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それから2人の稽古は毎日続いた。


おるうの寺子屋の授業が終わる昼過ぎから日が暮れるまで。


「熱心ですな」


時折、住職が声を掛けてきた。


住職は、おるうや颯太が徳川の人間だと言うコト以外は何も知らない。


もちろん、“華蝶楓月”のコトも知らない。


内心ドキッとしながらもつられ笑いで返した。


その日の暮れ、竜之介が寺に顔を出した。


「竜之介ぇ!」

『お帰り、竜之介』


2人の温かい歓迎に、竜之介は驚きと照れが入り交じり、うつ向いて小声で応えた。


「お、…おう」


『楽しかった?』


颯太もそうだが、おるうも出逢って間もないのに気さくに声を掛けてくれてるコトにかなりの戸惑いを覚える竜之介。


特に颯太は篠矢の屋敷で一晩一緒だったがほとんど会話を交わさなかった。


なのにも関わらず、ほぼ初対面とは思えない程の温かさに動揺を隠せない竜之介だった。


「あ、…ああ。颯太は?また早かったな」


戸惑いながらも2人に合わせるように自分も何気無く努める。


「遠目から見るだけで後は見物して帰って来た。お前はゆっくりしてきたみたいだな。」


「そうなのか!?」


かなり驚く竜之介。


自分は屋敷に招かれ手厚い歓迎を受け、何泊もしてきたと言うのに…。


ただでさえ気弱な面がある竜之介は益々不安になってしまった。


【もしかしてオレ、遅れを取ってる?】


食材を持って帰って来た竜之介の提案でおるうの家で3人で夕飯を摂るコトになった。


そこで3人、改めてお互いのコトを話し合った。


思えば城でさらりと上様や篠矢が話したダケで、3人はお互いのコトを詳しく知らなかった。


「おるうは寺で育って、女子にしては剣に秀でている。颯太は伊賀で育ったから実力は相当なモノ。」


竜之介が一言一言確かめる様に言った。


「竜之介だって道場の倅として育っただろ?実力あるだろ。」


颯太のコトバに何も言えない竜之介。


怪訝な顔になっている。


「いつまでそんな顔してんだよ?オマエ、上様の御前でも同じ顔してたろ」


高笑いした。


恥ずかしくてさらに深くうつ向く竜之介。


縁側に座る2人。


月明かりが2人を照らす。


見かねた颯太は失笑した後、ゆっくりと話し始めた。


「不安なのは自分だけだとでも思ってんのか?」


ハッとして竜之介は顔を上げた。


月を見上げている颯太。


「姫様だってあぁ見えて弱気なコト吐いてたよ。オレだって不安を漏らした。そしたらさぁ、姫様がオレの手を掴んで寺に連れてったんだ。それからだよ、2人で稽古を始めたのは。」


竜之介もまた、その時のおるうと同様にコトバが出なかった。


「アイツにも同じコト言ったけど、先が見えないモノはさぁ、誰だって不安だろ?オレだってアイツだって同じだよ」


いつの間にかいたおるうが続けた。


『アタシさぁ、颯太に言われた後考えたんだ。何で3人なのかって。下手すりゃ忍育ちの颯太1人で良いだろうに、何ゆえ3人なんだって』


おるうは2人の顔を見ながら話した。


『アタシね、2人の足手まといになるんじゃないかってずっと不安だったの。お城ではアンタ達にあんな威勢の良いコト言っといて何言ってんだ?って笑っちゃうだろうけどさぁ。』


颯太はハナで笑った。


おるうもフッと失笑して続ける。


『アタシ1人だけおなごの身でしょ?殿方2人と一緒で何が出来んだろって。でも颯太の口から自分でもどこまで自分の力が通用するか不安だって聞いてさ』


「上様がオレら以外の他にもそのつもりで養子や里子に出したヤツラはいるって言ってただろ?それでもオレらをお呼び下さったってコトは、オレらはそれなりに何かしら認められてのコトなんだろうからさぁ。」


颯太は竜之介に含み笑いを見せて締めた。


『3人な理由があるから3人なんだよ。1人じゃ出来なくても3人なら出来るってコトなんだよ』


おるうも竜之介にとびきりの笑顔を見せた。


「そう言えば、竜之介って年いくつ?」


「・・・十五。」


あっけらかんとしている颯太にヒキながらもボソッと答えた。


『えっ?』

「えっ?」


3人が3人、お互いの顔を見合わせた。


『もしかしてみんな十五?』


目を丸くするおるうに竜之介も颯太も戸惑いながら頷いた。


竜之介の薄笑いにつられ颯太にもおるうにも笑いが起きた。


『よろしくね』

「よろしく」

「よろしく」


3人はお互いをジッと見据えてゆっくりと頷いた。


翌日から3人の稽古が始まった。























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