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33話 死力を尽くす

「お前ら……」


 ライマルとリーシャを見て、ガーケルが呆然とつぶやいている。


「久しぶりだねガーケル。うまくやってるの?」


 ガーケルは返事をせず、舌打ちをした。


「本当に一緒に行動してるのか。ライマルのどこがいいんだ」

「なんだろうね。それより戦おうよ」

「……ふん」


 ガーケルが大剣を持ち上げた。

 軍人たちによる魔法攻撃が次々とシンオーガを襲っている。それを振り払いながら魔物は起き上がった。息を吸う動作。


「リーシャ、僕のうしろに!」

「うん!」


 彼女が隠れた瞬間、シンオーガが吼えて衝撃波が来た。ライマルは鋼化と重量化を使い、体勢を低くすることでリーシャを守る。軍人たちも一斉に距離を置いた。巻き込まれた者はいない。


 シンオーガが再び走り出す。軍人たちの方だ。腕を振るうかと思いきや、走りながらの火炎放射。予想外の攻撃に何人かが直撃を食らう。


 少し離れた場所にも久しぶりの顔があった。ケインがロゼを背負ってシンオーガから離れようとしている。それを見逃してくれる魔物ではない。今度はブレスによる攻撃。猛烈な吐息に細かい玉が乗っている。


「魔力のかたまりだ。危ないぞ!」


 背負われたままのロゼが杖を向けた。


颶風タイフーン!」


 暴風が起こり、シンオーガのブレスと激突する。魔力の弾丸は勢いを失って消滅していく。魔法を使い続けるロゼは歯を食いしばっている。ケインは必死で走り、ブレス圏外に逃れようとする。


「行こう!」

「よしきた!」


 二人で走り出す。


「ああいう魔物は部位の隙間が弱点だから、うまく狙って攻撃しなきゃ効かないと思うんだ」

「僕が隙を作る。攻撃はリーシャに任せるよ」


 走ってきたケインたちと合流する。


「あっ、ライマルとリーシャ!? なんでここに!?」

「見かけたから協力に来たんだ」

「注意が必要。普通じゃない」


 ロゼがいつになく厳しい口調で忠告してくる。


「わかってる。二人はいったん離れて」


 ケインはうなずき、ロゼを背負ったままさらに後退する。

 ライマルはスキルを発動して突撃する。シンオーガが右手でなぎ払ってくるが、重量化を最大限に活用して受け止める。怪力も加えて押し返そうとするが、シンオーガの腕力が上だ。だんだん押されていき、ライマルは吹っ飛ばされた。


 シンオーガはライマルを追いかけようとする。そこに静かな動きで割って入るのはリーシャだ。跳び上がって刺突を放つ。正確な突きは、シンオーガの右手――小指の爪の間に入る。シンオーガは吼えて、でたらめに腕を振るった。リーシャは身軽に回避して距離を取る。


「まともに通った攻撃が数回しかない。このままでは固定化がどんどん進んでしまうぞ……」


 隊長が呻くように言う。召喚獣の存在がこの世界に固定化されるまでの「揺らぎ」の概念はライマルも知っていた。まだシンオーガは完全ではないのだ。


「あの!」

「ん、君はあとから来た冒険者だな」

「ライマルと言います。奴の顔は比較的守りが薄いと思われます! 攻撃するならそこに!」

「わかった」


 隊長は冷静に答えた。


「すまないな。我々軍人は敵国の魔法使いと戦うことを仕事にしている。時には召喚獣と戦うこともあるが、シンオーガは経験にない」

「僕たちだって初めてです。みんなで力を合わせて倒しましょう」

「うむ。私はヴァルタゴ軍第一〇八魔法小隊の隊長、サムトだ。力を貸してくれ」

「任せてください」


 ライマルはシンオーガの正面から近づいていく。今度は走らず、攻撃を受ける前提で進む。

 シンオーガは右の手のひらを広げ、叩きつけてきた。


「ぐぬっ……!」


 ライマルは両手を掲げ、受ける。下は硬い岩場のはずだが、砕けて足が地面にめり込む。


 ――そうだ、ジャンプ力を使えばいい!


 思いついたライマルは、ジャンプ力のスキルを発動した。膝を曲げ、飛び上がる。相手の手のひらを一気に押し返し、宙に舞い上がった。手を強引に振り払われたせいでシンオーガが体勢を崩す。


 リーシャがすでに飛びかかっていた。剣を構え、左目に突きを入れようとして――


 ゴアアアアアアアアアアアアッッ!!


「きゃあっ!」

「リーシャッ!」


 シンオーガのすさまじい咆哮でリーシャが吹き飛ばされる。着地したライマルは彼女の元へ駆けつけようとするが、相手に一瞬で側面を取られ、やはりなぎ払われた。ライマルは地面を転がってサムト隊長に激突する。二人で折り重なるようにして倒れ込んだ。


「す、すみません……」

「私の反応が遅れただけだ……」


 シンオーガの体から紫色のオーラが噴き上がっていた。炎のように揺らめく魔力が視認できる。


「固定化を許したらしいな……」


 サムト隊長が呻いた。


「でも、顔が弱点なのは間違いありません。攻撃を続けましょう」

「うむ」


 シンオーガがブレスを吐いた。魔力の弾丸が大量に混じっており、それが広範囲にまき散らされる。

 軍人たちは防御するが、吹っ飛ばされたリーシャはまだ体勢を立て直せていない。


「うあっ!」


 弾丸がリーシャの脇腹をかすめた。それだけで、起き上がったリーシャがまた倒される。


「野郎ッ……!」


 ガーケルは鋼化を使い、ケインとロゼをかばっている。

 理不尽なまでの暴力が一帯を穴だらけにした。


「リーシャ!」


 ライマルは駆けつける。


「う、うぅ……死ぬほど痛い……」


 抱え起こすと、リーシャの脇腹が赤く染まっていた。強化付与を施されたはずのブラウスが裂けている。尋常ではない火力だ。


「リーシャ、しっかり」

「任せてくれ!」


 ケインが走ってきて、リーシャの傷口に右手をかざした。


「光よ、加護を」


 光属性の治癒魔法により、リーシャの傷が一瞬で塞がる。


「ごめんねケイン。また頼ることになっちゃった」

「リーシャがいないと勝てないっていうのがわかったから。申し訳ないけど、僕では力になれそうもない」

「気にしないで。わたしたちがなんとかするよ」

「ケイン、ありがとう」

「ライマルも怪我したら僕のところに来るんだ。すぐに治す」

「そうなったらよろしく」


 ライマルとリーシャは立ち上がった。

 この世界に存在を固定した、完全体のシンオーガ。ここからが本当の戦いだ。

 こいつが移動を始めたら、ジノスも危険に晒される。そうなる前に倒す。ライマルは死力を尽くす覚悟だった。

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