弐ノ伝 るう
キミはいつも寂しげな瞳をしていたね。
誰にも心の中を覗かれまいとする冷たさすら感じられるその瞳。
だけど瞳の奥はとっても澄んでいて、
キミのココロと同じだったね。
いつでもキミは優しくて、
温かくて。
そして誰よりも傷付き易かった。
そんなキミだから、他人の心の痛みにも人一倍敏感だった。
離れ離れになる時も誰よりも寂しげだったのは今でも忘れないよ。
あの日からずっと・・・。
アタシの名前は、るう。
近くのお寺で子供達の面倒を見ながら読み書きや剣術なんかを教える十五歳。
アタシもお寺の子供達と同じで親のいない環境で育ったんだ。
つい最近1人で暮らし始めたけどね。
と言ってもアタシには実は親はいる。
兄上や姉上や妹弟もいる。
ワケあって一緒にいないダケ。
アタシは小さい頃から俗に言う“お姫様遊び”が大っ嫌いで、兄上達に交ざって剣の稽古をするのが大好きだった。
みるみるうちに上達しちゃって周囲の大人達が呆れる中、父上だけが大層感心して下さって、
「このまま姫としてどこかに嫁がせるのは勿体無い」と、アタシをあえて養女に出すコトになったんだけど・・・
「あまり表沙汰になるようなトコロでは目立ってしまい危険です」
と言う父上が絶対の信頼を置いておられる篠矢様のご意見で、篠矢様のご紹介で町外れの小さなお寺に預けられるコトになったの。
“嫁がせるのは勿体無い”
ただそれだけで家族と引き離されるのも酷い話だよね。
でも心置きなく剣の稽古が出来るコトが何よりも嬉しかったアタシは、それだけで引き受けた。
そんな姫です。
確かにあのままいればどのみち何年か後にはどこかに嫁ぐコトになっていたんだからって、住職には言われたの。
あたしがお城にいた時から姉上がお嫁に行くのを何度か見ていたから頷けた。
“姫”とか“お城”とか“側近”とか。
アタシの正体、実は徳川家の姫様。
って言っても“元”姫様だけどね。
「近い将来、徳川家を護ってくれるだろう」
そんな望みを託されて、アタシは自分の人生を政の道具にされてしまう家を離れた。
それから約十年---
六歳の時に城を出た幼かったアタシは、今や立派な町娘。
正室の子供だけじゃなく側室の子供も入れたら数十人いる城内で、1人くらい居なくなったトコロで何とでもなるらしく、アタシが居なくなったコトなんて、何の問題も無かったらしい・・・。
アタシがお城の人間って事実は、大人の欲望の渦の中に埋もれながら消えていってしまったのだーーー