94 思い出の夏祭り
ぷおーーー。和楽器の荘厳な音が神社に響き渡って、巫女さん達が一礼。
しばしの静寂が訪れたあと、みんな拍手した。
子宝祈願の舞も終わり、見物客が引き上げ始めた。
厳かな空気だから黙って見ていたが、勇太は巨大木製●ニスのデカイ亀頭しか目に入ってこない。
「ああいう舞って素敵だよね」
「そうだな。心が洗われるよな」
「来年もまた、みんなで来ようね」
ルナ、カオル、梓の感想もガチだ。誰も4メートルの巨大ペニ棒のことを突っ込まない。
男女比が1対12であるここは、エロ肯定世界だと勇太は思い出した。
最後に伊集院君からファミレスに行きたいとリクエストがあった。
そういう普通の高校生的な寄り道をやったことがない。勇太がいるときにやりたいそうだ。
「まだ行ったことがないんだよね」
「じゃあ、伊集院君のファミレスデビューだ」
「おう、喉も渇いたしちょうどいい」
「カオルちゃん、減量が大変だから練習再開するまでは、甘いものはほどほどにね」
聞き耳を立てている女子が周囲にいるが、付いてきたら付いてきたで、お店の売り上げに貢献するからマイナス事案ではない。
神社を出る前。臼鳥麗子と伊集院君の婚約者がトイレに行った。
残る6人で提灯が並ぶ境内への通路で待つことになった。
作為的にやった訳ではないのに自分も含めた、パラレルな6人だけになっている。
勇太は、さっから感じていた想いが、なおさら大きくなった。
勇太の横にルナがいてくれる。梓がカオルの世話を焼いている。純子と伊集院君が音楽活動の話題で笑っている。
本当に偶然だ。
前世で勇太が元気だった最後の夏といえば中3のころだった。
坂元勇太と花木留奈。カップル未満、友達以上の2人。
小学生の坂元梓が5歳上の今川薫に恋心を抱いて甘えていた、美少女と野獣のペア。
そしてみんなと仲良しだった、伊集院光輝君と山根純子の美男美女。
その6人で夏祭りに行った。
金魚をすくって、かき氷を食べた。特別なできごとはなくても楽しかった。
次の年以降は勇太の病気で2度とメンバーが揃わなかった。
もう、諦めていた。
だから、キラキラの思い出のひとつとして、勇太の中に残った。
このパラレル世界に来て、その6人が再び集まった。
もちろん中身が別人なのは分かってる。年齢、性別、血縁関係と一致しないとこだらけ。
だけど、勇太の大事な思い出をくれた5人が目の前にいる。
横にいたルナの手をぎゅっと握った。
三つ編みからボブカットに変わっていても、やっぱりルナだ。
「・・・勇太、どうかしたの」
「あ、いや?」
小さな声でルナが言った。そして気付いた。
勇太の目から、涙が出ていた。
「なんか、ルナと出会えてうれしすぎて」
また勇太がルナの手を強く握り、ルナも握り返した。
「・・そう。私も勇太と出会えて幸せだよ」
「俺も、また、みんなと夏祭りに来ることができて嬉しい」
勇太の『また』が少し気になった。少し前までは過去に出会った、自分ではない『ルナ』がいたと考えていた。
だけど今のが聞き間違いでなければ、ここにいる5人全員と再会ということになる。
伊集院君にも、妹の純子にも聞いた。だけど2人とも勇太には高校になるまで会ったことがないと言った。
梓とカオルの、勇太との思い出は聞いたことがある。だけど、みんなでお祭りなんて聞いたことがない。
「勇太って、たまに不思議なこと言うようね」
「あ、ごめん、変だったかな・・」
「変でも・・今の・・ゆ、勇太が好きだよ」
初めて、きちんと言えた。
間違いなく今の勇太は自分を愛してくれる。言葉でも行動でも、しっかり、そう思わせてくれる。
だからネットなんかで自分のアンチを見つけても、気にしないでいられる。
こういう不思議な部分も含め、勇太のことが好きになってしまったルナだ。




