97 合宿といえばカレーでしょ
柔道部合宿の初日午後3時半。
まさかの、上半身裸の勇太によるバタ足訓練という名の触れ合いは終わった。
泳げないルナ、本当は泳げる柔道部員の手を取った。
あり得ないことなのに、泳げないと主張する水泳部員全員の手も取った。
◆
最後に、本当に泳げないルナの訓練をした。
「さ~てルナ、先にプール出て準備するよ」
「手伝おうか?」
「ですね」
「私達もやりま~す」
「大丈夫、俺1人でやるから楽しんでて」
あ、あ、ああ~と、水泳部員から残念そうな声が上がる。
「あの~勇太君だけ出ちゃうの?」
水泳部キャプテン水野鮎が勇太に聞いた。
「合宿期間中は、俺がみんなご飯を作ることにしたんだ。今夜は定番のカレーだね」
さらっと言う勇太だが、この世界では衝撃的だ。
え、勇太君が?
男子メシを朝昼晩?
勇太君がデザート?
最後に不純物が混じったりしながら、感嘆の声が上がる。
「いいなあ・・」
「じゃあ、水野さんもカレー食べる? いいかなルナ」
「うん、勇太が良ければ」
「それじゃ、準備しよう」
「え、えええ?」
「それなら、私もお願いします」
「代金はいかほど!」
「いらないですよ~。プール使わせてもらうお礼ってことで~」
おおお~と、喜びの声。2つ隣の県に男性1人でやってる食堂がある。不味いカレーと水のセットで3000円もする。
結局、水泳部員15人もカレーを御馳走になることにした。
男性の好意による手料理は貴重なのだ。
勇太は着替えて、合宿所の食堂に入った。自分の燃費の悪さを考えて、あらかじめ前日から大量の食材を持ち込んでいる。
柔道部10人、水泳部15人でも十分に足りる。
シーフードカレーを作る予定だったが、聞くと部員にエビアレルギーの子がいた。勇太が好きな普通の豚肉カレーとの二本立てにした分、カレールーも大量にある。
大量の玉ねぎを切って、ジャガイモ、ニンジン、豚肉も炒めて、葉子義母さんにもらった秘伝の調味料を投入。
水を入れて煮込んでいく間に、飛び魚、イリコを煮て裏ごし。シーフードをコンソメ少々で炒めて、こちらも煮込みセット。
もちろんお米は先に研いで、炊飯器で炊いている。
気が付くと、みんなが見ている。録画もされている。
ただし誰も手伝わない。
なぜかルナがみんなに拘束されている。
ルナは勇太の家でご飯を食べることもある。いつものように手伝おうとしたけど、女子軍団に止められた。
キャプテン鮎に言われた。「すまんルナ。私達は、純粋な男子メシを食いたいのだ」
「ごめん花木さん、ここはこらえて」
「骨は拾ってあげるから」
手伝わないのは、100パーセント勇太なカレーライスを食べるため。
みんなの心がひとつになった。
みんな玉ねぎを切るところから、勇太を見ている。
カレールーは市販がベースだけど、作業のすべてを1人でやれている。
たまにある男性料理人の店は、8割がたの作業を女性スタッフがやるという。
動画にアップされる男性料理も、肝心な作業がカットされていて、替え玉女子がいるとの疑惑がある。
目の前の勇太は、手際よく2種類のカレーを作っている。リアルタイムで、動画も同時配信。
「サラダ代わりのトマト。どう水野さん」
トントンとんと手際よく切ったトマトをひとつ、水野の口に放り込んだ。
「・・熟れてますわ」。なぜか有閑マダムのような返答だ。
やたらと長い配信なのに、アクセス数は伸びる一方だ。
コメント欄は更新が早すぎて読めない。
「できました~」
ご飯を女子がセルフでよそい、カレーをかけるのは勇太にリクエスト。
「いっただきま~す」
大音響でハモったあとは、一斉にカレーをパクり。
「!」「!」「!」「!」「!」「!」
「すごく美味しい・・」
嬉しい誤算だ。
やたらといい匂いがしていたと思ったら、ガチに美味しい。
男子メシという言葉はある。しかし意味は『不味い』
男性経営の店は味が安定しているが、それは女性料理人が味を整えるから。
例外もたまにいる。万能超人・伊集院君も料理はできる。その腕前は7人の婚約者にしか振る舞わない。
突き抜けたハイスペック男子の技能は、金や地位を持った女子一族で囲われやすい世界。出会える人は少ないのだ。
「おかわりお願いします!」
水泳部員が次々と勇太の元に並ぶ。柔道部員は、まだ何度も勇太ご飯を食べるチャンスがあるので遠慮した。
水泳部員はここまできたら、ついでとばかりに歌のリクエストをした。
勇太は前世の『泳ぐ君と僕のバラッド』というパクり歌を歌った。
ネット上では、またも反響を呼んだ。
1年後には、スポーツ女子を応援する勇太のアルバムができることになる。




