334 マイコつれてくにゃ
これから、世界柔道63キロ級の決勝が始まる。
48、60キロ級の決勝戦は終了していて、勇太の呼び出しの仕事。
「それでは63キロ級の決勝戦です。日本代表、元松サオリ選手」
「おう!」
「ブラジル代表、マルシア・コスタ選手」
「イエ~イ、ユータ」
残念ながら、日本人同士の決勝とはならなかった。
不知火マイコは準決勝で、ブラジル代表のマルシアに負けて同率3位の銅メダル。
もう1人の日本代表、ミタムラマナミは準々決勝で敗退なので、今回は日本人で2番目の成績。
しかし、マイコもミタムラも同じマルシア選手に負けている。
マイコがミタムラを破った選手に勝っていれば、1年半後の五輪出場に大きく前進しているが、今のところは評価に差はないだろうと関係者に教えてもらった。
それは大事だが、勇太は国際大会でも人気だ。
48キロ級は世界ランキング1位のシライ選手が勝って、普通に勇太がインタビューして終了した。
しかし60キロ級で優勝したジャンヌ選手は、勇太のインタビューを受ける前に飛びついてきた。
勇太も高校柔道で何度も経験しているし、気軽にハグで受け止めてしまった。
「wao~~エクセレンス!」
「ジャンヌ選手、おめでとうございます!」
「ハ、ハイ、アリガドデ~ス」
その後は顔を真っ赤にして、しどろもどろになって母国語で質問に答えていた。
ジャンヌ選手は頬骨が高めのフランス美女。きつい目元は女子からクールビューティーとして国内で人気。しかし勇太と会って、不知火マイコが初めて勇太を見たときのようになっている。
外国でも現役のスポーツ女子は男子免疫が少ない。
63キロ級はエース元松の優勝。自分を律して普通にインタビューに答えた。
次に75キロ級で優勝した日本のフジイ選手は、勇太にハグを求めた。
「勇太君ありがと~」
「おめでとうございま~す」
27歳でも可愛い女性だから、頼まれたままに手を繋いでインタビューに入った勇太だ。
「あ、格好つけないで、私もやってもらえば良かった…」
「私もだ…」
元松、シライの両選手が呟くシーンはあったが、初日は無事に終了した。
◆
本日はマイコまで入れて勇太ファミリー12人が集合している。
世界柔道は残り3日。
仕事で来ている勇太、ルナ、純子、それに明日、明後日のゲスト解説者で呼ばれているマイコも残るけど、あとのメンバーは夜になったら帰る。
なので全員で夕食に行くことにした。
マイコは日本選手団と泊まる。
マイコ自身はまだ正式には勇太ファミリーではないからと、自分で線引きはしている。
選手団と行動を共にする予定だった。けれど、ファミリーを代表して長谷川キヨミがマイコを拉致しにきた。
本当は気が小さいくせに、ファミリーのために勇気を出した。
連盟会長の鬼塚一子のところ乗り込んでマイコの手を引っ張った。
選手団、ギャラリーに注目されて緊張し、「マイコ、連れてくにゃ」と猫語になってしまった。
勇太と拾ってきた子猫を育て始めたことは、ネット上に流れている。なんとなく、代表と関係者をほっこりさせた。
「おおキヨミちゃん。今日だけは時間の余裕もあるぞ。行って来いマイコ」
最近は張り詰めすぎたマイコを見てきた鬼塚やコーチは、快く送り出してくれた。
「け、けれど私はまだ…」
「マイコは11番目、10番の言うこと聞くにゃ」
珍しく多めに喋るキヨミだ。
妹キャラだけど、マイコには強気に出るキヨミ。最近は、何かと連絡を取り合っている。
「いくにゃ~~」
「あはは、分かったよ、キヨミちゃん」
「キヨミにゃ、マイコ」
「ああ、そうだね、キヨミ」
かなり注目される中、王子様なマイコはさらわれた。その笑顔に、ドキンとする女子もいる。
◆
嘉菜&真子で予約していた中華料理店にみんなで待っていた。
「よし、マイコさん連れてきたな、キヨミ」
「さすがキヨミ」
「にへ」
カオル、麗子に褒められ笑顔のキヨミだ。
「マイコさん、来てくれてよかったっすね。ナイスキヨミ」
「新顔の私達も揃って、ファミリー全員で初のご飯ですよ~」
マルミ、タマミもテンションが高い。
試合前はマイコの集中力を乱さないように、静かに応援してくれた。
終わってみると、世界柔道銅メダルのお祝いをしてくれる。
きっと1回戦で負けていても、こうやって何かしてくれていただろうと思うマイコだ。
マイコは五輪のため、北海道で色んな物を捨ててパラレル市に来た。孤独の戦いを覚悟していたが、程よく癒してくれる人ができて嬉しく思っている。
「とりあえず乾杯だな。梓、音頭頼む」
「うん。じゃあマイコさん、試合後でお疲れのところ、来てくれてありがとうございます。今後も応援しますから、頑張って下さい。かんぱ~い」
「ありがとう、みんな。乾杯」
もちろん、目撃者もたくさんいる。
けれどハーレム見物を期待して来た人には何か変な光景だ。
麗子が聞いている。
「マイコさん、唐揚げは塩と醤油、どっちがいい?」
「え~と、塩かな」
「今度、パラ体大に持ってくね。食べてよ」
キヨミも珍しく饒舌だ。
「猫派、犬派?」
「私は猫が好きだよ」
「猫次郎、連れてく」
「ああ、大歓迎さ」
「ん」
これでも饒舌です。
普段は交流が少ない真子や嘉菜も色々と話している。
ルナは乾杯のビール1杯で寝てしまった。すごく酒に弱いくせに、鍛えるためにと言って、たまに飲んでいる。
みんなでマイコのことを知ろうとしている。勇太の嫁、というよりファミリーの一員として迎え入れようとしている。
「マイコさん、キヨミ」
「なに勇太君」
「ん?」
「あ~ん」
ぱくっ、ぱくっとエビチリをふたりの口の中に放り込んだ。
驚くマイコだけど、フッと笑った。
「勇太君、びっくりするじゃないか。私はまだ、キミの不意打ちに慣れてないんだよ」
「あはは」「ふふふ」
みんなで笑った。ルナは寝ている。
マイコは、世界柔道で日本人3人の中で1番の好結果という目標を達成できず、少し気持ちが沈んでいた。
何もなければ、夜もどこかで走るつもりでいた。
明らかなオーバーワーク。
そこを察してファミリーで強引に連れ出して、気持ちのリセットをしてもらうことにした。
正式には1年半後までマイコは勇太と何の関係もない。けれど、これからはガンガンと、特にキヨミが関わり出す。




