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純情

その夜、颯太・楓・竜之介・おるうは夏伊の部屋にいた。


通常、吉原は女人禁制なのだが手形があれば入るコトが出来る。


手形に加え吉原にも顔が利くおるうのコト、入るのは容易いコトだった。


『無理言ってゴメンね、夏伊』


「アタシよりもオヤジ様の方が乗り気だったわ。アンタの花魁姿も見てみたかったって悔しがってたわ」


雰囲気良く、仲良く話す2人を見ていた颯太と竜之介が呟きあう。


「おるうの前だと普通の詞で話すんだな」


「あぁ。さすが幼馴染みだな。」


目はしっかりおるう達から離さなかった。


2人の前には支度中の楓がいた。


「楓も良く引き受けたよなぁ。オレがやっても良かったのに」


しみじみ言う竜之介。


表情はほんのり嬉しそうだが…。


「まんざらでも無いんじゃねぇの?嬉しそうだぞ」


颯太の言う通り、支度中の楓の表情はどこか嬉々としていた。


「このまま居座っちまうんじゃねぇの?」


颯太は失笑気味にボソッと吐き捨てた。


夏伊のフリをして花魁の出で立ちの(ホントはおるうがやるハズだったが) が近藤を呼び出し、引き合い部屋で程よく酔わせたトコロで楓が退室し、屋根裏に待機していた颯太が隙間から巧みな縄使いで近藤の体を縛り、すかさず男子2人が近藤を運び出すと言う作戦は、寸分の乱れもなく、無事に遂行できた。




『楓、ありがとう。』


「我も楽しかった。こちらこそ礼を言う」


明け方、店を出た4人。


おるうと楓の表情は充実した笑顔だった。


「あ〜ぁ。おるうの花魁姿も見たかったな」


颯太は両手を挙げ背伸びをしながら空を仰いだ。


『アタシもやりたかったから、そのうちね』


1人竜之介は物凄く顔を強ばらせて首をひたすら横に降っていた。


「竜之介はおるうに惚れているのか?」


楓が隣の颯太の耳元で囁いた。


颯太は小さく頷いた。


楓はただフッと失笑して答えた。






かくして大奥での“おるう騒動”は無事終結を迎えた。


今回の任務の成功は幕閣に甚大な影響を与えた。


華蝶楓月の存在を強固なモノにさせた。


巷には“華蝶楓月英雄伝説”まで出る始末で。


感じる者には“脅威”にすら感じる存在にまでなっていた。


「凄いな華蝶楓月って」


ある日の昼下り、久し振りに颯太・竜之介・おるうの3人は天太を誘って茶屋にいた。


全員がお茶を口にした瞬間、ポツリと天太が呟いた。


お決まりのように3人同時にお茶を吹き出す。


「どした?」


ポカンとする天太。


「いゃ、何でもない。何か引っ掛かったみたいだ」


白々しくごまかす颯太。


「3人同時に?さすが兄弟だな」


幸い天太には通用しているようだ。


【アンタの目の前にまさに全員いますけど】


うつ向き、黙ったまま心の中でおるうが言う。


おそらく他の2人も全く同じコトを思っているだろう…。


「おっお嬢!ここだったかぃ」


4人で話をしているトコロに恰幅のイイ、カラカラとした男性が現れた。


見るからにどこかの番頭だった。


『あら元さん!どうしたの?』


今さらながらにおるうの顔の広さに感服する颯太と竜之介と天太だった。


「お嬢に紹介したい人がいるんだよ」


竜之介が即座に反応した。


颯太も若干だが反応していた。


『また見合いの話?』


「また?」


竜之介と颯太が声を揃えた。


『元さんだけじゃないのよ。いろんな人に言われんのよ』


嫌気たっぷりのおるう。


「お嬢にピッタリなんだよ!オレの見立に狂いはねぇ!!逢うだけあってくれ」


懇願する元さんにおるうは毅然とした態度で言い返した。


『アタシは自分の嫁入りよりも寺の子供達の方が大事なの。今はまだ嫁に行く気はてんでないよ。その気になったら頼むからとびきりの殿方を探してきておくれよ』


あまりにも毅然とし過ぎていて元さんは何も言い返せず苦い顔で帰って行った。


「逢うだけ逢えば良いじゃねぇかよ」


天太が言った。


お茶を吹き出す竜之介と颯太。


2人でやっても同時に。


唖然とする天太。


「そう言えばアニキ達はどうなの?」


「は?」

「あん?」


ぽかんとする竜之介と険しい顔で聞き返す颯太。


「好きな娘とかいないのか?」


2人とも固まる。


「いな…、い」


ひきつり気味の竜之介。


「いねぇよ」


颯太はふて腐れ気味に。


「ふぅ〜ん」


【この場でおるうなんて言えないよ】


竜之介の心中は穏やかでは無かった。




「それにしてもちょっと有名になりすぎじゃねぇか?」


颯太が空を見上げてポツリと呟いた。


天太と別れ、3人は河原でたむろっていた。


『確かにね。あまり目立ちすぎるのも逆効果だったりするから少し大人しくしてよっか。便乗犯とかも出てきたらたまったもんじゃないしね』


おるうのコトバに颯太と竜之介も頷く。


確かに最近、“上様からの指令で動く”と言う本来の目的を越え、自分達から率先して動くようになっていた。


結果的にはそれが任務に繋がるので今まで良かれと思ってやっていたが。


「多分このまま当分はこの3人でやってくんだろ?だったらあまり派手に動かない方がいいな」


空を見上げたままの颯太。


「でもさぁ…」


浮かない顔の颯太。


「ずっとこのままだったらさぁ、結婚てどうなるんだろう」


竜之介の突拍子も無い発言におるうも颯太もとっさに竜之介の顔を見た。


竜之介の表情は心無しか憂いを帯びていた。


『竜之介、結婚したいの?相手でも出来た!?』


何も知らないおるうが言った。


“知らぬが仏”とは良く言ったモノである。


コトバに詰まる竜之介を見かねた颯太が答える。


「今いなくたっていずれはだろ。確かにこのまま続けるなら結婚は厳しいよなぁ」


おもむろに大きく背伸びする颯太。


自分達の素性は一切知られてはいけないのが鉄則。


夜に行動するコトもある華蝶楓月には第3者との共同生活は厳しいモノがある。


颯太は口には出さなくとも竜之介の心の内がわかるだけに、複雑な想いだった。




自分達からの諜報活動の鎮静化と結婚についての不安は、竜之介の口から上様と篠矢に伝えられた。


「あいわかった。それは全く我々は構わん。竜之介達に負担を掛けてしまうのは本末転倒だからな。篠矢の伝達はこれまで通り続けると言うコトで良いな。何かあったら茶室を使うがよい」


上様は優しく微笑んで告げた。


キッとまっすぐ上様を見据えて竜之介は、大きくゆっくり頷いた。


「3人の行く末のコトは、正直、そんな問題が出てくるとはうかつだった」


一転、上様は眉間にシワを寄せて腕組みした。


「あっ、いゃっ、その…」


自分で言ったコトとは言え、いざ上様の反応を見てうろたえる竜之介。


「独り身でいろとおっしゃるのであれば喜んでそう致します」


「そのようなワケには参りません。皆様にはやはりご家族をお持ち頂くのが本望で御座います」


篠矢が割って入ってきた。


とは言え、先日の一件で竜之介には誰か想う者がいるコトを察していた上様と篠矢。


「誰か想う者がおるのであれば、無理に動くコトはするでない。諜報活動に徹するでも全く構わん」


上様の思わぬ気遣いに竜之介は頬を赤らめてうつ向いてしまった。


さすがに、その“想う者”がおるうであるコトなど、口が割けても言えない。


竜之介は激しく動揺していた。






その頃颯太とおるうは---


「おるうさぁ…、」


いつものように茶屋の外の縁台で一服していた。


『何?』


何気無く聞き返すおるう。


もじもじしながら颯太は意を決して聞いた。


「惚れてる殿方とかいんのか?」


うつ向いたままの颯太。


『何よいきなり。驚くなぁ』


カラカラと笑い飛ばすおるう。


「あっ、いや、昨日見合いの話があったり竜之介があんなコト言い出すからさぁ…」


ますますもじもじしてしまう。


『居ないわよ。昨日元さんに言ったコトに偽りなんか無いモノ』


ごく自然なおるうの笑顔に、なぜか竜之介は動揺してしまった。


「颯太は?楓とかおみつちゃん(茶屋の看板娘)とかいいんじゃないの?」


何の気なしのおるうの発言でも、颯太には冷や汗が出る程の発言だった。


【オレ、何こんなに焦ってんだ?何でこんなに動揺してんだ?おかしいぞ?】


自分の心境にもまた、異変を感じ動揺してしまう颯太を尻目に、いつもと変わらないあっけらかんとするおるうだった。






その日の夜、城から帰ってきた竜之介から新たな指令を受けた3人は、早速動き始めた。


竜之介・颯太、それぞれ胸に秘めた想いを抱えながら。。。























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