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19話 気まずい空気

 それからまた食べ歩きをしていたら夕方になった。まぶしい夕焼けに街が赤く染め上げられている。


「わたし、ごく個人的な買い物に行くつもりなんだけど、ライマルもついてくる?」

「うん、ついていくよ。どこ?」

「行けばわかるよ」


 リーシャに先導してもらい、ライマルは街中を歩いた。あちこちに看板があるので、リーシャはそれを見ながら進んでいく。


「ここだ」


 市庁舎に続く坂を上り、途中で右手に下っていくと目的の店があった。リーシャが迷わず入っていくので、ライマルもくっついて入り――硬直した。


 ……し、下着のお店じゃないか!


 ライマルは焦り、思わず外に飛び出した。


「入らないの? 男用もあるよ?」

「ぼ、僕は大丈夫。ここで待ってるよ」

「ふ~ん」


 リーシャがニヤニヤして中に引き返していく。ライマルは店の壁に背中を預けてしばらく待った。


 ……なんだか、前より遊ばれてないか?


 ガーケルのパーティにいた頃は、リーシャとそこまで近づいたりもしなかった。今は二人きりだから自然と距離も近くなっている。そのせいで服を脱がせたり、うっかり見てはいけないものを見てしまったりしている。


 ライマルは女性と普通に話せるけれど、きわどい状況になるとすぐ動揺する。そもそも女性の素肌なんて自分には一生縁のないものだと思っていた。それがここに来て急に、リーシャのあれやこれやを目撃している。ライマルには刺激が強すぎた。


 ……リーシャ、自分で話を振ってくるわりには照れちゃうんだよな……。


 気まずい空気になるのはその影響だ。無害だと思われているからこそからかってくるのだろうが、リーシャ本人にあまり耐性がないのがよろしくない。

 ため息をついて、地面をぼけーっと見つめる。

 店のドアが開いて、リーシャが出てきた。


「お待たせ~」

「目的のものは買えた?」

「ばっちり。昨日の戦いで血がついちゃったから、そっちも替えなきゃと思ってね。ほら、急にカフーを出たから着替えとか用意できてなくてさ」

「そっか……ん?」


 ライマルは思わずリーシャの胸元を見た。意外にあるのだが、ブラウスの上からだと主張が少ない。


「もしかして今日、何もつけないで歩いてた……?」

「…………てへへ」


 リーシャがほっぺをポリポリと指でかく。ライマルは悶絶しそうになった。


「もうつけてるから平気だよ。お店の中でやってもらったから」

「そ、そう……。よかった」

「…………」

「…………」


 さっそく気まずい空気が登場した。二人はしばらく黙り込んだ。


「……行こっか」

「そ、そうだね」


 やがてリーシャが先に言い、歩き出した。ライマルもあとに続く。


「二人で冒険者やるなら服の替えがたくさんないと駄目だね。五人の時は気にならなかったけど、こんなに早く次のが必要になるとは」

「大勢だと敵の狙いも分散するからね。特にガーケルのパーティは前衛三人だったし」

「ガーケルが一番大きいせいか狙われやすかったんだよね。おかげでわたしが死角から攻撃できたりして……でも、今はわたしが前に立たなきゃいけないんだ」

「僕はガーケルみたいにはできないからなあ」

「何もかも違うんだもん。どっちが上とか気にしちゃ駄目だよ」


 リーシャの気づかいを、ライマルは嬉しく思った。


「そういえば、ダイナさんが必要なら依頼を手伝ってくれるって言ってたよ」

「あの人が? 経験者なのはわかるんだけど詳しく知らないよね。武器とかスキルとか」


 ダイナが戦っているところは見たことがない。扱う武器も知らない。わかっているのは鑑定のスキルを持っていることだけ。


 昨日、ダイナが来た時に武器を確認しておけばよかったとライマルは後悔する。リーシャのことで頭がいっぱいで、ダイナを見る暇がなかった。馬車の中は暗くてよく見えなかったし、街についてからは即病院へ走ったのでダイナとはいったん別れている。


「あの人、なかなか大柄だったよね。やっぱり大剣とか使うのかな?」

「僕がちゃんと見ておけば……」

「まあまあ。次にSランクの依頼に行く時は声をかけてもいいかもね。いろいろ知るのはその時ってことで」


 ライマルはうなずいた。ダイナは、ゴアベアー二匹の相手はきついと言っていた。逆に言えば、一匹なら単独でも倒せるということなのだろう。二十年も冒険者をやっているだけあってランクは高そうだ。


 二人はギルドへ向かい、ゴアベアー討伐が確認されたことを聞いた。報酬金がその場で支払われたので、受け取って建物を出る。シーナは担当の時間ではなかったのか、受付にいなかった。


「荷物置いて、ご飯に行こう!」

「そうだね」


 二人は銀鎧亭に向かった。

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