2話 仲間はいてくれた
「はあ……」
ライマルは重いため息をついて通りを歩いていた。
空は快晴なのに、気分はどんよりしている。
……僕はまともに武器が振るえないんだ。どこに行ったって……。
相手の正面に入る。〈鋼化〉と〈重量化〉を同時発動する。皮膚が硬くなり、体重が跳ね上がるため、攻撃を受け止めても吹っ飛ばされなくなる。そこまでの段階がしっかり踏めれば、ライマルは絶対に仲間を守れる。
ライマルのどっしりした体は〈鋼化〉と〈重量化〉が合わさってすさまじい強度を作り出す。
問題は、敵の攻撃が必ずしもライマルの正面を突いてくれるわけではないことだ。昨日のように、少し離れた場所で味方が攻撃を受けると、鈍足のライマルではほぼ間に合わない。
腕力は人並みなので、剣を振って前衛に立つのも難しい。魔法が使えない、弓も向いていないとなると後衛も駄目。だからライマルは、味方の盾となるのが一番自分に向いていると思った。冒険者になろうと決めた時、それで食っていこうと思ったのだ。
「どうしよう……」
ライマルは完全に気力を失っていた。この先の身の振り方がわからない――。
「……ーい、おーい!」
「……え?」
誰かに呼ばれている気がする。
ライマルは振り返った。
「あ、リーシャ……」
リーシャが金髪とロングコートをなびかせて駆け寄ってくる。
ライマルに追いつくと、「ふぅ」と呼吸を整えた。
「ガーケルから話は聞いたよ」
「そっか。今までありがとう、リーシャ」
「あっさりしすぎ!」
リーシャが怒ったように言う。
「ガーケルの奴、ひどいよ! 確かにライマルは鈍足だし鋼化が活かせてない面もある」
「だから駄目なんだよ……」
「でも、ライマルは裏方もしっかりやってくれたじゃん! みんなの荷物を一人で運んでくれたし、魔物の素材の運搬だって積極的にやってくれた! 知らない街に行けば宿の予約だって取ってくれたし、食料の準備だって……」
「リ、リーシャ、落ち着いて……」
リーシャはブンブンと首を横に振る。
「わたしたちが心置きなく戦えるのはライマルが下から支えてくれてたから! なんでいつもすんなりクエストに出発できたと思う? それはあなたが誰よりも早く起きて準備してくれたからでしょ!」
「そ、それしか僕にはできないんだよ。戦闘じゃ足引っ張るから……」
「あーもう、そういうとこだよライマル!」
「な、なんで怒ってるの!?」
「すぐ自分が悪いと思い込むのはあなたの悪い癖! ライマルには魅力がいっぱいあるんだから、もっと堂々としててほしいの!」
「そ、そう言われても……」
道端の誰かが「ごほん」とわざとらしく咳払いをした。リーシャはハッとしたように怒りの表情を消し去った。
「わたしとしたことが、熱くなりすぎちゃった」
「リーシャがそこまで褒めてくれて嬉しかったよ。じゃあ、また――」
「待てい!」
歩き出そうとしたら、右手をがしっと掴まれた。
「ガーケルを説き伏せるのは無理だった。だから、わたしが折れることにしたんだ」
「……どういう意味?」
リーシャはニコッと笑った。
「わたしもパーティ、抜けてきちゃった」
「え、えええええええっ!?」
また誰かに咳払いされる。
ライマルはリーシャを引っ張って、狭い路地に入る。
「やん、ライマルってば大胆」
「ちょっ、パーティを抜けた!? 本当なの!?」
「ほんとーだよ。わたし、意見の合わない人とは一緒にいられないもん。それにガーケルがいればケインとロゼもすぐ成長するでしょ。穴はそんな大きくならないと思うよ」
「な、なるって! 僕らはパーティ単位でAランクって評価だったけど、リーシャが抜けたらCランクまで下がってもおかしくないってギルドの人だって言ってたからね!?」
「あ、そうなの? じゃあガーケルも困ってるかもね~」
にへっと笑うリーシャはまったく後悔していなさそうだ。
冒険者ギルドは階級制になっていて、Dランクが一番下、最上級はSSSとなっている。
「ともかく、ガーケルの首は縦に振らせたんだよ。だからわたしは何してもいいってわけ。好きなようにやらせてもらうから」
「……まあ、リーシャの腕ならどこのパーティでも大歓迎だろうけど」
昨日も、四人で炎竜二匹と戦っていられたのは、森の中を追跡してくる小型の魔物をリーシャが一人で引き受けてくれたからだ。しかも、当然のように全滅させて戦いに加わってくれた。正直、リーシャはガーケルよりも強いとライマルは思っている。
「ライマルはこれからどうするの?」
「特に考えてないかな。家族の反対を振り切って冒険者になったから、今さら家には帰れないし……」
「冒険者、続ける?」
「一応、そのつもり」
「じゃ、わたしと組まない?」
「え?」
リーシャが右手を伸ばしてきた。
「わたしたち二人で新しいタッグを組むんだよ。ライマルはわたしだけ守ってくれればいい。戦いはわたしがやる。それで、きっとやっていけると思うんだよね」
「そ、そんな。リーシャほどの人が僕なんかと――」
「てーいっ!」
ドスッ!
「いてえっ!」
リーシャのチョップがライマルの頭に入ったのだった。
「このわたしが認めてるんだからライマルも自己評価を改めなさい! あなたはできる子! わたしと一緒に来て! どうしても嫌だって言うなら「わかった」って言うまで追いかけ回してやるから!」
「きょ、拒否権は……」
「ないっ!」
リーシャは腕を組んでライマルの返事を待っている。
こうしてあらためて見ると、彼女は小柄だ。ライマルは同年代の男どもより背が低いので、身長は同じくらい。だから、自然と目線が合う。
リーシャは腕だってそんなに太くはないし、体の線はスラッとしている。ロングコートのせいでわかりにくいけど、起伏もはっきりしている。
こんな燦然と輝く美少女で、剣士で、しかも魔法まで使えてしまう相手と二人で組む。いいのだろうか。
……でも、こんなに熱心に誘ってくれてるんだ。
「僕が横に立ってても、いいの?」
おずおずと訊くと、リーシャは今日一番の笑顔で答えた。
「もちろん!」
「じゃあ……あらためて、よろしく」
「こちらこそ! 一緒に頑張って、あいつら見返してやろうね、ライマル!」
二人は握手を交わし、笑い合った。久しぶりにちゃんと笑えた気がしたライマルであった。