壱ノ伝 竜之介
思えばいつも側にキミがいた。
ヒマワリの様に明るくて眩しく、
キキョウの様に優しくて温かく。
ランの様に気高く凛としている。
暗く冷たいどこまでも続く闇の中、いつもキミが側にいてくれた。
今でもキミとの想い出は胸にしまってあるよ。
今は離れ離れになってしまったけれど。。。
今でもきっとキミはオレだけじゃなく、
周囲の人全てを幸せにしていることだろう…。
広く青く大きくてどこまでも続くこの空の下で。
誰よりも傷付きやすく人の痛みを知るキミだからきっと…
キミとの出逢いはきっと必然だったんだね。
前夜から続く冷たい雨--
それだけでも心は憂鬱だというのに、
オレはどしゃ降りの雨の中、どうして良いかワケが分からず町を彷徨い歩いていた。
強く冷たい雨の中、傘も差さずに。。。
【お前は、実は徳川将軍家の人間なんだ】
父上から突然告げられたあまりにも突拍子過ぎるコトバにオレは、
アタマを鈍器で殴られたかの様な衝撃で、
自暴自棄になって家を飛び出し町中をさまよいながら歩き続けた。
頬には自然と涙が流れていた。
雨なのか涙なのか分からない程泣いていた。
おかしいとは思っていたんだ。
ごくごく普通の、城下町に住む剣術道場のしかも三男坊が2人の兄を差し置いて度々父上と登城していたんだから。
しかも剣術の稽古も上様や若君様達に交ざってやっていたなんて。
どう考えたっておかしすぎるよな。
だからって何もよりによって徳川家の人間じゃなくても・・・。
うつ向いたままで渇れる程泣いた。
いつの間にか泣き止みふと立ち止まり、オレは道端に座りこんでいた。
そんな時だった、キミと出逢ったのは。
うつ向いていたオレが、目の前に立つキミに気付いて顔を上げると天使の様な優しく温かい笑顔でオレを見つめていた。
オレは驚いた顔でキミを見てしまっていたね。
キミは戸惑うコト無く、
『コレをどうぞ。ワタシはすぐですから』
とオレに傘を差し出しそのまま走り去って行った。
突然の出来事にオレは唖然とするだけで何も出来ず、走り去って行くキミをただ見つめているしか出来なかった。
キミに声を掛けられたコトで我に返ったオレは、キミがくれた傘を差して家に戻った。
「もう少しでお前も十五になる。だから話した」
父上にそう言われたが、オレにとっては何歳で言われようが同じだった。
オレが父上に連れられ再び登城したのは次の日の早朝だった。