89 どこに姉妹がいるかわからない世界
勇太は8月7日には、日常に戻ってきた。
早朝2時から強烈ルーティーンをこなし、パン屋、リーフカフェのフルタイムで過ごしている。
現在は午後3時になっていて、パラ高柔道部の9人みんながカフェに来た。ルナも来ている。
マルミ、タマミ、キヨミの黙っていれば美少女3姉妹から、勇太と1週間ほど一緒に部活ができなくて寂しいと言われた。
この1年生3人はすでに勇太の妹枠。甘えられて、勇太も悪い気はしない。
スキンシップも山ほどある。
距離感の保ち方は3人揃うと絶妙であり、梓とも仲良くなってきている。
「勇太先輩、夏といえば合宿でしょ」
「学校にある合宿所が、21日から3日くらい空くらしいですよ」
「敢行すべき」
ルナも説得されていて、合宿中は午後から水泳部がプールを貸してくれるらしい。マルミらの交渉力、企画力が侮れない。
あっという間に決まった。
やったーと、3人して勇太に飛び付いてきた。
新しく入った部員5人は、まだそこまで開き直れず、3姉妹を羨ましそうに見ている。
そして自分の彼氏に飛び付く3姉妹を笑顔で見ているルナを、すごい器が大きい人だと尊敬の念を持って見ている。
◆◆
妹枠といえば、影は薄いがメイちゃんという子がいる。
本名は山咲芽依。
今は中3で、勇太がリーフカフェに働き始めたころから会いに来てくれる。
初対面ではうまく話せず泣いたけど、一生懸命に言葉を出した。勇太に前世のルナの中学生の頃を思い出させてくれた子だ。
2つ離れた街に住んでいて、頻繁には来れないが、来ると楽しそうにしている。
性格は地味。プラス顔も勇太に似たモブ顔だけど、勇太の方が構ってしまうのだ。
顔がどことなく似ているせいか。カフェのお客さんには、勇太の妹だと勘違いしている人もいる。
その子が今日は、友達2人とリーフカフェに来た。
「勇太さん、これ」
「何かなメイちゃん」
そして四つ折りのメモを渡された。何かと思えば、メイちゃんの出生番号カードの一部抜粋。
これは梓に聞いていたし、パラレル勇太の記憶にもあった。
この世界の女子が、小学生から中学生にかけて良くやる遊びのようなものだ。
カオルの親に挨拶に行ったとき、出生番号カードの一部羅列で勇太とカオルが遺伝子的な異母兄妹でないことを確認した。
勇太は『F321A19P』が精子提供者の特定番号になる。
あれを友人などと見比べる女の子が、この20年ほど増えている。ごくごくたまに、遺伝子的な姉妹がいたりする。
それが嬉しい未来に繋がることもあるけれど、悪く利用される可能性もある。
結論から言えば、公表すると罪になる。
やはり、家族のあり方をおかしくするからだ。この遺伝子一致で、本来は無縁なはずの人から相続権などを主張されたら社会に混乱が起きる。
法的には、人工授精が認められたと同時に整備された。
だから『遺伝子的な兄妹間の婚姻を防ぐため』以外に公的には利用されてはいけない。
勇太は梓から、もしも遺伝子的な姉妹が見つかっても、絶対に動揺するなと言われている。
注目されている勇太の姉や妹が見つかると、現時点では混乱を招くからだ。
別に梓の妹枠が危ぶまれるとか、くだらない理由ではない。すでに妻だし。
かつて梓も、この遊びは友達とやった。一致する人はいなかった。
梓は両親がはっきり分かっているが、父親は義務で精子提供もしている。どこに姉妹がいても不思議ではない。
いたずらっ子のように笑うメイちゃんから、メモを渡された勇太。
「休憩中とか、人がいないとこで見て下さいね」
この、兄妹探しゲーム、メイちゃんのクラスで最近流行っているそうだ。
メイちゃんの友達も勇太と話すきっかけが欲しくて、同じメモを手渡した。
すると、カフェのお客さんにもオーダーを取ったとき、同じようなメモを渡されて20枚くらいたまった。
◆
勇太は梓と一緒にカフェの控室で休憩している。
「うわあユウ兄ちゃん、メイちゃんを皮切りに一気に番号が集まったよね」
「これって、どういう意図かな、梓」
「まあ、女子が男子に渡すときは、普通はあなたと結婚は可能ですかってことだよ」
「ええ、まずくない」
「ははは、今回は遊びの延長みたいなもんだから、深く考えなくていいよ」
「そっか・・」
1枚目のメモを開いた。
常連のミキさん。『Z52H397Q』とあった。もちろん勇太の姉ではない。
枚数も多いし、勇太と同じ番号の最初が『F』のやつだけに絞った。2枚あった。
1枚目は、高3の理系女子でユウナさん。すごく頭がいいから、勇太は最初から自分とは姉弟ではないと思っていた。
もう一枚を見た。メイちゃんのやつだった。
「お、Fから始まって32も一緒だ」
「へえ~」
「・・・・」
顔色が変わって、動揺した勇太を見て、梓はいきなり嫌な予感がした。
「まさか、ユウ兄ちゃん・・」
「梓、メイちゃんの番号『F321A19P』だ」
今世の、遺伝子的な妹を発見してしまった。




