大丈夫
【オレ、何で選ばれたんだろう】
おるうの話を聞いてから、すっかり自信喪失してしまった竜之介。
と言っても元々一番自信など無かったのが竜之介かも知れないが。
その夜眠れずにいてしまった竜之介は翌朝明けてすぐ川辺に来ていた。
昔から何かあると来ていた川辺だ。
ここで川のせせらぎに耳を傾け、川の流れを見つめていると次第に心が落ち着いてくるのだと言う。
【颯太は伊賀育ち、おるうは凄まじいほどの観察眼と推理眼の持ち主。じゃあオレは?】
昨夜からずっと考えている。
夜も眠れない程に。
「あれ?兄貴ぃ!」
橋の上から天太が駆け寄ってきた。
天太からすれば竜之介も“兄貴”なのだ。
「おぅおはよう」
力無い竜之介にすぐさま天太は反応した。
「どうしたんだ?ずいぶん覇気ねぇじゃねぇの?」
何も分かるハズのない天太はざっくばらん。
「あぁ」
川を眺めたままでただ一言答える。
「川を眺めんのも良いけどさぁ、空を見上げんのも良いぞ!?今日みてぇな青空は特に気持ちいいぞ」
天太は川沿いに寝そべって見せた。
呆気に取られながらも天太の真似をしてみた。
天太の言う通りだった。
「気持ち良いなぁ」
気持ちがスカッとした。
【こんなに広い空から見たらオレなんか米粒みたいなモンなんだな。ってコトは米粒みたいなオレの悩みなんかちっぽけってコトなんだな。】
『竜之介?』
誰かの声で気が付いた。
どうやら寝てしまっていたらしい。
お日様はとっくにてっぺんまで昇ってしまっていた。
目の前にいたのはおるうだった。
『こんなトコで寝てたら誤解されちゃうよ!』
おるうが竜之介の体を揺り動かす。
「ごめん、つい」
ゆっくり起き上がる。
『佛さんだと思われるでしょ!』
おるうに半ば強引に腕を掴まれて起こされ、渋々立ち上がる竜之介だった。
『天太に聞いて慌てて飛んで来たわよ!』
おるうがどこと無く涙目なのは気のせいだろうか。
竜之介はおるうの表情が気になって仕方無かった。
母上が良く見せた顔。
心配してくれてた時の顔だった。
確かにおるうは一応兄妹だ。
妹なのか姉なのかはさておき。
しかも同じ務めを果たす同志でもある。
…となれば、おるうが自分の母上と同じ表情を自分に見せるのは当然と言えば当然だ。
だが竜之介は一瞬ドキッとしてしまっていた。
『付いてきて』
おるうはただ一言そう言うと黙って歩き出した。
途中、いつもの茶屋で握り飯を買って黙って竜之介に渡し、また歩き出す。
着いたのはおるうの通う柳庵寺だった。
「おるうねぇちゃん!」
境内で遊んでいた子供達はおるうの姿を見るなり一目散に駆け寄ってきた。
『竜之介お兄ちゃんです。ご挨拶は?』
自分達に見せる笑顔とはまた別のおるうの笑顔に竜之介は驚いた。
おるうのコトバに動揺する竜之介に、子供達はあどけない笑顔で挨拶してきた。
「竜之介お兄ちゃんこんにちは!!」
あまりの元気の良さに竜之介は圧倒された。
『今日は竜之介お兄ちゃんが剣術を教えてくれます』
「えっ?」
何も聞いていない竜之介は目が飛び出しそうな程に驚いた。
たじろぐ竜之介。
『篠矢様からのご命令です』
おるうが小声で説明すると顔をしかめた。
子供の相手などしたコトがない竜之介はおどおどするばかり。
だがしかめっ面をしているにも関わらず無邪気に竜之介に接する子供達を見ているうちに少しずつ顔が和らいできた。
おるうは安心した様子で微笑みながら竜之介の様子を眺めていた。
“「竜之介様は御家族以外の年の離れた方と接した経験がほとんど無く、それが竜之介様の欠点とお見受け致します」”
“『欠点?』”
おるうは竜之介達の姿を見据えながら、篠矢との会話を思い出していた。
ある日の昼下がり、寺を訪れた篠矢がおるうに話を持ち出した。
おるうは篠矢の言っているコトの意味が全く分からなかったがとりあえず承諾した。
“年の離れた人達との交流が無いコトが竜之介の欠点”??
子供達と戯れる竜之介を見ていても意味が分からなかった。
…が、次第に今までに見たコトの無い笑顔に変わっていく竜之介が誇らしげに見えていた。
「良い顔してんなぁ、アイツ」
颯太がやってきた。
『最初はガッチガチだったけどね』
竜之介の方を見たまま苦笑い。
「コレがアイツの欠点克服になるんだ…よ、なぁ」
どうやら颯太も分かってないらしい。
首を傾げている。
『アタシも良く分かんないけど、楽しそうだから良いんじゃない?』
2人でしばらく竜之介の姿をやんわりとした表情で見つめていた。
篠矢の提案の成果はこの後間もなくして、如実に出るコトになる。。。