17話 それぞれの立場で
「よう、おめーらまた派手にやったらしいな!」
「俺もお前くらい強かったらなあ」
「一度くらいSランクの魔物を倒してみたいぜー」
ゴアベアーを倒した報告のためギルドを訪れると、ライマルは他の冒険者たちから声をかけられた。
初めて登録に来た日は好奇の目で見られたものだが、彼らの態度には早くも親しみが生まれている。ライマルは「これからも頑張ります」と控えめに答えておいた。
受付にはシーナが立っていた。たまに違う受付嬢も見かけるが、ライマルが行く時はいつもシーナだ。彼女だと話が早くて助かる。
「おはようございます。これ、昨日のゴアベアー討伐証明です」
ライマルは挨拶してから、ゴアベアーの爪と毛の束を提出した。
「もう完遂されたのですね。本当に素晴らしい……」
いつもの言い方に聞こえるが、表情はかなり明るい。
「リーシャさんはご一緒ではないのですか?」
「怪我をしてしまいまして、病院で休んでいます」
「そうでしたか。とても危険な依頼だったので無理もないことです。……ですが、ご無事で本当によかった」
しみじみとした口調だ。
「登録して日が浅いうちからSランクの魔物を倒してしまう冒険者の方はまれに現れます。私も何人か、そうしたパーティを担当しました。しかし、もう誰も生き残っておりません」
「そう、なんですか」
「功績を挙げることに必死になってしまうのでしょうか。次々と戦死の報告が流れてきて……」
シーナは目を伏せて静かにしゃべる。
「このギルドでは、Dランクの方がSランクの魔物討伐に向かうことを止めません。私たちはあくまで仕事の斡旋をしているのであり、生死の責任は各々が自分で持つ。そのように伝えています」
「確かに、僕たちも止められませんでしたね」
「私としては引き留めたい方もいらっしゃるのですが、仕事は仕事です。依頼の手続きは行います。ですが、死亡報告を受けるのはつらいことです」
ライマルの目をまっすぐに見つめて、シーナは言う。
「ですからライマルさん、あなた方はどうか無理をしないでください。こんなことを申し上げるのは職務上よろしくないのですが……お二人には死んでほしくない」
「ありがとうございます。リーシャとも、じっくり成長していこうと話し合ったところです。やみくもにSランクの魔物に挑むことは、しばらくないと思います」
それを聞くと、シーナがホッとした顔になった。冷静沈着といった顔つきの女性だが、とても温かい人のようだった。
「では、討伐の確認班を向かわせます。報酬の支払いは夕刻以降になると思いますが」
「わかりました。また来ます」
いろんな人がそれぞれの立場で冒険と冒険者に関わっているのだ。それをあらためて感じたライマルだった。
†
「お医者さん、昼までは寝てなきゃ駄目だって」
「しょうがないよ。あれだけの怪我だったんだから」
坂の上の病院に行くと、リーシャは朝食を終えて体を起こしていた。室内には爽やかな風が吹き込んできて心地いい。
「早くライマルと街歩きしたいなぁ。もう傷は消えたんだし退院してもいいと思うんだけど?」
「だ、駄目だって。失った血は休まないと取り戻せないって先生が言ってた。まだリーシャは危ない状態なんだよ」
「もう充分寝たよ。わたし元気!」
「そんな気がするだけだって」
「むっ、ライマルがなんか冷たい」
「僕はリーシャのことが心配なんだ。だって、目の前であんな攻撃食らうのを見せられたらさ……」
「う……それはまあ、不安にさせてごめんなさいだけど」
リーシャは体を傾けて、両手をベッドに突いた。
「ほら、こうやって体を支えても痛くないよ。もう大丈夫だから」
「昼までは動かないの」
「う~、ライマルのいじわる」
「いじわるで言ってるわけじゃ……」
言いかけて、ライマルは固まった。
リーシャが上半身を反らせているせいで、胸元がかなりきわどいことになっていた。病院のローブを着ているので、胸元がいつもより開けているのだ。そして昨日は夜だったからわからなかったが、今は明るいせいではっきり見える。そこには確かな谷間が――
――って、下着つけてない!?
おそらく血で汚れたから外してあるのだろう。
つまりローブの下には邪魔するものが何もない!
「ライマル?」
リーシャが不思議そうな顔をしたあと、何気なく下を見た。
「ああっ!?」
気づいた。リーシャはローブの胸元をものすごい速さで隠すと、横になって毛布をかぶった。
「み、見た?」
「危ないところだった……」
「ちょっとは見えたってこと!?」
「申し訳ない」
「う、うあぁ……」
毛布の中でリーシャがぷるぷる震えている。いつも思うのだが、この少女は無防備な面が多すぎる。
「おとなしく寝てます……」
「うん、それがいいよ。ここでは何もなかったことにしておこう」
「そ、そうだね。わたしたちは普通に話しただけ」
「うんうん」
「何も起きてない。何も起きてない……」
自分に言い聞かせているリーシャだったが、その声はさっきより弱々しかった。