルは跳ね返って落下しながら叫ぶ。


「ダイナさん、とどめを――!」

「おう!」


 ダイナがバトルアックスを構えて突っ込む。シンオーガは横向きに倒れたまま口を開いた。魔力の弾丸――それも、さっきより大きなかたまりを大量に吐き出す。


 ダイナは体の表面に魔力を纏わせ、無効化する。走る足は止まらない。

 だが、その後方は?

 飛んでいく弾丸の軌道上にはリーシャとロゼがいる。リーシャは反応しているがロゼが間に合わない。抱えて逃げるには時間が足りない。


 食らう――かに思えたが、回避された。


「ガーケル……」


 鋼化を使ったガーケルが二人の前に立ったことで、弾丸を受け止めたのだった。


「勝手に盛り上がってんじゃねえよ」


 ライマルは自然と笑顔になった。


「ぶった切るぜぇ!!!」


 ダイナが最上段にバトルアックスを振りかぶった。あの一撃、夢にまで見た鮮烈な一撃が放たれる!

 バトルアックスの刃が倒れているシンオーガの首に叩きつけられる。


 胴体と首が分かたれた。

 シンオーガの首が跳ねて、転がっていく。切断面からもうもうと瘴気があふれ出しているが、ダイナは武器を構えたまま敵の反撃に備えている。


 それも、数分経ったところで解かれた。

 ダイナがバトルアックスを地面に突き刺し、こちらに向かって右手を挙げた。


「勝った……」


 それを、ライマルはぽけーっとして見つめていた。

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