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29話 子供の頃の夢

 ライマルには繰り返し見る夢がある。

 幼かった頃、迷い込んだ森で冒険者に助けてもらった時の夢だ。


 狼の魔物・フォグウルフ二匹によって追い立てられたライマルは、大木に背中を当てて震えるしかなかった。


 野ウサギを追いかけて森深くまで入り込んだ。そのせいで取り返しのつかない事態に巻き込まれてしまった。後悔しても遅い。


 僕は殺されるんだ――。


 諦めた時、横から影が走ってきた。長いバトルアックスを振るって、その男はフォグウルフの一匹を脳天から叩き割った。もう一匹は戸惑ったようにライマルに突っ込んできた。そこに盾を持った男も現れ、横合いから殴りつけた。


 バトルアックスの男がライマルの前に立った。たくましい背中。堂々たる立ち姿。こんな状況にも関わらず、ライマルは見とれた。


 かっこいい……!


 フォグウルフが突進してくる。盾の男が防ぎ、相手をよろめかせると、バトルアックスの男が一撃でとどめを刺した。


 盾の男も強かったが、戦斧を操る男の力量は圧倒的だった。それは、戦った経験のないライマルにすら伝わってきた。


 ――おいおい、子供が一人でこんなとこ来ちゃ駄目だぜ。


 バトルアックスの男は朗らかに笑って、ライマルを担いでくれた。

 そのままライマルは村へ送り届けられた。


 あの日、ライマルは冒険者になることを決意した。

 ライマルが助けてもらったように、今度は自分が誰かを助ける。ちょっと前までなら夢物語だった。けれど今のライマルは違う。人を助けられるだけの力を得た。


 あの日の夢を見るたびに感じていた無力感はもうない。

 目を開けた時、ライマルはむしろ前向きな気持ちになっている。


     †


 ゴウマを討伐した翌朝、ライマルは久しぶりに寝坊した。

 もうかなり日が高くなっており、気温も上がっている。

 ヴァルタゴは一年を通して温暖な気候の国だ。起きて寒さを感じることはあまりない。


「思ったより疲れてたのかな」


 ライマルはベッドから出て着替える。

 いつもの夢を見た。昨日助けた兄弟に、自分はどう映っただろう。あのバトルアックスの男と同じように、頼もしく見えていたなら嬉しいけれど。

 廊下に出てみたが誰もいない。下の広間も見たが、リーシャの姿はなかった。


 ……まず、体を洗おう。


 朝の決め事だ。ライマルは浴場へ行き、体の汗を流した。

 体型に自信が持てないだけに、せめて清潔感だけは大切にしようと心がけていた。寝ている間の汗をしっかり洗って風呂を出る。

 二階へ上がると、ちょうどリーシャが部屋から出てきた。


「おはようライマル。寝てるのかなって思ったから声はかけなかったよ」

「ゆっくりしすぎた。本当ならもっと早く起きるつもりだったんだけど」

「昨日はあれだけ戦ったからね。ライマルだってたまにはダラダラしていいんだよ?」

「充分させてもらったよ」

「わたしが言ってるのは一日中ゴロゴロするってことなんだけどなあ」

「昔はそういう日もあったけど、今は動きたくて仕方ないんだ。今日はもったいないことをしたな」

「まあまあ。お昼食べたらギルドに行ってみよう? 昨日の報酬がもらえるかもしれないし」

「わかった。じゃあ下で待ってて」

「りょーかい」


 いったん部屋に戻り、身だしなみを整える。シャツを着て、ベストを羽織り、ズボンのベルトをきつめに締める。

「よし」


 頬を叩いて気合いを入れ、ライマルは部屋を出た。

 一階の広間で遅すぎる朝食を取ると、二人はギルドに出発した。

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