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1話 太っちょ冒険者、追放される

 炎竜(えんりゅう)が一匹ならともかく、二匹いるとなると戦闘は激しくなる。

 深い森の奥。円形に開けた場所で戦いが繰り広げられていた。

 パーティのリーダー、ガーケルが大剣を振り下ろして一匹の脳天を叩き割る。


「よっしゃあ! まず一匹!」


 ガーケルが喜びの声を上げた瞬間、残っていた炎竜がブレスを放射した。


「しまっ――」

「させるかああああああああ!!!」


 絶叫したのはライマルである。


 ドスドスドスと走っていって、ガーケルと炎竜のあいだに割って入る――


「ぐああああああっ」


 しかし、わずかに遅かった。

 ガーケルは火炎を食らって吹っ飛ばされた。


「ご、ごめん……」


 また間に合わなかった。

 ライマルは苦悶の表情を浮かべる。

 彼の悩みは足の遅さ、敏捷性のなさにある。

 そのせいで味方を守り切れなかったことは一体何度あっただろう。


 なぜ俊敏に動けないのだ。なぜ、いつも味方を助けられないんだ――。

 そんな問いの答えは彼自身が一番よくわかっている。

 デブなのである。

 肥満まではいかずとも、ライマルは明らかに周りより横に大きい。


「ガーケル、大丈夫!?」

「んなわけあるかっ! くそっ、またこんな……」


 ガーケルが悔しそうに火傷した頬を押さえる。


「ガーケルさんがいないと戦力が……」

「火力不足」


 二匹目の炎竜の近くにいた男女がそれぞれに呻く。

 槍使いのケインと、黒魔法使いのロゼ。

 二人は炎竜の足止めで精一杯になっていた。


「追いついた~!!」


 その時、木々の隙間から女の子が走って飛び出してきた。

 白いシャツに黒いスカート、茶色のロングコートを身に纏った少女は両刃の剣を右手に持っている。


「わたしに任せなさいっ!」


 少女は長い金髪を踊らせて跳んだ。すさまじい飛距離で炎竜の喉に迫る。あまりに速い動き。ドラゴンもとっさの反撃ができない。


「はあっ!」


 少女の剣がドラゴンの喉を突いた。

 炎竜は狂ったように暴れ始める。少女は剣を握りしめ、ばたつく炎竜にしがみつく。


「よし、あとは任せな」


 ライマルが呆然と見ていると、大剣をかついだガーケルが横を通り過ぎていった。

 ちょうど、ドラゴンが横向きに倒れる。


「リーシャ、俺がやる!」

「はーい」


 リーシャと呼ばれた少女が着地して避ける。

 ガーケルは走りながら剣を振り上げ、炎竜の首を両断した。


「やった!」


 リーシャが嬉しそうにジャンプする。ケインとロゼもホッとしたように息を吐いた。


「さて、あとはこいつが当たりかどうかだ」


 ガーケルは大剣を置くと、小さな刃物を出した。


「ロゼ、鱗を溶かせ」

「ん。……炎よ」


 ロゼは木でできた杖を竜の腹にかざした。先端から炎の玉が生まれ、竜の腹を溶かしていく。

 表面が柔らかくなると、ガーケルは刃物で内臓を次々に取り出していった。


 そして胃の中に、膜で包まれた鈍色の珠が埋もれているのを見つける。

 ガーケルがまん丸の宝珠(ほうじゅ)を握りしめると、彼の全身が一瞬だけ銀色の光に包まれた。


「〈鋼化(こうか)〉のスキルだったぜ。こいつはありがてえ」

「えっ」


 ライマルは思わず反応した。それは自分の持っている特殊能力――スキルと同じ名前。ライマルの持っているスキルを、ガーケルも宿したのだ。


「…………」


 ガーケルはライマルに視線をよこした。しばし、二人は見つめ合う。


「……もう一匹の腹も見たら帰るぞ」


 その声はどこか冷たく聞こえた。


     ☆


「ライマル、お前にはこのパーティを抜けてもらう」


 翌朝。

 ヴァルタゴ王国の首都・カフーの大きな酒場。

 昨日この街に戻ってきてから、ライマルは「話がある」とガーケルに呼び出されていた。

 そして、言われたのが今の言葉だった。


「ぬ、抜けろ……? な、なんで急に」

「今まで、お前の〈鋼化〉と〈重量化〉はいつか役に立つと信じてずっと一緒に行動してきた。だが、実際はどうだ」

「…………」

「お前の動きは鈍すぎるせいで、誰も守れやしない。お前にはこのパーティの「盾」としての役割を期待していたんだ。防御力は認めよう。だが、動きが鈍いのは致命的だ。おかげでケインもロゼも、何度もケガをした」

「…………」

「お前がもっと俊敏に動けていれば受けなかった傷だ。まあケインが治癒魔法を使えるからいいが、ここ一番でもお前は絶対に間に合わなかった」

「……ごめん」


 ライマルは自然と謝っている。


「そして昨日、俺はお前と同じ〈鋼化〉のスキルを手に入れた。体の表面が強化され、敵の攻撃を通さなくなる。お前よりも俊敏な俺が、だ」

「……だから、僕はもういらないってことか」

「ものわかりがよくて助かる。お前がいる以上、俺たちはどこかでお前の防御に期待しちまう。どうせ間に合わないのにな。だから、これからは俺たち四人でやる。俺は剣にも盾にもなれる。お前以上のことができるってわけだ。だったらわかるよな?」

「……わかる」

「素直だな」

「僕がいる方が危険ってことだよね。足を引っ張ってるのはわかってたんだ……」

「他のパーティを当たってみろ。俺たちはなんだかんだギルドのAランクまで上がってきた。下のランクの奴らならお前でもあてにしてくれるかもな」

「……うん」


 ライマルがうなずくと、ガーケルはテーブルの上にあった麻袋をスッと押し出した。


「今後の準備金だけは面倒見てやる」

「……ありがとう」


 ライマルは静かに酒場を出た。

 こうして彼はパーティから抜けることになった。

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