78 カオルの意地
いよいよインターハイも最終日。
100人近い選手を前日に16人に絞った。
4回勝てば各階級の個人戦で優勝だ。
カオルはあっという間に2戦を勝利して準決進出。不知火、フクオカのライバルも勝ち残った。
次は実力伯仲の岡山代表フクオカハナオ。
先に準決勝を戦った不知火は、岩手代表を転がして押さえ込み敢行。ベスト4の戦いさえ、一本勝ちで勝利を収めた。
いよいよカオルVSフクオカ。
さっきから江戸テレビのカメラが勇太達の方に向けられているが、気にしないことにした。
そして女子もたくさんいた。こちらは勇太&カオル、または勇太ファミリーを見に来た子もいる。ハンサム女子・不知火マイコを見に来た子もいる。
遠くに茶薔薇の桜塚部長もいるのを確認している。他の試合場もフル稼働。
だけど色んな意味で注目の存在がいる、ここ第2試合会場前の2階観覧席は、人口密度が桁違いなのだ。
「カオル・・」「がんば・・・」
「カオルちゃーーーーん!」
「わ、梓、すごい気合。歓声の中でも声が通っている」
「おし、俺らも負けずに応援すんぞ」
ファミリーの中で1番冷静な梓がすごい。やっぱりカオルと梓は、前世の勇太の世界と次元を越えた赤い糸でつながっている。そんなことを疑ってしまう勇太だ。
「開始!」
まず組み手争いは互角。どちらもボクシングのジャブのような手数で相手の襟をつかみに行く。
しかし、先に掴んだのはカオル。パワー差を生かして強引に詰め寄った。
「うしゃっ」「はいっ」
最初のカオルの攻撃は軽く防がれた。フクオカも隙がなく瞬時に寝技に持ち込もうとしたが、カオルは素早く逃れた。
「すげえ攻防だ」
「カオルって、やっぱりすごい」
「・・カオルちゃん」
ポイントなしの攻防が続いて4分。カオルがつかまった。
襟を取られ、右の内股を食らいそうになった。それを無理に踏ん張って左手で帯を取って無理に引っ張った。
「ぐやおああああああ!」
「カオルちゃーん!」
梓が張り上げた声と同時にカオルが競り勝った。どんっと音とともに、相手を倒した。
技ありだった。
これで決められなかった。そして勇太には見えてしまった。
強引な投げを放ったカオルは、ギリギリまでフクオカの帯をつかんでいた。うまく左腕を抜けなかった。ねじったまま、フクオカの腰に潰された。
その状態で寝技の攻防に入った。
寝技ではフクオカに優位に立たれた。明かに、カオルは左腕を痛めている。
「カオルーー!」
勇太の声のニュアンスが変わった。すでにカオルの負傷を感じ取っていた子もいたが、雰囲気が伝播した。
「カオルちゃん・・カオルちゃーん!」
カオルはギリギリで寝技から逃れた。
「勇太、祈ろう」
「・・ああ、カオル、頑張れ」
「お願い、早く終わって」
時間はあまり残っていない。だけどカオルは負傷、そして相手は実力者。簡単に時間稼ぎなんてできない。
カオルは手負いのまま攻撃に出た。前世の今川薫と同じく退路を作らないタイプ。
勇太は胸が熱くなった。
ルナには静かな愛を感じる。梓には家庭的な母性を感じる。
そのどちらとも違うけど、間違いなくカオルも好きだ。
勇太自身には備わっていない多重愛。だけどこの体にはインストールされている。
体力はあるけど、思ったほど性欲がないパラレル勇太の体。やはり乗り移った元の体の素養を受け継いでいる。
ルナが1番好きなのは間違いないけれど、梓にはそのままでいいと言われた。
梓とカオルの心が強い結びつきを持ったと分かって、2人を一緒に愛そうとしてくれる勇太が好きだ。そう言われた。
重婚をして例えば10人の妻を娶る。全員を均等に愛するなんて聖人にしかできない。カオルには笑われた。
心を軽くしてくれる、みんなが好きだ。勇太はそう思えた。
カオルが綺麗だ。
勇太は無言でカオルを凝視している。右手でフクオカを投げに行った。左手は緩い。
返された。右横に倒されて有効を取られた。
そのまま押さえ込まれた。万事休す。このまま30秒で逆転負けになる。
しかし・・・
ビーーーー。カオルが押さえ込まれて10秒で試合終了を告げるブザーが鳴った。
この世界では、この時点で試合は即終了。有効で止まった。
カオルが技あり、フクオカが有効ふたつ。カオルは優勢勝ちした。
勝ったが、カオルはふらふらで起きて礼をした。そして1時間半後の決勝戦に備えるため、自分たちの休憩ブースに戻った。
勇太が駆けつけた。ルナ、梓も遅れて続いた。
「はあっ、はあっ」
仲間に左腕をテーピングしてもらうカオルがいた。
「カオル」「カオル」「カオルちゃん」
「おう、応援ありがとな。あと1試合で頂点だ・・」
カオルの目を見た。絶対に棄権する気はない。
「怪我も自己責任だ。不知火さんだって、去年は脱臼した指を強引に戻して優勝した、泣き言はいえねえ」
思った通り、カオルは止められない。だから勇太は止めないことに決めた。




