独りじゃない!
おるうは気を取り直して、“探し物”をする為歩き始めた。
【何が良いんだろう…】
目に付くもの全てを自分の中で選別しながら歩くおるうの鋭い勘が反応した。
瞬時におるうの手は誰かの腕を掴んでいた。
「尋常じゃねぇな」
天太だった。
「てめぇのは分かるのかなと思ってやってみた。背後からでも分かるなんて、何者だよ」
溜め息をつくおるうに、何故か満足そうな天太。
「弟子にしてくれ!」
おるうは面喰らった。
しかも市中でのいきなりの土下座。
おるうの心拍数が急激に上昇する。
同時に急激に赤面。
『恥ずかしいからヤメてよ!』
激しく取り乱すおるうに天太はアタマが地面に付く程に土下座を続けた。
いたたまれなくなりおるうはその場を足早に立ち去った。
【ヤメてよ!】
まだ心拍数は速いままだ。
すぐさま周囲には人が集まり出す。
騒然となる状況のなか、おるうは堪らず大きく溜め息をつく。
【何だってのよ!】
周囲に構わずにおるうは歩き続けた。
とは言え心なしか歩き方が荒くなる。
【ん???】
興奮している最中ながらおるうは冷静にあるコトに気が付いた。
【もしかして???】
まさかとは思ったのだが・・・、
【でもねぇ…】
竜之介よりも颯太よりも優れているモノ・・・、
それがこの瞬発力と並外れた動体視力と人間観察力では無いかとふと思ったのだが、、、
【まさかね!】
自分自身、あまり特殊には感じていないようだ。
気を取り直して探し物を続けた。
結局この日は決定的なモノは何も見つからないまま家へと帰って来てしまった。
帯、絹糸、かんざし、櫛など女性特有のモノを見ては来たがどうも今一つピンとせず。
【それにしても何だったんだろ、アイツ…】
ふと天太のコトがアタマに浮かんだ。
【弟子だなんて…】
動揺している様子。
無理もない。
“弟子にしてくれ”なんて、初めて言われたのだ。
自分的にはごく当たり前に昔から出来ていたコトだけに、全く人より優れている自覚が全く無いだけに動揺を隠せない。
【それより、何か無いかなぁ…】
アタマの中は天太のコトよりも“探し物”のコトがメインだった。
気になったものを改めて思い直し、自分で想像してみる。
【かんざし・・・・・、かなぁぁぁ。】
おるうが昼間からずっと探しているもの、
それは、
自分だけの唯一無二の、“武器”だった。
“どう使いたい”とか、“どういう要領で使うか”など、自分の中でハッキリ決まっていない。
町に探しに出たのは、町に売っているモノで思い付かないかと考えたからである。
【そのうち思い付くかな?焦りは禁物ね!!】
切替の早さもまた、おるうの良さだった。
【だいたい目的が定まってないんだし】
確かにその通りだった。
禁物なのは、焦りではなくアテの無い探し物である。
今日もまた町に来ていた。
今日はあいにくの雨。
にも関わらず、まだ見つかっていない“探し物”を見つけにやって来た。
「おるう!」
【ん?この声は…】
颯太だった。
『お帰り!!今帰り?』
とたんに笑顔になった。
「あぁ」
2人で自然な流れで茶屋に入った。
「いらっしゃい!」
『ご家族には逢えた?』
心配そうなおるうの表情に、颯太はフッと1つ失笑を浮かべた。
「人のコトなのに何て顔してんだよ!」
失笑はおるうの表情についてだった。
「逢えたよ。正確に言うと見た。少し家を眺めて後は見物して帰ってきた。オレに記憶が一切無いからさぁ、どんなんか見て来るだけで良かったから」
颯太の表情は晴れやかだった。
【颯太が満足ならいっか!】
おるうもまた、満足そうだった。
「竜之介は?」
颯太の問いに、おるうはただ首を横に振った。
「泊まってんのかな」
『かもね。』
2人の脳裏には竜之介が浮かんでいた。
「こんな雨の日に何でまた出歩いてたんだ?」
颯太の問い掛けにおるうは前屈みになり小声で答えた。
「ぁん?んなのオレが作ってやるよ。かんざし型がイイな。」
颯太は実にあっけらかんとしていた。
「オレに言えよ。んなの朝飯前だっての」
何の屈託もない、サバサバとした颯太の様子におるうは呆気に取られてしまっていた。
【帰郷して一皮向けた?】
率直な感想だった。
【そっか、忍の颯太の手に掛かれば武器の1つや2つ、お手の物なのよね】
おるうの気もすぐにスッキリしていた。
「それにしてもなぁ…」
店を出て少しして、ぽつりと颯太が呟いた。
『ん?』
傾げるおるう。
浮かない顔の颯太。
実は颯太ですら今回の“華蝶楓月”にはそれなりの不安を感じていたのだ。
【颯太まで不安なんて…。みんな同じなのね】
おるうは突然
『2人で稽古しよっか!』
と言い出し、颯太の手を引いて寺に向かった。
颯太は戸惑いを隠せないでいたが、何も言わず付いていった。
【ったく、この姫様は…】
颯太は半ば呆れ気味で笑みを浮かべながらおるうの後ろ姿を見つめていた。
『でも意外だわ、あんたも不安だなんて』
稽古の合間にふとおるうが言い出した。
「そりゃ先が見えないんだ、誰だって不安に決まってんだろ」
おるうはハッとした。
“先が見えないから誰だって不安”
颯太の言う通りだった。
そしてそのコトバで気が付いた。
「竜之介だってきっと不安だろうよ。まぁ、アイツはまるっきり顔に出てたけどな」
ハナで笑う颯太をヨソに、おるうは何も言い返せないでいた。
自分だけが不安に感じていたワケでは無かったのだ。
『アタシ、2人の足手まといになるんじゃないかってばかり気にしてた』
正直に話した。
まだ逢ったばかりの人間に正直に話すなんて、おるう自身が一番驚いた。
すると颯太は剣を置いて縁側に出てしゃがんだ。
いつの間にか雨は上がっていた。
「自分の力がどれだけ通用するかなんてなぁ、オレだって分かんなくて不安だよ」
空を仰ぐ颯太。
おるうの胸が一瞬ドキンとなった。
空を見上げる颯太の表情が嬉しそうに見えたからだった。
「でも今は、無性に嬉しくて仕方ねぇ」
颯太の表情が、発言にウソが無いコトを証明していた。
見ているおるうまでもが嬉しくなっていた。
「これから毎日稽古するか!。竜之介が帰って来たら3人で」
颯太の提案はおるうも即同意して、決定となったのだった。




