338 伊集院君、襲来
世界柔道の最終日。
今日の勇太は伊集院君と一緒に仕事だ。
勇太に弟子入りした男子3人はパラレル市に戻った。
時田ユウキ君のハーレムは、3日目にハラダヨシノと同じ69キロ級を見終わったし、最終のリニアで帰った。
ヤマモトタロウは彼女3人と、こちらで一泊した。
メイちゃんとゲンジも泊まった。
ご飯を食べながらホテルを予約していると聞いて勇太は、前世的なお兄ちゃんモードになってしまった。
「メイちゃん、ゲンジ、中学生なのに一緒に泊まるのは早くない?」
「かなあ…。高校と違って中学には男女特別室がないから、ゲンジ君とセッ●スする場所に困っちゃって…。えへへ」
「セ●クス?」
「うん。勇太お兄ちゃんのお陰で、ゲンジ君と正式に彼氏彼女になれたでしょ。高校受験が終わった日にゲンジ君の家で私が襲って初エッチしたの」
「襲って?」
ルナ、麗子、純子、他の女子も『おめでとー』と言っている。
「どっちの家でシテも、家族に冷やかされるから、今日はホテルに泊まってみようって、ゲンジ君と話したんだ」
えへへ、と悪びれずメイちゃんが笑っている。
勇太兄さんのおかげ、とかゲンジが言っている。
確かに勇太自身が2人の仲を後押しした。そして大人しいメイちゃんも肉食女子。
後押しされたら即結合かよ!
そんな世界だと勉強した。だけど、今回に限っては感覚が追い付かない。
メイちゃんの口から『ゲンジ君とセ●クス』のセリフ。勇太は梓から聞いたとき以上にショックを受けた。
◆◆
最終日の朝。勇太は来場者を歌で迎える純子&風花、プラス中戸明日香とともに、武道館入り口近くにいる。
そこに、美女な伊集院君が現れた。
女装して外国人選手に紛れたつもり。
「伊集院く~ん、おはよ。それって変装なのかな」
「おはよう伊集院君。目立ってるよ、変装になってな~い」
「あれ、バレた? おはよう勇太君、ルナ君」
「あはは、オーラ出過ぎ」
「いやあ~、驚かせようと思ったのに失敗」
リムジンから颯爽と現れるのではなく、勇太のように自然に登場したかった伊集院君。駅前から変装して歩いてきた。
だけど目立つ。銀のロングヘアカツラにサングラス。183センチのスーパーモデル風。
プラス和服、毛皮のコートの婚約者ふたり。さらに護衛役として勇太に付いているルナとは違う、本職の匂いしかしない護衛官が5人。
「仕方ない。ここで披露するか」
コートを脱いだ。
『おお~、伊集院君、あのコスチュームは』
『勇太君に合わせたんだ』
『純白……』
勇太、ルナと同じ詰め襟白い学生服を作って着てきた。身長175センチ~180センチの伊集院護衛官5人も同じ服装だ。
護衛の中に勇太が知る顔もあった。茶薔薇学園の元柔道部長・桜塚ハルネだ。
この人も勇太が産まれた海辺の街の出身。そこには伊集院君の政略婚約者の家が経営するホテルがある。
里帰りしたハルネと、パーティーに招かれて海辺の街に行った伊集院君が偶然に会って話をした。
意外とリズムが会って、アルバイトを探していたハルネに護衛の仕事を頼んだそうだ。
戦闘力はお墨付きだ。
今日は57キロ級、72キロ級と、81キロ超級が行われる。選手団は、すでに武道館内で控えている。
伊集院君は、勇太と共に柔道の盛り上げ役として意気込んでいる。
「そろそろ、スタンバイの時間かな勇太君」
「57キロ級のハナダヨウコさんが第三試合だから、まだ余裕あるよ」
「光輝さん、私は運営関係者へのご挨拶に参ります」
「私も放送関係者のとこに顔出すね」
「じゃあ、僕は勇太君と一曲…」
「ダメですよ」
「周囲をご覧なさい、光輝さん」
今、伊集院君や勇太がいる武道館入り口は大渋滞。
入館したお客さんが、伊集院君を見に来て自分の席に向かわない。
「…いきなり失敗」
「おほほ、光輝さんたら」
「ふふふ」
という訳で、みんな自分の配置に着いた。
伊集院君は、勇太と動き回っている。
本来なら、男子護衛官の仕事を増やさないためにも、インタビューブースを設置して中にいるべき。
伊集院君も、この男女比1対12で育った男子。これで関係者の警備態勢に面倒ごとを増やしたのは分かる。
けれど、初めての友人と一緒に仕事をするため、我がままを言った。
こういう面を見せて好感度は上がった。
彼は全国にファンクラブ員がいる超人気者。めったに人前に出てこないのに全国10万の会員がいた。
それが、勇太と関わりだして表に露出する機会も増えてファンクラブ員は倍増している。
勇太はパラ校3年の剛田先輩が作った非公式ファンクラブがある。
根がモブな勇太が公式は恥ずかしいから、設立は断っている。
だけど剛田の元に集まった希望者は1万を超えている。
◆
今日は試合を終えた日本人選手を、勇太と伊集院君ではさんで、2人でインタビューしている。
早くも準決勝が終わり、57キロ級のハナダヨウコが勝ち上がった。
「うっしゃ!」
決勝進出の喜びメインだけど、人気男子ふたりにはさまれる期待も大きい。
このハナダは19歳のお調子者。前の4試合のインタビューで、優しくて冗談も通じた勇太に、今回はイタズラを仕掛けた。
「勇太君、隙あり」
「甘いですよ」
軽い背負い投げを仕掛けられると条件反射で反応する勇太。
背中から腰と足に手を回し、久々に女子を人前で抱え上げてしまった。
「あ…」
「勇太君、そのまんまインタビュー始めようか」
鬼塚一子に、会場を盛り上げてくれるなら、色々とやっていいと言われている。
「おっけ~」
「ではハナダ選手、決勝進出おめでとうごさいます」
「は、はい、ありがとうごさいます」
ハナダは少し後悔している。変則お姫様抱っこは嬉しい。
だけど視界には、選手関係者の怖い顔が見える。
ひときわ鋭い眼光を向けてくるのは、57キロ級の決勝で戦うアメリカのナンシーカネデイ。
いや、それだけでなく味方のはずのコーチや仲間も般若のような顔になっている。
日本大会なのに、アウェー感バリバリだ。




