23話 リーシャの復帰戦
二日後。
ライマルとリーシャはギルドにやってきた。
リーシャは医者の言いつけを守ってしっかり回復に努め、今日から活動再開を許されたのだ。
「よーし、魔物をぶちのめすぞー」
早くもやる気に満ちているが、二人にぴったりの依頼があるかどうか。
ギルドに入ると、さっそく周りの冒険者たちから声をかけられる。みんな親しげなのがありがたい。
壁にたくさん貼り出されている依頼書を一つずつ見ていく。
「ドラゴンもあるし虎や鳥もあるねえ。ライマルのおかげで飛行する相手とも戦えるけど、空中戦は自信ある?」
「まだわからないな。でも鋼化があればだいたいの敵とは戦えるはずだよ」
「うーん……」
迷っていると、横から「失礼」と他の冒険者がやってきて依頼書をはがしていく。
「考えてるあいだにみんな持っていかれちゃうよ。リーシャはどれに行きたい?」
「待って、今回は堅実に行くって決めてるんだから、慎重に……」
勢いよく扉が開き、三十代半ばくらいの婦人が飛び込んできた。
「子供が魔物にさらわれたんです! 誰か奴を追いかけていただけないでしょうか!?」
応対したのはシーナだった。
「魔物の種類はわかりますか?」
「相手は濁った白の体をしていて、小さな羽があって、角が一本生えていました。あと、指がすごく長かったはずですわ……」
「それはおそらくゴウマという闇の魔物ですね。危険度はSランク。非常事態なのはお察ししますが、依頼には報酬金を用意していただく必要がございます」
「ええ……七百万シロンまでなら出せます……」
ざわっと周りがいろめき立った。
「Sランクの討伐依頼としては妥当かと思われます。では、どなたか受けてくださる方はいらっしゃいますか?」
シーナが声をかけるが、すぐに返事をした者はいなかった。
七百万シロンは大金だが、相手が危険だ。
闇属性を持つ魔物は、基本的に攻撃が陰湿だ。加えて立ち回りも上手く、苦戦を強いられることは必至。低級であれば並の冒険者でも倒せるが、Sランクとなると話は変わってくる。そのため、みんな考えているのだ。
「お願いします……護衛の冒険者を雇っていたのですが倒されてしまいました。わたくしは必死で街外れの森から走ってきました……まだ間に合うかもしれないと信じて……」
婦人は泣きながら言う。
その声に応じたのはリーシャだった。一歩踏み出し、婦人の前に立つ。
「ゴウマが逃げていった方向はわかりますか?」
「ええ。東の森――樹林の道の上の方です。あいつはゴアベアーとうまく縄張りを分けていると聞きました」
「ゴアベアーに邪魔されない。相手はSランクだけど、今度は一匹……」
リーシャはライマルを見た。浮かれた表情ではない。行けるか、と訊かれているようだった。
「やろう」
ライマルが言うと、リーシャはうなずいた。思うように予定を守れないが、これは非常事態なのだ。行ける人が助けに行かなければならない。
「じゃあ、わたしたちが引き受けます。できる限り頑張るので、待っててください」
「あ、ありがとうございます……!」
婦人が何度も頭を下げた。シーナはすでに書類の作成にかかっている。高速でペンを動かし、白紙を見事な手さばきで埋めていく。
「緊急の依頼につき、手続きはすべて事後に回します。報酬金に関しては確定の印をついていただきますので、ライマルさんたちはもう動いてもらってかまいません」
「わかりました。行こう、リーシャ」
「了解」
二人は勢いよくギルドを飛び出した。
隣接して建っている馬車組合のドアを開けると、目的地を告げてすぐ出してくれるよう頼む。
「私が行きましょう」
中には御者が四人ほど待機していたが、立ち上がったのはゴアベアーの時にお世話になった男だった。
すぐに馬車が用意され、二人は乗り込む。
「そういや自己紹介がまだでしたな。私は御者を十年やってます、タムという者です。今後も使ってもらえたら嬉しいですなあ」
ライマルは「ぜひ」と簡潔に答えた。
馬車が動き出す。ライマルとリーシャは向き合っていた。そこにはもう、軽い雰囲気などまるで存在しない。
「ライマル、これは仕方ないよね?」
「もちろん。ゴウマは強いかもしれないけど、誰も手を挙げなかったんだ。僕たちがやるしかない」
「またきつい戦いになるかもしれない。今度は最後まで立っていられるように頑張るから」
「あんまり気負わなくていいよ。僕のことはどんどん盾にしてくれていい」
「ライマルを痛い目には遭わせたくないから、回避に戦力を尽くすよ」
「気にしなくていいのにな」
「駄目駄目。もしもライマルが傷ついたら悲しいから」
鋼化で防いでいるとはいえ、ライマルはいつも直撃を受けている。リーシャはそれ自体が見ていて気になるのだろう。
どっしりした姿を見せて安心させたい。ライマルはそう思った。




