3話 毒竜を倒そう
ライマルとリーシャは首都のカフーを出て北上、ヴァルタゴとニージアナ公国の国境付近まで来ていた。
周辺は山と樹海ばかりで、平地が続いていた首都近辺とはまるで雰囲気が違う。
国境近くのジノスはこの近隣でもっとも大きな街だった。冒険者ギルドも存在する。
「ライマル、ドラゴン狩りにいかない?」
「気楽に言うね……」
ジノスで二人組冒険者としてギルドへの登録を済ませた翌日。
ギルドの壁に貼り出された大量の依頼書の中から、リーシャが一枚を選び出す。
「廃坑に毒竜が棲み着いてて、近くを通るだけで体調を崩す人が続出してるんだって。報酬めちゃめちゃおいしいよ」
「でも、毒竜だよ? 危険度SSだよ?」
討伐依頼につけられている魔物の危険度ランクは、冒険者と同じくDから始まり、SSSが最大である。Sを超えると引き受ける冒険者が一気に減る。
「ふっふっふ、安心したまえ」
リーシャはポーチから小さな筒を取り出す。中から錠剤が出てきた。
「これは魔物の毒を一定時間無効化してくれる薬なんだ。カフーで買っといたんだけどなかなか出番なくてねー」
ガーケルのパーティでは活躍に応じて報酬の取り分を変えていた。リーシャはいつも多く、冒険に役立ちそうな高い道具を次々に買い込んでいた。それがここで活きてくるわけだ。
「じゃあ、それを飲んで速攻で勝負を決めるってことだね?」
「そういうこと! 廃坑の地図も見たけど、中はそんなに複雑な造りじゃない。一気に駆け抜けて一気にぶっ飛ばす」
「が、頑張ろう」
「緊張しなくても平気だよ?」
「わっ」
リーシャがにんまり笑って、人差し指でライマルの額を突いた。
「わたしは強いんだから。ドラゴン一匹くらい、どうってことないよ」
☆
二人は馬車で目的の廃坑近くまでやってきた。
ゴツゴツの外壁を持つ廃坑は、斜面の上にあった。
「う……嫌な臭いがするな」
「ここまで毒があふれ出してるみたいだね。ライマル、飲んで」
「わかった」
二人で錠剤をあおって、しばらく待った。だんだん、奇妙な臭いが気にならなくなってきた。
「よーし、効いてきたぞ~」
リーシャは剣を抜いた。彼女の相棒は青色の刀身で、両刃のシンプルな形をしている。
ライマルも一応短剣を持っているが、彼の役割はあくまでリーシャを敵の攻撃から守ること。無理に攻撃には参加しない。
「行こう。突入!」
「りょ、了解っ!」
走り出したリーシャに慌ててついていく。彼女はライマルに合わせてくれているらしく、置いていかれることはない。そこに優しさを感じる。
廃坑は土壁が剥き出しで、天井には魔導電球がぶら下がったままになっている。
リーシャは地図を頭に入れているのか、迷いなく坑道を進んでいく。
……いつもなら前に四人いるのにな。
ライマルはさみしさを感じた。
「近い。いるね」
リーシャが止まった。
坑道は左右に分かれており、リーシャは右を選んだ。狭い道を進むと、だんだん明るさが増してくる。どこかから陽の光が差し込んでいるのがわかった。そして、もうもうと瘴気が立ちこめていることも。小型の魔物がまったく見当たらないのは、ドラゴンの放つ毒に耐えられないからだろう。
坑道が切れて、開けた空間が現れる。
その入り口で、リーシャは片膝をつく。ライマルは彼女の頭の上から、空間の様子をうかがった。
「あいつか……」
ホールは円形に広く、天井には穴が開いている。そこから陽光が落ちてきているのだ。
その奥に、紫色の鱗に覆われたドラゴンが丸くなっていた。昼寝でもしているのだろうか。ゆっくり体が上下している。
体表はのっぺりしていて、ところどころに子供の拳程度の穴が開いている。
「あの穴から毒を噴き出すんだろうね。直撃を受けたら、さすがの薬も効果が弱まると思う。気をつけよう」
「よ、よし」
「寝てるあいだに首をいただきたいけど、わたしの腕力じゃ一刀両断は無理なんだよなあ」
「先手を打って、少しでも弱らせた状態で戦うしかないかな」
「そうだね」
二人は慎重にホールへ入った。