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ひまわり

「竜之介!」


颯太が竜之介に追い付くのはあっという間だった。


「おるうってさぁ、ひまわりみたいだよな。」


竜之介は空を見上げて呟いた。


「はぁ?ひまわり??気高いランかトゲのあるバラだろ…。」


失笑する颯太に竜之介はムキになって反論した。


「トゲじゃ無いよ!。そりゃ何と無くランは分かるけど、おるうが落ち込んでる所見たコト無いだろ?。」


竜之介の顔が優しい表情になっている。


「ヒマワリねぇ…。オレにはどうしたってバラかランにしか見えねぇなぁ。“アタシはアタシよ”ってくらいのな。」


納得してない颯太はフッと笑みを浮かべた。


「オレさぁ、不安でどうしようも無いからさぁ…、颯太とおるうにも水戸に来て欲しいんだ。2人が居れば怖いモンないからさ。」


不意に立ち止まり、竜之介は颯太をジッと見据えて言った。


「あぁぁぁぁぁん???」


颯太は思わず目をつり上げた。


「そう言ってくれんのはありがてぇけど、アイツが聞いたら“男でしょ?甘ったれないで!!”くらいに言われちまうぞ!?」


颯太の発言に、今度は竜之介がフッと笑って言った。


「颯太もおるうのコト、好きなの?」


颯太は度肝を抜かれたような思いだった。


「冗談じゃねぇよあんな高飛車女!!それはオマエだろ?嫁にもらっちゃえよ!」


顔を赤くして否定する颯太に竜之介は含み笑いをして答えた。


「そうなれば良いなって思ってたよ。でも、いざ家督を継げって言われて思ったんだ。おるうは御方様に収まるような女性じゃないから諦めようって。」


颯太は竜之介のあまりに晴れ晴れした顔に、痛感したのだった。


「竜之介、本当におるうのコト好いてんだな。」


竜之介はただ頷くだけだった。


「男だね、竜之介君!!いやぁ、御見逸れ致しましたよ!!男になったな。」


照れてうつ向く竜之介の肩に手を回して歩く颯太までが、爽やかな気持ちになっていた。


【ん?】


突然、颯太はとんでも無いことに気付いてしまった。


「てコトは、華蝶楓月は解散?」


思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。


「解散かどうかは分からないけど、オレは昨夜が最後だろうな。だから、居ても立っても居られなくて。」


颯太はもう1つ、竜之介の話の途中で別のあるコトに気付いてしまった。


愕然として立ち止まる颯太。


「どうしたの?」


様子を伺う竜之介。


ゆっくりと歩き出す颯太。


「おるうさぁ…、昨夜からヤケに素っ気ねぇなぁと思ってたけど、もしかして認めたく無かったんじゃねぇのか?」


強張る颯太。


「そうだよ!だって何と無く気付いてたって言ってただろ?じゃあもしかしてさっきの洗濯も?」


ふたりは思わず立ち止まり顔を見合わせた。


数秒そのまま顔を見合わせた後、息ピッタリにため息をつき、照れ笑いまで同時にし合ってしまった。


「あんな体で洗濯なんて、何てヤツだよ。やっぱヒマワリだな。…ぃや、ランか?」


颯太はうつ向いて呟いた。





日が暮れ始めた頃、3人の元にそれぞれに駕籠屋がやって来た。


「篠矢様からのご依頼で参りました。」


3人が3人、同じコトを思っていた。


【駕籠ぉぉぉ??今までそんなコト無かったのに…。お迎えってコレ???】


困惑する3人を乗せた駕籠はそれぞれの家を発った。


着いた先は寺だった。


【何だよ、かなり焦らせやがって!!】


颯太は胸を撫で下ろした。


篠矢に“城に来い”と言われ駕籠に乗せられ、正直怯んでしまっていた。


恐らく3人全員だろう。


いつもなら、城に行く時は寺の茶室から隠し通路を使って行くのが通例だった。


にも関わらず、駕籠が迎えに来た時はかなり畏縮したが。


すっかり緊張が解れて茶室に向かう。


竜之介はおるうが心配で、駕籠を降りたまま立ち尽くしていた。


「大丈夫?」


おるうの姿が見えるなり竜之介はおるうの元へ駆け付けて手を差し出した。


『ありがとう。』


ゆっくり小さな歩幅で歩くおるうを、竜之介は沈痛な面持ちで見守るしか出来なかった。


茶室に入ると、竜之介とおるうは同時に声を上げた。


「上様?」

『上様!!』


室内には茶を点てている篠矢だけでなく、驚くべきコトに上様も着物姿で座っていた。


「傷は大丈夫か?」


おるうは大きく頷く。


続けて上様は照れ気味に言った。


「せっかくだからワシも通路を通ってみたくてな。おるうにあまり無理はさせたくなかったしな。」


何処と無く無邪気な上様の笑顔に2人は何も言えなかった。


間も無く颯太も現れた。


「此度の任務は大変難儀であったな。」


上様の言葉に3人は身が引き締まる思いだった。


下げたアタマをなかなか上げれないでいた。


「アタマを上げよ。特におるうには詫びの言葉もない。」


そんなコトを言われ余計にアタマを上げれなくなる3人。


「竜之介から話は聞いたとは思うが、此度竜之介は家督を継ぐ為水戸に戻るコトになった。」


竜之介の顔が少しだけ上がる。


颯太は無意識に勢いよく顔を上げてしまった。


おるうは依然アタマを下げたまま、上げれずにいる。


「本来であればまだまだ3人で活動して欲しかったが、家督を継ぐハズだった竜之介の実兄が病に伏していてな。」


3人はジッと黙って聞き続ける。


「よって、実に痛恨の極みだが、本日をもって華蝶楓月は解散とする。」


「えっ?」


3人の声が見事に揃った。


さすがのおるうも顔を上げてしまった。


「颯太には竜之介に付いて水戸に行って欲しいのだ。何かと大儀であろうから是非とも竜之介を支えて欲しいのだ。頼む。」


「慎んでお受け致します。」


「お心遣い、深く感謝申し上げます。」


竜之介と颯太が再びアタマを伏せる中、おるうは呆然状態。


「おるうには、傷が癒えたら旅に出てもらいたい。」


面喰らったような顔でおるうはすかさず尋ねた。


『旅?…で、ございますか?』


声が弱々しい。


さすがのおるうもうろたえる。


【おるうは一緒じゃねぇのか…。】


心無しか残念そうな颯太。


隣の竜之介は内心ホッとしている。


「色々他の世界を見て来て貰いたい。何年掛かっても構わん。最終的には外の国にも目を向けて欲しい。身の回りのコトは案ずるな。何人か付ける。」


【外の国ぃぃぃ???】


3人全員、顔が硬直。


・・・と思いきや、おるうは嬉々とした顔で目を輝かせている。


「怖くはないか?」


神妙な表情の上様。


竜之介と颯太も不安げな面持ちで見つめる。


おるうは周囲の不安を吹き飛ばす程に爽やかで凛として答えた。


「とんでもありません。新しい世界を知るのに恐怖を感じてどうしろと仰るのですか。むしろ期待に満ち溢れております。私にその命を頂けましたコトを大変光栄に存じます。」


周りの男子4人は一瞬唖然としたがすぐにフッと笑みを浮かべた。


【さすがだな…。】


4人全員そう感じずにはいられなかった。


と同時におるうのコトバが竜之介の胸に熱く響いてもいた。


“新しい世界を知るのに恐怖を感じてどうしろと…。むしろ期待に満ち溢れている。”


家督を継ぐコトに不安で肝が押し潰されそうな程だった竜之介の胸に響いて目頭が熱くなった。


「今まで大変大儀であった。あっという間ではあったが、そなた達の活躍は江戸の町に大きな影響を与えた。尽きない程の礼を申す。最後の任務、しかと頼んだぞ。」


竜之介・颯太・おるうの目にはうっすらと涙が滲んでいた。










翌日朝から竜之介と颯太はそれぞれに家の片付けに追われていた。


片手に包みを持ったおるうが颯太の家に現れたのは昼前だった。


『お疲れ様!』


歩く姿がなんとも痛々しく、ぎこちなかった。


「おるう!?」


作業の手を止めて慌てておるうに駆け寄る颯太。


「大丈夫か?休んでろよ!無理すんなよ。」


『このくらい何とも無いわよ。本当なら掃除くらい手伝いたい所なんだから。』


明るく笑い飛ばすおるうは、お重と洗濯した装束を置くとすぐに立ち去った。


「もう行くのか?」


『竜之介の所にも行ってくるわ。まだ洗うモノがあるならやるけど?』


あまりのさっぱりっぷりに今更ながらに唖然としてしまう颯太だった。


3人の家はすぐ近くにある為、傷の体でなければいくらも掛からない距離だが…。



『お疲れ様!』


颯太よりは物が少なかった竜之介は、一通り終えて華蝶楓月の道具を見てぼんやりしていた。


おるうの声に、竜之介は顔を上げた。


「おるう‼大丈夫か!?」


竜之介も慌てて駆け寄る。


2度目ともなるとさすがに苦笑いになるおるう。


『何なのよ2人とも似たような反応しちゃって!はい、お弁当。本当は掃除くらい手伝いたいくらいなんだから。』


明るく屈託のない笑顔のおるうに竜之介の胸は締め付けられそうだった。


「おるう、お願いがあるんだけど…。」


竜之介が恥ずかしそうに言い出した。


『何?』


さりげなく答えるおるうに竜之介は顔を上げておるうの目を見据えて言った。


2人が向かった先は茶室だった。


「オレのお茶、飲んでくれないか。」


竜之介の精一杯の“告白”だった。


竜之介と颯太はたびたびおるうにお茶を習っていた。


「おるうに習っといて良かったよ。」


緊張する竜之介におるうは終始笑顔で何処と無くぎこちない竜之介を見守っていた。


「オレさぁ、肝が潰れるくらい不安でたまらなかったけど、おるうの昨夜のコトバで凄く勇気が出たんだ。ありがとう。」


『お礼なんか言われる筋合いじゃないわ。アタシ達は“心友”なんだもん。アタシだって竜之介や颯太に助けられるコト、たくさんあるわよ。お互い様よ。』


竜之介はドキッとした。


“心友”


目からウロコだった。


「おるうがオレに?」


信じがたい竜之介は、目がテンになっている。


飛びきりの笑顔で頷くおるう。


『いつも2人の顔が浮かぶわ。任務の時だけじゃなく普段も。』


竜之介はたまらなく嬉しかった。


狂喜乱舞したいくらい嬉しかった。


“颯太と一緒”ってコトは全く問題では無かった。


『正直、不安が微塵も無いとは言わないわ。外の国なんて言ったらコトバが通じないもの。でも任務だし、何より竜之介の方がもっと大変だろうから。』


おるうの笑顔が、その言葉に嘘が無い何よりの証拠だった。


【ありがとうおるう…。ずっと好きだよ。やっぱりおるうはひまわりだよ。】


竜之介は心の中で呟いた。










数日後、おるうに見送られながら竜之介と颯太は水戸に旅立った。


『じゃ、竜之介を宜しくね、颯太。』


竜之介はさっさと駕籠に乗っている。


「おう!任しとけぃ!!」


颯太の表情は自信たっぷりだった。


「颯太、行くよ!」


離れた所から竜之介の声が聞こえる。


颯太は慌てて竜之介の元に駆け寄る。


「オマエ、いいのか?」


声が焦る颯太。


「いいんだ、心友だから。行くよ。」


「はぁ!?」


呆れる颯太をよそに、竜之介は今まで見たコトの無い程の清々しい表情をしていた。


行列は静かに出発した。


おるうと2人の首には、おるうが華蝶楓月の木札で作った御守りが下げられていた。


3人の顔は実に晴れ晴れとしていた。


涙は誰の目にも無かった。


“心友”


木札にはおるうが言ったこの言葉と、3人の名前が刻まれていた---


行列を見送るおるうのかなり後には楓が佇んでいたーーーーー



















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