青天の霹靂
時は天下泰平と謳われた江戸時代---
長い長い戦国時代が遠い過去のように争いの無い平和な世の中。
だがその裏では、厳しい身分制度を悪用し、権力にモノを言わせ私利私欲の為に動く権力者が少なくなかった。
カネと権力のないモノが苦労し、あるモノがイイ目を見ると言うはいつの時代も同じだった。
時の将軍は、いつか来るべき日の為に十数年前にある計画の為に自分の嫡子と徳川分家から何人かを養子に迎え、その上であえて多方面に養子や里子に出していた。
その真の目的は将軍本人と、時の老中、、、では無く将軍が絶対の信頼を寄せる家臣の篠矢のみが知る超極秘内部機密だった。
引き受けた先の各々の主は真の目的は知らない。
その真の目的---それは、
“絶対的に信頼できる特殊隠密組織を結成するコト”
だった。。。
将軍周辺には多くの側近がいて、どの側近も口では忠義を誓ってはいるが“念には念を”と言う考えで計画された。
将軍直属の隠密はいるが、またそれとは別に置くと言う誰が言うワケでも無い暗黙の習わしだった。
それから十数年の月日が経ち、各々に立派に成長した3人の子女達は自分の素性を知った上で、各々に江戸に集まっていた。
忍の颯太・剣術道場三男坊の竜之介・寺で幼子の面倒を見る町娘のおるうの3人は、今まさにおるうが通う寺の片隅に呼び出されていた。
この寺は孤児の面倒を見ている寺で、おるうも此処に預けられ剣術や読み書きに励んできた。
寺の人間は住職だけがおるうの素性を知る人物だ。
寺の片隅にある茶室にはおるうが既に待機していた。
寺の端にある、竹やぶに覆われた最近出来たばかりの真新しい茶室だ。
まずやって来たのは篠矢だった。
篠矢はおるうや颯太の様子を伺いに度々寺や伊賀の郷に訪れている幕府の人間だ。
颯太は篠矢の存在は知っていたが訪問の目的が自分だとはまさか思っていなかった。
『これは篠矢様』
“「隅の茶室で茶の支度をして来てくれないか。4人分程頼む」”
ただ住職にそう言われ、言われるがまま茶室にやって来たおるうはこれから何が起きるのかを全く分かっていない。
『これから住職と何かお話でも?』
まさかこの後自分の身に思いもしない事件が起きるとは思ってもいないおるう。
何の気なしに尋ねる。
篠矢は何も言わずただやんわりと微笑む。
篠矢の反応に不可解さは感じたモノの支度を終えたおるうは立ち上がろうとした。
『では私はこれで』
篠矢がすかさず止める。
「おるう様にも居て頂きたい。お茶を点てて頂けませんか?」
おるうは驚いた。
篠矢の含み笑いに戸惑いながらも座り直し茶を点て始めるおるう。
「素晴らしい茶ですね」
篠矢のごく自然な優しい微笑みにおるうはわずかに動揺を感じたのだった。
間も無く声がした。
「矢島竜之介成之に御座います」
「お入り下さい」
おるうは益々不可解さを感じている。
入室した竜之介とおるうは顔を見合せて声を上げた。
『あっ!!』
「あっ!!」
2人とも同じ様に目を丸くさせた。
「お知り合いでしたか?」
篠矢の問い掛けにまたしても2人で同じ様にためらいながら弱々しくも答えた。
『ええ』
「はぁ」
「左様でしたか」
また穏やかに微笑んだ。
「先日、どしゃ降りの雨の日に通りすがりに傘をお貸し下さいました。その節は助かりました。大変感謝申します」
軽く一礼し、何のためらいもなく竜之介にお茶を出した。
それからまた少ししてまた声がした。
「大変遅くなりました、颯太に御座います」
「お入り下さい颯太様」
“様”?
篠矢以外の全員が一瞬顔を曇らせた。
颯太にもお茶が出されたところで篠矢が話し始めた。
「此度お呼び立て致しまして申し訳ありません。お三方様にお越し頂きましたのは、お三方様に大変大切なお話が御座いましてお呼び申し上げました」
また3人共一瞬顔を曇らせる。
尚も篠矢は話を続ける。
話が続くに連れ、3人の表情がみるみるうちに引きつっていった。
3人が3人、コトバを失っていた。
「おるう様はこちらに来られたのはご記憶にあるかと思われますが、竜之介様・颯太様はまだ物心がつく前に養子や里子に出されてしまったので全くご記憶にないと存じますが、お三方様どなた様も徳川の血を引くご子息女様に御座います。」
言われた直後、思わず各々にお互いの顔を見合ってしまっていた。
「お三方様各々に本家分家の違いは御座いますが徳川の人間であるコトには変わりません」
依然として室内は異様な空気に包まれていた。
コトバを失い、ただただ唖然とするしかない3人だった。